聴覚障害がある方にとって、普段の生活の中で不便に感じるシーンが多いものです。
そこで、聴覚障害をサポートしてくれるサービスやアプリを活用することで、QOLを高めることが可能です。
では、具体的にどのようなサービスやアプリが存在するのでしょうか?
本記事では、聴覚障害のある方に便利なサービスやアプリを紹介します。
聴覚障害がある方のコミュニケーションをサポートしてくれるものを厳選して紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
1.コミュニケーションにおける困り事を解決するサービス・アプリの必要性
聴覚障害を持つ方にとって、最も困るのがコミュニケーションを取りにくい点です。
健常者同士であれば、容易に言葉でコミュニケーションが取れるものの、聴覚障害を持つ人の場合は言葉が聞こえないため以下の手段を用いてコミュニケーションを取る必要があります。
- 手話
- 筆談
- 読話
- 補聴器
- 音声認識
自分の都合だけでなく、相手の状況や好みなどを合わせつつ最適な方法を組み合わせなければなりません。
例えば、聴覚障害者の中で手話を使える人の割合は、全体の1割から2割程度しかいないとされています。
また、健常者となるとさらにその割合が低くなるため、手話でコミュニケーションを取ることはかなりハードルが高いものです。
さらに、筆談についても話すよりも文字を書くことの方が時間がかかるため、より細かなコミュニケーションを取るのには向いていません。
事業者目線で見ても、障害のある人に対する合理的配慮の提供が2024年4月1日より義務化されたことで、聴覚障害を持つ人の困難を解消するため、過重な負担とならない範囲で合理的配慮を提供する必要があります。
以上のことから、聴覚障害を持つ人とのコミュニケーションに対して、困り事を解決できるサービスやアプリに対するニーズが高まっていると言えます。
2.日常生活で使える便利なサービス・アプリ6選

2-1.日本財団電話リレーサービス「ヨメテル」
日本財団電話リレーサービスが提供している「ヨメテル」は、通話している音声を文字起こしして視覚的に確認できるサービスです。
24時間365日、双方向での利用が可能で、緊急通報機関への連絡にも使用できます。
法律に基づいた公共インフラとしてのサービスであり、110(警察)や119(消防)、118(海上保安庁)でも利用可能です。
電話のかけ先や目的に応じて、文字起こしする方法を文字入力オペレーターとAI(自動音声認識)から都度選択できるメリットもあります。
ヨメテルには、以下2つのプランがあり自分の利用するシーンに応じて最適なプランを選択できます。
月額料なしプラン | 月額料ありプラン | |
月額料 | 無料 | 178.2円/月 |
通話料(固定電話着) | 16.5円/分 | 5.5円/分 |
通話料(携帯電話着) | 44円/分 | 33円/分 |
ヨメテルの登録も簡単で、オンライン上で本人確認書類を認証できる場合はすぐに登録が完了し、専用アプリを導入することで利用開始できます。
全国の携帯ショップなどで、ヨメテルの講習会が行われているなどサポート体制も充実しています。
2-2.電話リレーサービス
電話リレーサービスとは、NTT東日本・西日本が提供している通訳オペレーターが、手話や文字と音声とを通訳してくれるサービスのことです。
通訳オペレーターが対応するサービスであるため、精度が高くより信頼を置いて利用できるメリットがあります。
また、個人だけでなく企業や自治体、医療機関などの機関でも利用しているなど、さまざまなシーンで活用されています。
2025年4月ご利用料分から2026年3月ご利用料分までは、電話リレーサービス料として1番号あたり1.1円/月(税込)で利用できるため、大きな負担をかけずに利用できる点が魅力です。
2-3.iPhone機能「サウンド認識」
聴覚障害者向けの特別なサービスを使用しなくても、スマートフォンの標準機能を用いればコミュニケーションを取ることは可能です。
iPhoneでは「サウンド認識」機能があり、聴覚障害者が周囲の音に気づきやすくするために活用できます。
サウンド認識機能の設定は非常に簡単であり、「設定」 >「アクセシビリティ」>「サウンド認識」と選択して「サウンド認識」をONにするだけで完了です。
サウンド認識では、デフォルトで以下の音声を認識して通知させることが可能です。
- 火災報知器
- サイレン
- 煙感知器
- 猫
- 犬
- 電気器具
- 車のクラクション
- ドアベル
- ドアのノック
