障害と向き合う挑戦者 「誰もが同じ目線で楽しめる場を」車椅子生活の経験を活かし、新たな可能性に挑戦する牧野美保さん

「誰もが同じ目線で楽しめる場を」車椅子生活の経験を活かし、新たな可能性に挑戦する牧野美保さん

牧野美保さん

「立たない立ち飲みバル」というユニークな発想で、障害の有無に関係なく、誰もが同じ目線で楽しめる場所づくりを実現している牧野美保さん。5歳で横断性脊髄炎を発症し車椅子生活となった経験から、「当たり前」を少し変えることで生まれる可能性を追求し続けています。

今回は、学生時代から現在に至るまでの経験と、全国各地で反響を呼んでいる「立たない立ち飲みバル」への想いについて伺いました。

1.牧野美保さんってどんな人?

1-1.病気の発症と学生時代の気づき

学生時代の運動会での牧野美保さん

【インタビュアー(ライター):赤石/インタビュイー:牧野美保さん

赤石:横断性脊髄炎を発症されたきっかけを教えていただけますか?

牧野さん:5歳の時に自宅の玄関で転んだことがきっかけでした。症状的には脊髄損傷と似ているのですが、元々体内にあったウイルスが転倒をきっかけに発症したのではないかと言われています。数ヶ月の検査入院を経ても、明確な原因は特定できませんでした。

赤石:発症当時のことは覚えていらっしゃいますか?

牧野さん:当時の記憶は全くありません。写真や家族の話を通して、幼少期のことを知るという形です。ただ、周りの支えがあったからこそ、前向きに過ごすことができました。

赤石:学校生活での思い出を聞かせていただけますか?

牧野さん:一般校で学ぶ中で、多くの発見がありました。小学校時代は車椅子でできないことへの申し訳なさがありましたが、友達と一緒に工夫しながら過ごしました。

例えば、体育の授業でも、みんなで知恵を出し合ってできる方法を考えていました。先生方も柔軟に対応してくださり、むしろ楽しい思い出として残っています。

中学・高校と進むにつれて、自分の個性として車椅子生活を受け入れられるようになりました。周りの理解もあり、障害を特別視することなく、一人の生徒として過ごすことができました。


1-2.10年の社会人生活から感じた、自分らしい生き方

赤石:就職されてからの経験についてお聞かせください。

牧野さん:最初は一般事務の仕事をしていました。10年ほど事務職を経験する中で、土日休みで定時に終わるため、完全にプライベートと仕事を分けられる生活を送っていました。

仕事自体はとても充実していましたが、30歳を超えたあたりから、自分の可能性についても考えるようになりました。

赤石:どのような気づきがありましたか?

牧野さん:週40時間のフルタイムの事務職が、自分にとって本当にベストなのだろうかと考え始めたんです。当初は満足していた働き方でしたが、自分らしい生き方、特に車椅子での経験を活かせる何かができるのではないかと思うようになりました。


2.「立たない立ち飲みバル」誕生秘話

立たない立ち飲みバルでグラスを片手に持った牧野美保さん

赤石:立ち飲みバルを始めたきっかけを教えてください。

牧野さん:会場のオーナーさんとの出会いが大きなきっかけでした。

立ち飲み屋に行くと、車椅子で過ごす私にとって、テーブルの高さや目線の違いなど、普段は気にならないことが気になってしまう。「全員が同じ目線で楽しめる場所があれば面白いのに」という何気ない会話から始まりました。

最初は本当に思いつきのような話でしたが、オーナーさんが「やってみよう」と場所を提供してくださり、実現することができました。

赤石:実際に開催してみていかがでしたか?

牧野さん:想像以上の反響がありました。

特に印象的だったのは、お客さんから「2時間ずっと座って同じ目線で楽しんで、最後に立った時に違和感があった」という感想をいただいたことです。普段当たり前だと思っていたことが、ちょっとした環境の変化で、新しい気づきになる。

そんな体験の場を作れているのかなと感じました。

赤石:大阪のフランス料理店で始めて、現在は大阪以外でも開催されているそうですね。

牧野さん:はい。沖縄や北海道など、全国各地で開催させていただいています。各地域で「こんな場所が欲しかった」という声をいただき、来年は5回以上の開催を目指しています。

大切にしているのは、ドリンクを作るスタッフも車椅子ユーザーにすることです。車椅子ユーザーでも接客業ができるということをリアルに見ていただける機会にもなっています。そういった気づきをきっかけに、さまざまな障害を持ってる方の働き方について、柔軟になってもらえたら嬉しいです。


3.可能性を広げる場所づくりへの挑戦

雑踏の中にいる牧野美保さん

赤石:イベントを通じて見えてきたことはありますか?

牧野さん:普段抱えている違和感や障害を、体験を通して理解していただけることの大切さを実感しています。

例えば、発達障害の方でも、環境が変わることでコミュニケーションの取り方が変わってきます。誰もが心地よく過ごせる場所というのは、ちょっとした工夫や視点の変化で実現できるのではないかと考えるようになりました。

赤石:今後の展開についてお聞かせください。

牧野さん:立たない立ち飲みバルを全国で開催することで、より多くの方との出会いを創っていきたいです

ただ、それぞれの地域の特徴や車椅子の手配など準備の大変さもあります。でも、その分やりがいも大きく、各地域で新しいつながりが生まれています。

将来的には47都道府県での開催をしていきたいです!

そうやって展開することで、飲食店を経営している方に向けて「車椅子の人が働ける」という可能性を伝えていきたいと思っています。


4.これから挑戦したい人へのメッセージ

海辺にいる牧野美保さん

赤石:最後に、一歩を踏み出せずにいる方へメッセージをお願いします。

牧野さん:なかなか一歩が踏み出せない気持ちはよく分かります。

私自身、ずっと事務職を続けることも選択肢としてありました。

でも、「やってみたい」という気持ちを誰かに話してみるところから始めると、意外と道は開けてくるものです。

周りには応援してくれる人が必ずいます。まずは自分の「好き」や「やってみたい」を言葉にしてみることから始めてはいかがでしょうか。

その一言が、新しい可能性につながるかもしれません。


5.まとめ

取材を通じて印象的だったのは、牧野さんの「当たり前を少し変えてみる」という視点です。

立ち飲み屋での違和感を、むしろ新しい体験の場に変えてしまう発想の転換には、目からウロコでした。

また、全国各地での開催を目指す姿勢からは、一人でも多くの人に新しい気づきを届けたいという強い想いが感じられました。

「立たない立ち飲みバル」は、単なるイベントを超えて、私たちの「当たり前」を優しく問い直してくれる場所なのかもしれません。

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