幼少期に発症した筋ジストロフィーにより、次第に歩行が難しくなった鳥越勝さん。
一時は病気を隠し続け、自信を失っていた時期もありました。
しかし30歳を境に「病気だからこそできることがある」と気づき、人生を大きく転換させたのです。現在はYouTubeを中心に発信しながら、「憧れられる存在になる」ことを目指して挑戦を続けています。
目次
1.鳥越勝さんってどんな人?

1-1.幼少期に感じた違和感と診断まで

【インタビュアー(ライター):松村/インタビュイー:鳥越勝さん】
松村:小さい頃は、どんなお子さんでしたか?
鳥越さん:病気がわかる前は、明るくてよくふざけるタイプでした。友達と話すのも好きで、比較的おしゃべりな子だったと思います。
松村:その後、小学校低学年で体に違和感を覚えたそうですね。
鳥越さん:はい。足がすごく痛くなることがあって。でも当時は周りとの違いがわからなくて、みんなそうなんだと思ってました。小学6年生のときに筋ジストロフィーだと診断されたんです。
松村:病気だとわかったときのお気持ちはどうでしたか?
鳥越さん:病気がわかる前は、周囲の大人から理解されず「わがままを言っている」と思われることが多かったです。サッカーでも練習中に痛みで走れないと「さぼっている」と誤解されていました。それが辛かったですね。結局、コーチに怒られ、帰れと言われ、そのままやめてしまいました。
そして小6で「筋ジストロフィー」と診断されたときに、初めて「痛みの原因は病気のせいだったんだ」と理解しました。また、「病気のせいでやりたい好きなことを諦めなければならないんだ」と強く感じたのも、その瞬間でした。
1-2.思春期の葛藤と病気を隠した日々
松村:中学・高校では病気を隠して過ごしたそうですね。
鳥越さん:そうです。運動ができないことが劣等感になって自信を失っていきました。体育の授業中に女子から笑われたこともあり、それが強く記憶に残っています。その頃から女の子と話すのも苦手になってしまいました。
松村:勉強に力を入れたのは、その反動もあったのでしょうか?
鳥越さん:はい。「運動ができても将来は役に立たない」と強がって、自分は勉強して将来成功して、見返してやるんだと頑張っていました。なにくそという反骨心が原動力になっていたんだと思います。でもその経験が、今の自分につながっているという面もあります。
2.30歳で迎えた人生の転機

2‐1.ついに病気をオープンに
松村:30歳の頃に「これからどう生きていきたいか?」と問われたことが転機になったそうですね。
鳥越さん:そのときは全く答えが出ませんでした。病気に捉われて、「運動できないから勉強」「肉体労働できないから別の道」と、常に病気という枠に規定された範囲で物事を考えていたんです。そこから先の人生をどう生きたいかなんて、考えたこともありませんでした。
松村:では、どのように変わっていったのでしょうか。
鳥越さん:3か月くらい経った頃でしょうか。ある日、ふっと「降りてきた」んです。「病気で生まれたことに何か意味があるんじゃないか?」って。まるで閉ざされた扉が開いたような感覚でした。僕自身は「パンドラの箱を開けた」とでもいうか、それくらい強く印象に残っています。
松村:まさに運命的な瞬間だったんですね。
鳥越さん:はい。その瞬間に180度気持ちが変わりました。「病気を隠すより、オープンにして生きよう」と決めたんです。そこから挑戦が広がり、パラグライダーにも挑戦しましたし、YouTubeでの発信も始めました。
2‐2.YouTube「とりすま」と座談会|発信が生んだ繋がり
松村:発信活動はどのように始めたんですか?
鳥越さん:最初はSNSに文章を書いて投稿していただけで、YouTubeをやるつもりはなかったんです。でもある方(現在、一緒にとりすまをたってるイースマイリーの矢澤修さん)から、
「とりちゃんの発信は熱量があってとてもいいから、YouTubeで発信してみないか?」
と勧められて、2019年に始めました。やってみたら思った以上に自分に合っていて楽しいと感じました。
松村:そこで始められたのが「とりすま」ですね。また、同じ病気の方との座談会も運営されていますよね。
鳥越さん:はい。YouTubeとは違って「安心して話せる場」を作りたいと思ったんです。実際に「同じ病気の人に会えて嬉しい」「一から病気のことを説明しなくても伝わる」といった声をいただきます。僕自身も同じような嬉しさや安心感を感じさせていただき、さらに人前で「話す力」や「ファシリテーションのスキル」を磨かせてもらいました。
松村:YouTubeを始めたことで、幼少期の「目立ちたがり屋で話すのが好きだった自分」を思い出したと伺いました。
鳥越さん:そうなんです。病気を隠していた時期は、その気質がすっかり影に隠れてしまっていました。でも発信を始めてから、「やっぱり自分は人前で話すのが好きなんだ」と思い出したんです。まるで幼少期の自分本来の姿を取り戻したような感覚でしたね。
松村:一度失った輝きを再び手にできるって、とても印象的でした。
鳥越さん:はい。病気があったからこそ自信を失ったけれど、病気をオープンにしたことで、本来の自分を再び輝かせることができました。だから今は、自分らしく挑戦し続けたいと思っています。
3.電動車椅子に乗ることで広がった世界