- ガラスの割れる音
- やかん
- 水の出しっ放し
- 赤ちゃんの泣き声
- せき
- 叫び声
さらに、ドアベルやサイレンは別途設定できたり、カスタムアラーム機能で特定のサウンドを覚え込ませて同じように通知させたりすることもできます。
iPhoneだけでなく、AppleWatchにも通知させることができるため便利です。
自分の身に危険が及びそうな場合に、サウンドを認識して通知することで被害を防止できる機能としてぜひ活用しましょう。
2-4.Googleアンドロイド機能「音検知通知」
Androidスマートフォンでも、「音検知通知」機能があります。
しかし、iPhoneとは異なり標準設定の機能ではなく、全てのAndroidスマートフォンにアプリがインストールされているわけではありません。
よって、別途アプリをインストールする必要があります。
音検知通知機能を使用すれば、以下のサウンドを認識した場合に、通知の受け取りが把握可能です。
- 煙・火災警報
- サイレン
- 赤ちゃんの声や音
- イヌの吠え声
- ノックの音
- ドアホンのベル
- 家電の音
- 水の流れる音
通知方法がバイブレーションだけでなく、カメラのフラッシュを用いて視覚的にも分かりやすく工夫されている点は魅力的です。
参照:音検知通知: 周囲の重要な音に関する通知を受け取る|Google
2-5.身の回りの音を認識し、ユーザー通知するアプリ「Sound Display」
スマートフォンのOS向けの標準機能以外でも、一般的なアプリで音声認識して通知するものが存在します。
その代表例が「Sound Display」であり、日常生活や就労環境をより良くするための音の見える化アプリとして人気を博しています。
AIやスマートデバイス、クラウドに関連する技術をフル活用しており、より精度の高い音声認識を実現しているのが特徴です。
プリセット音として、以下の音声を認識させることができます。
- 緊急地震速報(テレビ)
- 火災報知器
- 緊急車両(パトカー・消防車・救急車)
- インターホン
また、上記以外の音声についても音登録機能により録音・認識させることもできます。
バックグラウンドでアプリを起動させておくだけで認識でき、スタートボタンを押した後に他のアプリを使用したりロック画面に戻したりする操作も可能です。
通知機能は、スマートウォッチへ通知させる設定ができ、さらにLED ライトでの通知もできるので視覚的に伝わりやすいメリットがあります。
参照:Sound Display|tdi 情報技術開発株式会社
2-6.誰もが安心に楽しくおでかけを。「コデカケ」
パナソニックが提供している「コデカケ」は、聴覚障害者であっても気持ちに余裕を持って外出を楽しめるように開発されたデバイス・アプリです。
コデカケは、首にかけるネックデバイスと腕に装着するリストデバイスのセットで使用します。
それぞれ、ネックデバイスには後方から接近する車や自転車を検知する役割、リストデバイスにはネックデバイスで検知した場合に振動で通知する役割があります。
よって、2つのデバイスを装着して本来の性能を発揮するデバイスとなります。
ネックデバイスは、レーダー検知により周囲の接近を検知するため、服や髪の毛による遮蔽や天候変化の影響を受けにくいのが特徴です。
コデカケでは、ゼンリンデータコムが開発に協力している専用のスマートフォン地図アプリを導入することで、道案内を受けることもできます。
これは、道幅や交通量、歩道の広さなどの条件を十分に考慮した安全なルートを複数提案してくれるので、安全に目的地まで移動するためのサポートを受けられます。
ルートを設定すれば、アプリ画面に矢印の方向指示が表示されると同時に、リストデバイスの振動により通知させることも可能です。
これにより、スマートフォン画面だけに集中しなくても良いので街の風景を楽しみつつお出かけを楽しめるメリットもあります。
参照:コデカケ 聴覚障害者向け外出支援デバイス|パナソニック
3.オンライン・オフラインの会話を視覚化するツールやアプリ3選

3-1.みんなの会話を視覚化するツール「VUEVO」
ピクシーダストテクノロジーズが手掛ける「VUEVO」は、みんなの会話を視覚化できるツールとしておすすめです。
VUEVOは、ワイヤレスマイクとスマートフォンアプリ・ウェブアプリなどを組み合わせて使用します。
独自技術により開発された精度の高いワイヤレスマイクを採用していることで、複数人で会話する場合や会議などの場で、発話内容を360°全方向より収音可能です。
