「宿泊施設をバリアフリー化したいが、どの補助金が使えるのか分からない」「申請しようとしたら、すでに公募が終わっていた」という経験はないでしょうか。
2026年9月現在、観光庁の令和8年度ユニバーサルツーリズム促進事業は公募を終了していますが、自治体には今から申請を検討できる制度もあります。例えば、東京都では、宿泊施設のバリアフリー化を支援する補助金を2027年3月31日まで募集しています。
本記事では、宿泊事業者が利用できる観光庁・自治体の補助金や、申請時期、注意点を解説します。自治体の制度を確認しながら、次回の国の公募にも備えましょう。
1. 自社(旅館・ホテル・簡易宿所)は補助金の対象になる?
令和7年度補正予算「観光地・観光産業におけるユニバーサルツーリズム促進事業」(令和8年度実施)では、宿泊事業者の場合、2026年3月1日時点で旅館業法第3条第1項に規定する許可を受けている事業令和8年度の観光庁補助金者が補助対象です。個人事業主・法人のいずれも対象となります。
旅館業法では、旅館・ホテル営業、簡易宿所営業などが定められているため、簡易宿所営業の許可を受けた民宿やゲストハウスも、基準日などの要件を満たせば申請を検討できます。
施設の規模だけで判断せず、まずは自社の営業許可と許可を受けた時期を確認しましょう。
なお、同事業では宿泊事業者のほか、2026年3月1日時点で観光施設を所有または運営する「観光事業者」も補助対象事業者に含まれています。
参照:令和7年度補正予算 観光地・観光産業におけるユニバーサルツーリズム促進事業 公募要領|観光庁
参照:旅館業法|e-Gov法令検索
2. 国(観光庁)の補助金、今使えるものはある?
今後のバリアフリー改修を検討している宿泊事業者にとって、次回の公募に備えて制度の内容を把握しておくことは重要です。ここからは、令和8年度の公募内容をもとに、対象となった改修や補助率・上限額を確認したうえで、直近の公募時期から次回に向けた情報収集のタイミングを整理します。
2-1. 観光庁の中心的な制度「ユニバーサルツーリズム促進事業」とは
観光庁の「観光地・観光産業におけるユニバーサルツーリズム促進事業」は、高齢者や障害者などを含む多様な旅行者が利用しやすい環境づくりを支援する制度です。令和8年度の補助対象は、①施設改修、②客室改修、③備品購入の3区分です。施設改修は共用部、客室改修は宿泊施設のみが対象となります。備品購入では、貸出用車椅子や折り畳み式スロープなどが想定されています。
ただし、備品は原則として1品あたり税抜50万円未満で、備品購入だけで申請することはできません。施設改修または客室改修と組み合わせて申請する必要があります。
補助率は補助対象経費の2分の1です。補助上限額は、自治体と防災協定を締結する宿泊事業者かどうかによって、次のように異なります。
注目すべきは、自治体と防災協定を締結しているかどうかで、1施設あたりの補助上限額が3,500万円異なる点です。
なお、同一の事業者が申請できるのは3施設までです。申請を検討する際は、自社や加入する組合が自治体と防災協定を締結しているかも確認しておきましょう。
また、申請枠や上限額は年度によって変更されるため、申請時には最新の公募要領を確認する必要があります。
参照:令和7年度補正予算 観光地・観光産業におけるユニバーサルツーリズム促進事業 公募要領|観光庁
2-2. 直近の公募実績と、次の公募に備えるタイミング
「観光地・観光産業におけるユニバーサルツーリズム促進事業」は、補正予算を財源として実施されているため、毎年同じ時期に公募されるとは限りません。直近2回の事業者向け公募は、次の時期に実施されました。
直近2回はいずれも春に公募されていますが、次回も同じ時期になるとは限りません。令和7年度補正予算では、事業者向け公募に先立って事務局の公募が行われました。
次回に備える場合は、2月頃から観光庁の公募情報を定期的に確認しておくとよいでしょう。
なお、2次公募は必ず実施されるわけではありません。令和7年度補正予算の事業者公募ページにも、2次公募については申請状況をみて実施の有無を検討する旨が記載されています。
参照:「観光地・観光産業におけるユニバーサルツーリズム促進事業」の事業者公募のお知らせ|観光庁
