医療的ケア児支援法が改正され、2027年(令和9年)4月1日から施行されます。改正法は2026年7月31日に公布されました。
最も大きな変化は、支援の対象が18歳以上の人や重症心身障害者にも広がることです。長く「18歳の壁」と呼ばれてきた問題に、法律が正面から向き合った形になります。
ただし、施行までにはまだ時間があります。
この記事では、医療的ケア児支援法がそもそもどんな法律なのかを整理したうえで、2027年4月から何がどう変わるのか、そして施行後も残る課題は何かを解説します。医療的ケアが必要なお子さんやご家族、支援に関わる方は、ぜひ参考にしてください。
1.医療的ケア児支援法とは?2027年4月から対象が変わります
1-1.現行の正式名称と、改正後の新しい題名
現行法の正式名称は「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(令和3年法律第81号)です。2027年4月1日以降の題名は「医療的ケア児等及び重症心身障害者並びにそれらの家族に対する支援に関する法律」と変わります。
それを簡潔に「医療的ケア児支援法」と呼び、新聞やWEBサイトにもそのように記載されることが多いようです。
どんな法律なのか。それは、第一条を読むと分かります。
この法律は、医療技術の進歩に伴い医療的ケア児が増加するとともにその実態が多様化し、医療的ケア児及びその家族が個々の医療的ケア児の心身の状況等に応じた適切な支援を受けられるようにすることが重要な課題となっていることに鑑み、医療的ケア児及びその家族に対する支援に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、保育及び教育の拡充に係る施策その他必要な施策並びに医療的ケア児支援センターの指定等について定めることにより、医療的ケア児の健やかな成長を図るとともに、その家族の離職の防止に資し、もって安心してこどもを生み、育てることができる社会の実現に寄与することを目的とする。
引用元:医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律(令和3年法律第81号)|厚生労働省
複数行にまたがる長い一文ですが、分解すると、法律を制定することで達成したい目的、達成するために取る手段、成立の背景が分かりやすくなります。
1-1-1.目的:何を実現したいのか
- 医療的ケア児の健やかな成長を図るとともに、その家族の離職の防止
- 安心してこどもを生み、育てることができる社会の実現
医療的ケア児本人の成長だけでなく、その家族への支援についても言及されています。離職防止、つまり「家族の生き方の選択肢を増やそう」という趣旨の文章が法律に明記されたことは、大きな価値だという声もあります。
1-1-2.手段:どう実現するのか
- 医療的ケア児とその家族に対する支援に関し、国、地方公共団体等の責務を明らかにする
- 保育及び教育の拡充にかかる施策、その他必要な施策、医療的ケア児支援センターの指定を法律で定める
医療的ケア児への支援が国・地方公共団体の「責務」とされています。この法律により、自治体が支援に取り組まざるを得ない状況が作られました。
また、この法律ができたことによる具体的な変化が、「医療的ケア児支援センター」の設立です。これについてはのちほど、『2.医療的ケア児支援法で何がどう変わったの?』で触れていきます。
1-1-3.背景:なぜ法律が作られたのか
“医療技術の進歩に伴い医療的ケア児が増加するとともにその実態が多様化し、医療的ケア児及びその家族が個々の医療的ケア児の心身の状況等に応じた適切な支援を受けられるようにすることが重大な課題”だった。
医療的ケア児の増加と、それに伴う生活の多様化。少し漠然としていますので、ここをもう少し掘り下げて見ていきましょう。
1-2.医療的ケア児支援法はなぜ成立したの?