松村:電動車椅子に乗るとき、抵抗はありませんでしたか?
鳥越さん:病気を受け入れていたので、抵抗はほとんどなかったです。むしろ「電動車椅子に乗って街に出ること自体が価値になる」と思いました。実際に乗ることで、社会のバリアが見えるようになりますし、それを発信するだけでも意味があると感じています。
松村:なるほど。電動車椅子に乗ることで、社会の見え方が変わったんですね。
鳥越さん:はい。歩いていた頃は「転ばないように」と常に意識していて、景色を楽しむ余裕なんてありませんでした。でも電動車椅子に乗ってからは安心して移動できるし、人と話しながら移動することもできます。
電動車椅子なので片手が自由になりますしね。車椅子に乗ることで移動に余裕ができいろんな場所に出かけやすくなりました。
松村:電動車椅子は行動範囲を広げてくれる存在になったんですね。
鳥越さん:そうなんです。車椅子は「できないことの象徴」ではなく、「社会に参加するための道具」だと思っています。また、車椅子に乗っていると街の人が車椅子に慣れる機会にもなるし、至る所のバリアが可視化されたりもすると思っています。だからこそ車椅子に乗って街にどんどん出ていくだけでも有意義なことだと思います。
4.未来への挑戦|空を飛び、そして宇宙へ

松村:これから挑戦したいことを教えてください。
鳥越さん:一番の目標は「セスナ機の免許を取って、自分で操縦して空を飛ぶこと」です。そして最終的には「宇宙に行きたい」と本気で思っています。実際に前澤社長の宇宙プロジェクトにも応募したことがあるんですよ。
松村:まさに壮大な夢ですね。
鳥越さん:そうなんです。でも夢って、語らないと始まらないと思うんです。だからこそ、こうして発信していきたい。実際、この夢を話していると自分でも「久しぶりにわくわくしてきた」と感じるんですよ。
松村:わくわく感が伝わってきます。
鳥越さん:加えて、もう一つちょっと面白い夢というかプロジェクトがあって、それが「1年後にバチェラーになるとりちゃん」というもので、理想の彼女をつくり結婚を目指すことをしたいなと。あわよくば障害者版バチェラーが放送されるとしたらそこに出られるようにと(笑)。そんなことにもふざけているようでいて本気で真剣に取り組むのが、僕らしい挑戦なんじゃないかなと思っています。
松村:壮大な夢とユーモラスな野望、その両方を語れるのが鳥越さんらしさですね。
鳥越さん:はい。両方の夢・プロジェクトがそこにつながっていると思っています。かっこいい自分でいて、そして素敵なパートナーを作ることもそうですし、僕が夢に挑戦することで、だれかの夢や目標になる。そんなところを目指して自分らしく「自分の今を生きる」そんな活動を続けていきたいと思っています。
5.読者へのメッセージ

松村:最後に、同じように一歩踏み出せずにいる方へメッセージをお願いします。
鳥越さん:障害や病気があっても、それを活かしてできることは必ずあります。僕自身も「病気だからできない」と思っていた時期がありましたが、オープンにしたことで挑戦の幅が広がりました。
例えば、障害者が自分の力で空を飛んだらどうでしょう。それだけで注目を集めるし、「ぜったいできない」と思われていたことを覆すことになります。挑戦を続ける姿に価値があると思うんです。
大切なのは「何ができないか」ではなく、「どうありたいか」。自分らしい生き方を考えて、一歩を踏み出すことだと思います。僕の挑戦が、そのきっかけや勇気につながれば嬉しいです。
6.まとめ
インタビューを通じてもっとも印象に残ったのは、鳥越さんの原動力の「陰」と「陽」の対比でした。
幼少期から青年期にかけては、病気による劣等感や「なにくそ」というネガティブな感情が力となり、勉強や仕事を頑張る糧になっていました。
そして30歳を境に病気をオープンにしてからは、「使命感」や「楽しさ」といったポジティブな要因が推進力へと変わっていった。この大きな転換こそ、鳥越さんの人生を象徴する出来事だと感じます。
さらに「飛行機を操縦して空を飛ぶ」「いつかは宇宙へ」という壮大な目標は、決して夢物語ではないと思いました。強い意志と、現状を楽しみながら挑戦を積み重ねていく姿勢が、必ず周囲を巻き込み、実現へと近づけていくのではないでしょうか。
そして何より「憧れられる存在になりたい」という言葉は、一個人として心から応援したくなるものでした。鳥越さんの歩む挑戦の道のりが、同じ病気の方々はもちろん、読者の皆さんにとっても勇気や希望となることを願っています。
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