障害と向き合う挑戦者 【社会のバリアを失くすものづくりを目指す】有限会社であい工房 代表 矢賀優さんが描く未来とは?

【社会のバリアを失くすものづくりを目指す】有限会社であい工房 代表 矢賀優さんが描く未来とは?

有限会社であい工房 代表 矢賀優さん

足が不自由な方にとって、車椅子は必要不可欠な存在です。しかし、障害によって既存の車椅子を利用できないことも、しばしばあります。

そんな困りごとに向き合い、オーダーメイドの車椅子を製作する会社があります。

今回は、有限会社であい工房・代表の矢賀さんに取材をさせていただきました。矢賀さんは、作業療法士の資格を持ち、製作の技術力に専門的な視点を併せることで、ユーザーにとって本当に良いものづくりをされています。

中小企業ならではの取り組みや、一人ひとりに寄り添ったものづくりへかける想いなども語っていただきました。

車椅子に興味のある方はもちろんのこと、ものづくりに携わる全ての方へ届けたい内容ですので、ぜひ最後までご覧ください。

1.有限会社であい工房ってなに?

広島県廿日市市にある有限会社であい工房は、1979年に創業し、今年で43年目を迎えます。

身体障害児・者を対象に、車椅子や座位保持装置といった「補装具」と呼ばれる福祉機器を一人ひとりに合わせてオーダーメイドしている工房です。

身体を適切に支えることで良好な座位姿勢を保持する「シーティング」という技術を専門とし、既製品の提供からオーダーメイドまで幅広く対応されています。

このように、であい工房では多様な姿勢保持のニーズに応えられる技術と柔軟性を強みとしています。

参照:「有限会社であい工房」


有限会社であい工房のここがスゴい!

であい工房では、オーダーメイドで個人に対応できる技術力だけでなく、それによって培ったノウハウも他社にはない魅力です。

ユーザーの声と経験をもとに開発した座位保持装置や立位保持装置などの自社製品を、代理店を通じて全国へ届けています。

また、ユーザーの多様なニーズに応えられるよう、国産製品から海外製品まで幅広く取り扱っています。

車椅子や座位保持装置といった補装具は、福祉制度を利用することで金銭的負担を抑えて購入することが可能です。であい工房では、制度利用のサポートもしています。

オーダーメイドにこだわるわけ

有限会社であい工房で製造している車椅子や座椅子

身体障害者と一括りにしても、身体の状態や生活の在り方はそれぞれ異なります。であい工房では、身体に合わせて細かに微調整を繰り返し、世界にたった一つの車椅子や座位保持装置を作っています。

また、納品後もメンテナンスや身体に合わせた変更など、細かくアフターフォローをされているとのことです。

これほどまでにオーダーメイドにこだわる理由は、仕事の価値にあります。

お客様のニーズは、身体の状況によって様々なものがあります。既製品の福祉用具は年々充実してきてはいるものの、すべてのユーザーに当てはまるとは限りません。

だからこそ、オーダーメイドの技術は重要とのことです。

そうしたユーザーに対して細やかに対応し、可能性を少しでも大きく拡げるためのサービスを提供できる、それがであい工房の仕事の価値だといいます。

2.代表 矢賀優さんってどんな人?

であい工房は矢賀さんが二代目で、先代のお父さんが創業されました。そのため、幼少期は会社の事務所で暮らしていたこともあったそうです。

しかし、幼い頃から車椅子に興味があったわけではありません。当時の夢はロケットを作ることでした。

高等専門学校で機械工学を学び、そのまま大手機械メーカーに就職して、機械設計やアフターサービスのため海外の企業を回るなど、社会人として順風満帆な日々を過ごしていました。

そんな時、先代から声をかけられ、であい工房への入社を誘われたのです。

当時は結婚もしたばかりで公私共に充実していたため、すぐに答えは出なかったそうです。しかし「いつか自分が継ぐのだろう」と考えていたそうで、就職から8年が経った時、ついに決心し退職します。

であい工房で働くなら専門的な知識を持つべきと先代に勧められ、退職から4年間、大学で作業療法を学びました。であい工房に入社する準備期間とはいえ、その時間はとても恵まれていたと振り返ります。

そして卒業後、であい工房に入社し、矢賀さんにとって新しいモノづくりが始まったのです。

3.モノづくりへかける想い

車椅子利用者と話し合う有限会社であい工房 代表 矢賀優さん

これまで大手機械メーカーで機械製品に携わってきましたが、車椅子は未知の世界だったといいます。

しかし、やりがいはすぐに感じられました。

これまでは指示通りに機械を設計し、エンドユーザーの反応を感じることは多くありませんでした。

一方、車椅子や座位保持装置を作る過程ではエンドユーザーと密に向き合います。自分たちで手作りしたものを使って喜んでもらえて、感謝の言葉をもらえること。それが、作り手にとって一番のやりがいだといいます。

そして、矢賀さんがこうしたモノづくりをする上で、「自分の子供ならどうするか」が一つの指標になっているそうです。

つまり、ユーザーの身体や生活にとって本当に適したものだろうか、自分が親や家族の立場だったら何に重きをおくだろうか、専門的に見て他に必要性が高いことはないだろうか、といった点に考えを巡らせるということです。

例えば、車椅子の役割の一つに姿勢の保持があります。しっかり姿勢保持をすると、身体の安定が得られて見た目もよくなる反面、動きが制限されたり痛みの原因になることもあります。

重度障害を抱え、自分で痛みを訴えることができないユーザーも多いため、表面的には見えにくいリスクにも配慮して作ることを意識しているそうです。

4.代表 矢賀優さんが描く未来とは? 

車椅子を調節する有限会社であい工房 代表 矢賀優さん

2021年9月、入社から7年が経ち、矢賀さんはであい工房の二代目社長となりました。

立場が変わり、改めて会社の存在意義や業界全体のあるべき方向性を考えるようになったそうです。

最後に、今後の目標について伺いました。

これまでは、地元広島を拠点にさまざまなユーザーの声に応えてきました。これからは、であい工房の長年培ってきた技術・製品を海外に出してみたいといいます。

しかし一番大切なのは、であい工房が創業以来続けてきた、ユーザー一人ひとりのニーズに応えるサービスの継続と質の向上とのことです。

原点は、福祉機器を介して地元の身体障害児・者の生活を支えること。そのために、目の前の小さな声を拾い、丁寧に応える仕事を積み重ねていくことが目標だとおっしゃいます。

障害者のバリアを解決する製品を、矢賀さんは今日も作っています。

5.最後に

今回の矢賀さんの記事はいかがだったでしょうか?

筆者も車椅子ユーザーであり、であい工房にお世話になっている1人です。普段は物静かな矢賀さんですが、取材を通して心の中にある熱い想いを伺うことができました。

オーダーメイドの車椅子制作は広島県西部から山口県東部と限られていますが、気になった方はぜひ相談されることをおすすめします。

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