在宅で暮らす医療的ケア児(0〜19歳)は、2025年時点で21,496人と推計されています。20年前の2005年は9,987人でしたので、この20年で約2倍に増えました。
とくに変化が大きいのが人工呼吸器を使用するこどもで、2005年の264人に対し、2025年は6,521人です。医療的ケア児が増えただけでなく、より重度のケアを必要とするこどもが在宅で暮らすようになったことが、支援体制の整備が急がれる背景にあります。
参照:医療的ケア児の現状について|医療的ケア児等とその家族に対する支援施策|こども家庭庁
気管切開などの手術をしなければならなかった子、口から栄養をとれず経管栄養チューブを入れなくてはいけなかった子など、命を救うために医療的ケアが必要になって在宅生活を始める子たちとその家族は、退院した瞬間に様々な困難と対峙します。
まずは疲労感です。24時間子供のケアが必要な場合もあるため、親は慢性的な睡眠不足となり心身に疲労がたまります。
そして孤独感、孤立感。体力的に限界を迎えても頼る場所が少なく、家族だけでケアを担わなくてはいけない方もいます。医療的ケア児の預け先がないなどの理由で、離職を余儀なくされ社会的に孤立していると感じる方も。
働く選択肢をなくしたことによる、経済的な不安も生まれます。
せっかく助かった命なのに社会に受け皿がなく、家族だけで抱えなければいけないという状況を変え、社会全体で支える仕組みを作るために整備されたのがこの医療的ケア児支援法です。
2.【2027年4月1日施行】医療的ケア児支援法の改正で何が、いつから変わるのか

改正法は2026年(令和8年)7月31日に公布され、2027年(令和9年)4月1日から施行されます。つまり、この記事の公開時点ではまだ現行法が適用されており、変更が実際に動き出すのは2027年4月からです。
変更点1|支援の対象が「18歳以上」と「重症心身障害者」に広がります。
現行法の対象は医療的ケア児(原則18歳未満、高校生等を含む)。
改正後は「医療的ケア児等」として、医療的ケア児だったが18歳になった後も継続的にケアが不可欠な人、ケアが不可欠で自立した生活が困難な状態にある人が加わります。
あわせて「重症心身障害者」(重度の知的障害と重度の肢体不自由が重複している人)も対象になります。
変更点2|基本理念に「18歳に達した後も切れ目なく」が明記されます。
18歳に達した後も、切れ目なく保健医療サービスと福祉サービスを受けながら、希望する地域で生活を営めるようにすることが基本理念に加わります。
居住する地域による支援の格差の是正も、引き続き基本理念に位置づけられます。
変更点3|支援センターを指定都市・中核市・特別区も設置できるようになります。
現行は都道府県が設置主体。改正後は指定都市、中核市その他の政令で定める市、特別区も設置できます。
相談の対象も広がり、進行性の疾病がある人なども含まれます。
変更点4|レスパイトや通学の支援が施策として位置づけられます。
日常生活の支援として、一時的に預かるレスパイト、通学の支援、同じ立場の家族同士が支え合うピアサポートが明記されます。
変更点5|就労支援と住居の確保が新たに加わります。
一人ひとりの状況に応じた就労の支援体制づくりと、住まいを確保するための居住環境の整備が施策に加わります。
変更点6|災害時の個別避難計画づくりに支援センターが関わります。
支援センターの業務に、個別避難計画の作成への協力と、災害時に市町村と連携して情報を提供することが加わります。
変更点7|「医療的ケア児等支援地域協議会」が新設されます。
関係機関や当事者が集まって地域の支援体制を協議する場が置かれ、協議の結果を尊重する義務が定められます。
【新旧比較表】
参照:法律の概要(改正法)|医療的ケア児等とその家族に対する支援施策|こども家庭庁
2021年に施行された現行法によって、すでに動き出している変化もあります。
①保育を行う体制の拡充
②教育を行う体制の拡充
③日常生活における支援
④相談体制の整備
⑤情報の共有の促進
以上の5項目です。
参照:『医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律(令和3年法律第81号)』第二章|厚生労働省
医療的ケア児が一人で保育園や学校に通うことは、とても難しいことでした。日常的に必要な医療的ケアができるのは、看護師や介護福祉士などの有資格者に限られるからです。
実際行政機関の窓口などで相談しても「受け入れできるところがない」「人員が確保できない」といった理由で断られてしまうケースもあります。
そのため親が自宅で見るしかなかったり、親が付き添いをして通園・通学したり、ということも珍しくありません。