発話した内容をリアルタイムに発話者の方向に対して表示できるので、聴覚障碍者の方でも容易に発言内容を確認できます。
複数人の会話内容を直感的に理解できるように、インターフェースが工夫されているので誰でも簡単に活用できる点も魅力です。
AIを活用した自動要約機能があるため、会議の議事録の作成が可能です。
VUEVOは主にビジネスシーンで活用されており、大成建築や三井不動産マネジメントなど、特に建築関連の業界で多く導入されている実績があります。
また、VUEVO Displayと呼ばれる、翻訳透明ディスプレイとセットで利用すれば、対面で会話する際にスムーズなコミュニケーションを取ることが可能であり、主に窓口業務で活用されています。
参照:VUEVO Display |ピクシーダストテクノロジーズ
3-2.リアルタイム音声認識アプリ「YYProbe」
リアルタイム音声認識アプリ「YYProbe」は、自動車部品メーカーとして有名な株式会社アイシンが自社開発したアプリです。
株式会社アイシンは、自動車部品の主要部品をほぼ網羅する開発力が魅力の企業であると同時に、近年ではAIやIoTを活用したデジタル技術の活用にも力を入れており、YYProbeにもノウハウが余すところなく注入されています。
YYProbeは、チャット風の画面で音声認識により会話を楽しむことができます。
笑い声もしっかりと「(笑)」に変換するなど、より自分の感情を文字で表して親身にコミュニケーションを取れる点は魅力です。
また、音を繰り返しレコーディングすることでデータベースを構築して分析することも可能です。
さらに、文字だけでなく画像や動画も投稿することができます。
YYProbeは22カ国の言語に対応しているため、ホテルチェーンである東急ステイの全店舗に導入されており、主に海外の方とのコミュニケーションにも活用されています。
3-3.コミュニケーション支援・会話の見える化アプリ「UDトーク」
「UDトーク」は、音声認識による文字起こしや自動翻訳などの機能があるコミュニケーションサポートアプリです。
UDトークのUDとは、ユニバーサルデザインの略称であり、障害の有無や能力差などを問わずに利用できることを目指したアプリとなります。
音声認識できるだけでなく、音声合成が可能であり喋る機能が追加されている点が大きな特徴です。
よって、視覚障害者と聴覚障害者との間でUDトークを介してコミュニケーションを取ることも可能です。
入力方法は、音声だけでなくキーボードや手書きなどにも対応しており、スムーズなコミュニケーションを取るためのサポートを受けられます。
ひらがな変換機能があるため、利用者の学習レベルに応じて漢字の利用制限を行えます。
UDトークは、スマートフォン用アプリだけでなくウェアラブルデバイスやARデバイスなどでも利用できるため、より幅広いシーンで活用できるサービスです。
4.「聞こえる!」を叶える補聴媒体2選

4-1.TH-1105
補聴器メーカーとしてメジャーなリオネットが提供しているTH-1105は、珍しいメガネ型の補聴器として知られています。
補聴器の場合、どうしても耳がふさがって使い心地が悪いと感じるケースがあります。
メガネのツルの部分を振動させ音を伝えるTH-1105は、閉塞感がなく、快適です。
また、メガネとしての利用が可能であり、補聴器を付けていることを周囲にあまり知られたくない人にも向いています。
アナログボリュームが付いているので、音量も容易に調整できる特徴もあります。
4-2.Vibone nezu 3
Vibone nezu 3は、正確には補聴器ではなく集音器であり、聴覚障害者向けではありません。
しかし、一般的な集音器とは異なり骨電動により収音できるデバイスとしておすすめです。
骨伝導タイプのヘッドホンは比較的多く存在するものの、Vibone nezu 3の場合は耳穴に振動子を装着する方式を採用している骨伝導イヤホンとして、非常に珍しいものです。
Vibone nezu 3を利用することで、今まで聞こえにくかった音声が聞こえるようになったなど、驚きの声が多数寄せられています。
これは、独自のSSDD TMと呼ばれるデバイスを使用しているためです。
収音したものをしっかりと伝える能力に長けており、またクリアなサウンドを実現できる点も評価できます。
ノイズリダクション機能やイコライジング機能など、サウンドにこだわりたい人にも向いているデバイスです。
さらに、生活防水機能があるため様々なシーンで利用しやすいメリットもあります。
常設店舗が増えており、試聴会イベントも開催されているのでぜひお試しください!