参照:令和7年度補正予算「観光地・観光産業におけるユニバーサルツーリズム促進事業」に係る事務局を決定しました|観光庁
参照:令和7年補正予算「観光地・観光産業におけるユニバーサルツーリズム促進事業」の事業者公募開始のお知らせ|観光庁
3.【今すぐ確認できる】都道府県・市区町村のバリアフリー化補助金
国の公募が終了していても、自治体独自の補助制度を利用できる場合があります。たとえば東京都では、令和8年度「宿泊施設バリアフリー化支援補助金」を実施しており、2027年3月31日まで申請を受け付けています。ただし、補助金申請額が予算額に達した時点で受付を終了します。
補助対象は、施設整備・客室整備・備品購入・実施設計及びコンサルティングです。補助率と上限額は施設の延べ床面積や整備内容によって異なります。代表的なものを整理すると、次の通りです。
たとえば、補助率9/10が適用される1,000万円の改修では、補助額は900万円、事業者負担は100万円です。ただし、補助率9/10や上限9,600万円には、出入口の有効幅や整備する客室数などの条件があります。
東京都では、宿泊施設の課題や要望に応じて専門家が助言する無料の「宿泊施設バリアフリー化促進に関するアドバイザー派遣」も実施しています。改修内容や設備について検討する段階で活用できます。
参照:宿泊施設バリアフリー化支援補助金|公益財団法人東京観光財団
参照:宿泊施設のバリアフリー化支援事業|東京都産業労働局
東京都以外の自治体でも、宿泊施設のバリアフリー化を支援する制度があります。自社の地域で利用できる制度を探す際は、全国の補助金・助成金を検索できる「補助金ポータル」を活用すると、候補となる制度を探しやすくなります。
参照:補助金ポータル
ただし、ポータルサイトの情報だけで判断するのではなく、候補を見つけたら、必ず自治体の公式サイトで申請可否を確認してください。自治体によっては制度がない場合もあります。
4. 補助金を申請する際の基本的な流れ・注意点

4-1. 申請前に必要な準備
まずは、改修したい場所と内容を整理し、利用する補助制度の対象になるかを確認します。自治体によっては、申請前の相談が必須です。
たとえば令和8年度の札幌市宿泊施設バリアフリー化補助事業では、建築士による窓口相談が必須とされており、改修内容や整備基準について相談できます。図面や写真、改修計画図、資材のカタログ、見積書などを持参すると、具体的な相談を進められます。
設計者や施工業者とも相談しながら、工事内容を確定する前に補助対象となる改修かを窓口で確認しておきましょう。
参照:令和8年度札幌市宿泊施設バリアフリー化補助事業|札幌市
また、観光庁の令和8年度事業では、施設改修だけでなく接遇研修の実施も要件の一つです。 指定された研修ツールなどを用いた研修を実施し、実施を証明する書類を提出する必要があります。
さらに、事業を開始できるのは交付決定後です。交付決定前に発注・契約・工事などをを始めることはできません。次回の公募を見据えて、改修箇所の洗い出しや施工業者への相談、接遇研修などを進めておきましょう。
参照:令和8年度実施 観光地・観光産業におけるユニバーサルツーリズム促進事業|観光庁
参照:令和7年度補正予算 観光地・観光産業におけるユニバーサルツーリズム促進事業 公募要領|観光庁
4-2. 対象外になりやすい工事・経費
バリアフリー化を目的とした工事であっても、すべての費用が補助対象になるわけではありません。
観光庁の令和8年度事業では、新築・増築・改築や、一度建物を取り壊して再建する工事は原則として補助対象外です。ただし、駐車場へのバリアフリートイレの新設や敷地内への貸切風呂の新設など、付帯施設については例外として認められる場合があります。
また、中古の設備・機器、法令や条例によって義務付けられている整備、過去に観光庁のバリアフリー化促進事業を利用した箇所の再改修なども対象になりません。
「バリアフリー化に関係する費用だから対象になる」と判断せず、見積もりや契約の前に公募要領や手引きを確認することが大切です。
参照:令和7年度補正予算 観光地・観光産業におけるユニバーサルツーリズム促進事業 公募要領|観光庁
4-3. 国と自治体の補助金は併用できる?