そういった状況を改善するために、医療的ケア児支援法では、必要な人員を配置して保育、教育を受けられる環境づくりをするとしています。(上記①、②に該当)
子供の保育、教育環境を整えることにより、この法律の目的のひとつでもある「親の離職防止」にもつながることが期待されます。
また、医療的ケア児支援センターが設立され、医療的ケア児の支援について、ワンストップで相談できる場所ができたことも、大きな変化です。(上記④に該当)
今までは困ったことや必要な支援があったとしても、病院、役所、施設、事業所など、関係機関それぞれに保護者が直接問い合わせる必要がありました。
関係機関でも、すべての人が医療的ケア児について詳しいわけではないため、時にはたらい回しにされたり、同じことを何度も説明しないといけなかったり、必要な支援にたどり着けないということも。
その状況を改善するために期待されているのが、医療的ケア児支援センターです。
保護者から相談を受けたら、必要に応じて関係各所への連絡や保護者との橋渡し、施設への研修など総合的にサポートしてくれます。
このように支援内容を法律で定め、医療的ケア児のための環境整備が努力義務から法律上の「責務」となったことで、各施設や行政機関が積極的に環境整備に取り組むことが期待されています。
3.改正法後も残る懸念点

2027年4月の改正で、18歳を過ぎた後の支援は法律上の対象になりました。ただし、法律が対象を広げることと、地域に実際の受け皿ができることは別の問題です。
生活介護事業所で医療的ケアに対応できる割合や、預かり時間の長さは、施行後の各自治体の取り組みに左右されます。
3-1. 18歳の壁:法律は変わっても、受け皿はこれから
改正前、医療的ケア児支援法の対象は、原則18歳未満(高校生等を含む)でした。
特別支援学校の高等部を卒業した時点で「医療的ケア者」となり、利用できる福祉サービスが大きく変わります。
この切り替わりが、「18歳の壁」と呼ばれる問題です。
就学中は「学校」と「放課後等デイサービス」の2拠点が日中の居場所となり、保護者はその間に就労を続けることができます。
しかし卒業後は放課後等デイサービスが原則利用できなくなり、日中の活動は「生活介護」や「重度訪問介護」へ切り替わります。
生活介護事業所で医療的ケアに対応できるのは全体の約2割にとどまり、居場所を失った結果、親が再び離職を迫られるケースも珍しくありません。
また、預かり時間の「短縮」も大きな障壁です。
高校卒業までは放課後等デイサービスにより夕方まで支援が受けられましたが、成人後の生活介護施設は15時〜16時頃に閉所する場所が多く、「18歳を境に親が短時間勤務への変更や離職を余儀なくされる」という声が絶えません。
医療面にも壁があります。
就学中は小児専門病院がかかりつけですが、成人後は自分で新たな病院を探す必要があり、複合的な疾患を理由に複数の病院から受け入れを断られる事例も報告されています。
この課題に対し、京都市ではこどもから大人まで4つの福祉施設を1か所に集約した「洛和ケアセンターととのう」(2025年開設)が、品川区では生活介護の時間延長事業者への運営費助成制度が始まるなど、先進的な取り組みが広がりつつある状況です。
法律の附則にも「施行後3年を目途に検討」とあり、今後の制度見直しが期待されます。
3-2. 災害時の備え:電源の確保と個別避難計画
人工呼吸器やたんの吸引器など、電源が命綱となる医療的ケア児にとって、災害時の停電は命に直結する問題です。
2021年の災害対策基本法改正により、避難行動要支援者の個別避難計画の作成が市町村の努力義務となりました。
「どの段階で・どこに・誰の支援で避難するか」を事前に決めておく計画ですが、医療的ケア児が防災計画上の要配慮者として明確に位置づけられていない地域もあり、未策定のまま放置されているケースも多いのが現状です。
停電対策としては、以下の順で電源確保を検討することが推奨されています。
内部バッテリー(医療機器に内蔵されているもの)
外部バッテリー(ポータブル電源など)
車のシガーソケットからの給電
発電機(屋外で使用)
ただし個人で十分な設備を揃えるには経済的負担が大きいため、自治体の非常用電源貸出制度があるかどうかも確認しておきましょう。
また、こども家庭庁が運用する「MEIS(医療的ケア児等医療情報共有システム)」への登録も災害への備えになります。
常用薬やケア内容、主治医情報などを事前に登録しておくと、災害時や救急搬送時に搬送先の医療機関が患者情報を閲覧できる仕組みです。
登録は無料ですが、登録者は約406名と全国約2万人の医療的ケア児に対してまだごくわずか。