5.その他、活躍する聴覚障害者向けサービスのご紹介!

5-1.「スポーツの音や雰囲気を可視化するシステム」ミルオト
聴覚障害者の場合、競技観戦においてストレスがかかりやすいと言われています。
それは、現在何が起きているのかが即座に分かりにくかったり、迫力や臨場感が伝わりにくかったりするためです。
「ミルオト」は競技の雰囲気や応援のエネルギーをオノマトペとして捉えて、大型スクリーンなどに擬音として表示させて、これまであまり重視されてこなかったビジュアル的に伝えることができるサービスです。
株式会社アイシンや早稲田大学岩田研究室が技術提供しており、聴覚障害者のメンバーも入って開発が進められています。
現地の聴覚障害者と健常者が一体となって、感動的な競技体験を共有できる点は魅力です。
2025年東京デフリンピックでの導入を目指しており、ぜひ体験してみたいものです!
参照:ミルオト
5-2.駅にあふれる音を視覚的に表現する装置「エキマトペ」
「エキマトペ」は、駅のアナウンスや電車の音などの環境音について、駅のホームの自販機の上に設置した液晶画面で文字や手話、オノマトペの形を視覚的に表現できる装置のことです。
通勤や通学のために、普段利用している駅では多くの音にあふれています。
例えば、電車の発着のアナウンスを筆頭として、チャイムやベルなどで危険を周知しています。
そこで、視覚障害者であっても周囲の状況を音ではなく文字で伝えるエキマトペは貴重な存在です。
エキマトペは、AIを活用して電車の発着音などの環境音やアナウンスの音を識別し、文字や手話、オノマトペのアニメーションにより表示できます。
表示させる内容に応じて、適切なフォントで表示できる点も大きな強みです。
2022年にはグッドデザイン賞を受賞するなど、デザイン性にも優れています。
エキマトペは、正確な情報が文字で見えるため健常者にとっても便利な装置として注目されています。
5-3.専用アプリ不要で、駅構内アナウンスを多言語化・文字化「みえるアナウンス」
「みえるアナウンス」は、駅構内などで放送されているアナウンスを、専用アプリを使うことなく利用者のスマートフォンに多言語により文字表示できるサービスです。
専用アプリを使用して見える化できるサービスはいくつかある中で、東京地下鉄株式会社とヤマハ株式会社が共同で開発した「みえるアナウンス」は、駅構内に設置された専用のパネルであるトリガーボードにスマートフォンをかざす、または QRコードを読み取ることでアナウンスの内容が多言語で表示できます。
駅係員用のアプリである「おもてなしガイド for Biz」を通してアナウンスされた内容が文字で確認できるので、聴覚障害者とって便利なサービスです。
見えるアナウンスは、東京 2025 デフリンピックの開催を見据えて、2025年4月から東京メトロ全駅に順次導入を進められています。
参照:東京メトロ全駅で「みえるアナウンス」を導入|東京メトロ
5-4.聴覚障害者のための求人サービス「グラツナ」
「グラツナ」は、聴覚障害者であっても働ける求人情報が集まるポータルサイトです。
会員登録不要で、様々な求人情報の閲覧と応募が可能です。
通常の求人サイトと異なり、聴覚障害者が欲しい情報をタグで簡単に検索できるので、一般的な求人票で可視化されなかった条件を容易に確認できる便利です。
また、「グラツナポイント」と呼ばれる聴覚障害者が知りたい情報をより詳しく紹介している特徴があります。
さらに、選考方法を明記しているため、求職者と求人している企業が同じ認識を持って求人を進めることができます。
参照:グラツナ|株式会社方角
グラツナについては、以下の記事でも詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
参照:聴覚障害や耳の聞こえない人のための求人サービス「グラツナ(Gratuna)」とは?
6.まとめ
聴覚障害者のコミュニケーションをサポートするツールやサービス、アプリは実に多く存在します。
最近では、スマートフォンの標準機能として実装されるなど、アクセシビリティに配慮したサービスが増えているのは、聴覚障害者にとって喜ばしいことでしょう。
今後も、新しい技術の誕生などによって聴覚障害のある方に便利なサービスやアプリが増えるとみられています。
本記事で紹介した内容を参考に、積極的に取り入れて普段の生活を不便なく送りましょう。