国と自治体の補助金を併用できるかは、それぞれの制度によって異なります。国と自治体が別の制度だからといって、必ず併用できるわけではありません。
たとえば三重県の令和8年度「インバウンド・ユニバーサルツーリズム・観光防災推進補助金」では、同一の工事について、観光庁「観光地・観光産業におけるユニバーサルツーリズム促進事業」をはじめとする国の事業や、他の自治体の事業に採択されている、または採択される予定の場合は申請できません。
複数の補助金を検討するときは、同じ工事や経費が重複申請に該当しないか、申請前に公募要領や窓口で確認しましょう。
参照:令和8年度インバウンド・ユニバーサルツーリズム・観光防災推進補助金の公募を開始します|三重県
参照:令和8年度インバウンド・ユニバーサルツーリズム・観光防災推進補助金 交付申請マニュアル ③バリアフリー・ストレスフリー対応|三重県
4-4. 補助金を活用した改修事例

貸切風呂エリアでは車椅子利用者が通行しやすい廊下の確保や床の補強、浴槽周辺の段差解消などを行いました。 改修にあたっては、バリアフリーツアーセンターや設計士、大工と打ち合わせを重ねながら、整備内容を検討しています。
このように、バリアフリー改修では、設備を導入するだけでなく、実際の利用場面を想定しながら、施設の特徴に合った改修方法を検討することが重要です。
参照:令和7年度「観光地・観光産業におけるユニバーサルツーリズム促進事業」優良事例集|観光庁
5. バリアフリー化は「設備」と「心」が揃って効果を発揮する
宿泊施設のバリアフリー化では、段差の解消やスロープ、バリアフリートイレなどの設備を整えるだけでなく、利用者一人ひとりの状況に応じた対応を考えることも大切です。
内閣府の「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」でも、施設・設備などのハード面に加えて、職員への研修などソフト面の環境整備を進めることが重要とされています。
参照:障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針|内閣府
5-1. 心のバリアフリーを掛け合わせると、効果はさらに高まる
設備を整えていても、実際の利用場面では想定していなかった使いにくさが生じる場合があります。
筆者も車椅子利用者を介助した際、店舗の入り口にスロープは設置されていたものの、傾斜がきつく、車椅子を押して上ることに負担を感じた経験があります。さらに、入り口のドアが重く、車椅子を支えながら一人でドアを開けて入店することにも難しさを感じました。
このように、設備が設置されていても、実際の利用場面では別の困りごとが生じる場合があります。利用者に必要なサポートを確認するなど、当事者や介助者の視点を取り入れ、設備と接遇の両面から環境を整えることが大切です。
観光庁では、配慮を要する宿泊者一人ひとりの特性に応じたサービスの提供に向けて、宿泊事業者向けの接遇研修ツールを公開しています。
心のバリアフリーについては、以下の記事でも詳しく紹介しています。
5-2. バリアフリー化は、スタッフの負担軽減にもつながる
バリアフリー化は、利用者が施設を利用しやすくなるだけでなく、スタッフがその都度行っている個別対応の負担軽減にもつながる取り組みです。
内閣府の「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」では、施設・設備のバリアフリー化や情報アクセシビリティの向上、職員研修など環境の整備を行うことで、その都度の合理的配慮が不要になる場合があり、中・長期的なコストの削減や効率化にもつながるとしています。
宿泊施設でも、段差を解消したりスロープを設置したりすることで、車椅子利用者が移動するたびにスタッフが介助する場面を減らせる可能性があるでしょう。また、客室や浴室の設備、通路幅、段差の有無などをWebサイトで事前に伝えておけば、利用者が自分で利用できる施設かどうかを判断しやすくなります。スタッフ側も問い合わせに対応する際の情報を共有しやすい環境になるでしょう。
実際に、先に挙げた「大村屋」では、改修前は段差がある場所でスタッフが車椅子を持ち上げて対応していました。スロープの導入後は、利用者だけでなく介助するスタッフ側の負担軽減にもつながっています。
利用者の利便性だけでなく、日々の業務でスタッフにどのような負担が生じているかという視点から改修箇所を検討することも一つの方法です。
参照:障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針|内閣府
参照:申請の流れおよび各種資料|観光庁
参照:令和7年度「観光地・観光産業におけるユニバーサルツーリズム促進事業」優良事例集|観光庁
6. よくある質問
ここでは、宿泊施設のバリアフリー化に活用できる補助金について、よくある疑問をまとめます。補助率や対象要件、公募時期は年度や制度によって異なるため、申請時には最新の公募要領を確認してください。
Q1. 補助率・補助上限額はどのくらいですか?
令和8年度の観光庁事業では、補助率は補助対象経費の2分の1で、上限額は通常1,500万円、自治体と防災協定を締結する宿泊事業者は5,000万円でした。最新年度の公募要領も確認してください。
Q2. 小規模な旅館や簡易宿所でも補助金を利用できますか?
要件を満たしていれば、申請を検討できます。令和8年度は、2026年3月1日時点で旅館業法第3条第1項の許可を受けている宿泊事業者が対象とされました。
Q3. 国と自治体の補助金は併用できますか?
利用する制度によって異なります。同一の工事や経費について国と自治体の補助金を重複して利用できない制度もあるため、双方の公募要領を確認してください。
Q4. 観光庁の次回公募はいつですか?
2026年9月23日時点で、次回の事業者向け公募時期は公表されていません。次回も同じ時期に実施されるとは限らないため、観光庁の公募情報を定期的に確認しましょう。
7.まとめ
2026年9月現在、観光庁の令和8年度事業は公募を終了しています。
一方、自治体では独自のバリアフリー化支援制度を設けている場合があります。国の次回公募を待つだけでなく、まずは自社の自治体で利用できる制度がないか確認してみましょう。
あわせて、改修箇所の洗い出しや施工業者への相談、接遇研修などを進めておけば、次回の公募にも備えやすくなります。
バリアフリー化では、設備を整えるだけでなく、実際に利用する人の視点やスタッフの接遇も重要です。「設備」と「心」の両面から環境を整え、より多くの人が利用しやすい宿泊施設づくりにつなげていきましょう。