まずは、主治医に「MEISに登録したい」と相談してみてください。
参照:MEIS|こども家庭庁
改正法では、支援センターの業務に個別避難計画の作成への協力が加わるので、引き続き見守っていくことが必要です。
3-3. 地域格差:住む場所による支援の差
医療的ケア児支援法は「居住する地域にかかわらず」適切な支援を受けられることを基本理念に掲げています。
しかし現実には、住んでいる場所によって受けられる支援に大きな差があるのが実態です。
たとえば、医療的ケア児を受け入れている保育所等の割合は都道府県ごとに大きく異なります。
滋賀県では施設全体の7.0%が受け入れている一方、調査時点で受け入れ施設がゼロという県もあったことが報告されています。
支援センターも全都道府県に設置が完了しましたが、9割以上が令和4年度以降の設置で取り組みは始まったばかりです。
令和7年3月の調査では、「相談支援・助言」はおおむね実施されている一方で、「関係機関との連携調整」や「情報提供・研修」が十分でないと認識しているセンターが多いことが明らかになっています。
格差の根本にあるのは、看護職員の不足です。
医療的ケア児を保育園や学校で受け入れるには看護師等の配置が不可欠ですが、人材そのものを確保できない地域では、受け入れ体制を整えたくても整えられません。
保護者としてまずできることは、お住まいの都道府県の医療的ケア児支援センターに相談することです。
支援法により自治体の支援が「責務」と明記されたことは、交渉の場で大きな根拠になります。
思うような対応が得られない場合も、支援センターやコーディネーターを介して粘り強く働きかけていくことが、地域の支援体制を前に進める力になります。
改正後は指定都市・中核市・特別区もセンターを設置できるようになるため、身近な場所に相談窓口ができる可能性があります。一方で、看護職員の不足という根本的な課題は、法律だけでは解消されません。
参照:医療的ケア児等とその家族に対する支援施策|こども家庭庁
4.全国の医療的ケア児支援センター一覧
全国の医療的ケア児支援センターの一覧をまとめました。
連絡先を記載しているので、もし悩むことがあれば対象の都道府県の全国の医療的ケア児支援センターまでご相談ください。
※1 基本は 平日 9時から17時、一部のセンターでは電話相談のみ時間を延長している場合あり
※2 本人・家族だけでなく、保育園・学校・事業所などの支援者からの相談も受け付けている
5.医療的ケア児支援法の改正に関するよくある質問
【Q1】医療的ケア児支援法の改正は、いつから始まりますか。
2027年(令和9年)4月1日から施行されます。改正法は2026年7月31日に公布済みです。
【Q2】18歳を過ぎたら支援は受けられないのですか。
現行法の対象は原則18歳未満ですが、改正後は18歳に達した後も継続してケアが不可欠な人が対象に含まれます。
【Q3】重症心身障害者も対象になるのですか。
なります。
重度の知的障害と重度の肢体不自由が重複している人が、改正後の対象に加わります。
【Q4】相談したいときはどこに行けばよいですか。
お住まいの都道府県の医療的ケア児等支援センターです。
2027年4月以降は指定都市・中核市・特別区にも設置できるようになります。
【Q5】家族以外がたんの吸引などを行える範囲は広がりますか。
改正法では、国と地方公共団体が講ずる施策に医療的ケアの提供方法の見直しに関する事項が位置づけられました。ただし具体的にどこまで広がるかは今後の検討によります。
6.まとめ

医療的ケア児の支援は自治体の責務とし、「家族の離職防止」「安心して子供を生み育てられる社会」の実現を目指す。
この法律がアップデートされることは、医療的ケア児とその家族にとっては喜ばしい出来事かもしれません。
ただし、状況はすぐに改善されるわけではないので、改正後も見守っていくことが大切だと言えそうです。
実は筆者も未就学の医療的ケア児を育てているのですが、ここ数ヶ月の間、保育園探しと入園後の支援を獲得するために奔走していました。自治体と話し合いを重ねる必要もあり、たくさんの時間と労力を要しました。
まだ環境は整っていないのだなと身をもって実感しています。しかし、その中でも医療的ケア児支援センターの存在価値や、「支援法ができたから」と強気で交渉してくれる支援者さんの心強さを感じることもできました。
「法律ができたのに、まだ整っていない」というもどかしさと、「法律ができたから、少し良くなっている」というありがたさ。
今は、そのどちらも存在する中間地点なのかもしれません。
すべての医療的ケア児とその家族が望む生活を実現できるように、今後の変化に期待し、見守っていきたいですね。







