旅行/観光 アクセシブルツーリズム:誰もが旅を楽しめる社会へ

アクセシブルツーリズム:誰もが旅を楽しめる社会へ

アクセシブルツーリズム

日常生活から解放される非日常体験を得たり、心身のリフレッシュを図れたりする旅は、非常に魅力的なものです。

また、知らない土地における絶景や異文化との交流を図り、美味しい現地グルメを楽しめます。

しかし、障害者にとって旅を楽しむためのハードルが高いのは事実です。

そこで、障害者を含めて様々な困難に直面する人のニーズに応えつつ、誰もが旅を楽しめることを目的としたアクセシブルツーリズムの実現が望まれています。

本記事では、誰もが旅を楽しめる社会を目指すアクセシブルツーリズムについて解説します。

1.アクセシブルツーリズムとは?その定義と注目される背景

誰でも移動しやすい斜行エレベーター

アクセシブルツーリズムとは、高齢者や障害者、妊婦、子連れ家族、外国人旅行者など、移動やコミュニケーションに困難を抱える方が安心して観光を楽しめる環境をつくる取り組みです。

物理的なバリア除去だけでなく、「情報へのアクセス」や「心のバリアフリー」まで包括的に推進する点が、従来のバリアフリー施策との大きな違いといえます。

日本の高齢化率は約29%に達し、障害者も人口の約9.2%を占め、WHOは世界人口の約16%(約13億人)が何らかの障害を抱えると報告しています。

参照:参考資料 障害者の状況|内閣府

そこで、アクセシブルツーリズムは社会貢献と市場開拓を兼ね備えた成長分野として注目を集めているのです。

政府が掲げる2030年インバウンド6,000万人目標の達成と、加速する国内の高齢化社会への対応を同時に進めるうえでも、アクセシブルツーリズムの推進は不可欠な課題です。

参照:令和8年度観光庁関係 予算決定概要|観光庁


1-1.アクセシブルツーリズムを支える3つの柱

アクセシブルツーリズム推進の核となるのは、「ハード面」「ソフト面」「情報面」の3つの柱です。

3つの柱の概要をまとめると、以下のようになります。

内容具体例
ハード面物理的な障壁を取り除く設備整備スロープ、多目的トイレ、低床バス、エレベーター、車椅子対応客室
ソフト面「心のバリアフリー」を体現するホスピタリティ介助スキルの習得、手話・筆談への対応、心のこもった接客
情報面正確な事前情報の多言語提供施設の勾配、トイレの幅、段差やエレベーターの有無

NPO法人Japan Accessible Tourism Center(JATC)は、「言語こそが最大のバリア」と強調しています。

ハード面の整備はバリアフリー新法に基づく法的な裏付けもあり、事業者にとっての必須対応事項です。

バリアフリー新法については、以下の記事で詳しく解説しています。

参照:バリアフリー新法とは?2025年の改正内容もわかりやすく解説!

日本のバリアフリー設備は年々充実しているものの、観光・交通・宿泊に関する情報の大半が日本語に限られているのが現状です。

電話での問い合わせが必要な場面も多く、外国人旅行者にとっては大きなハードルとなっています。

いくら設備が整っていても、その情報が届かなければ旅行者はアクセスできません。

そんななかで、近年は、こうした課題に応える情報サイトも充実しつつあります。

たとえばJTBデータサービスが運営する「心のバリアフリー認定施設サーチ」では、車椅子対応や視覚・聴覚障害への配慮といった条件で全国の宿泊施設を検索可能です。

参照:心のバリアフリー認定施設サーチ|JTBデータサービス

「IKKEL」では3D映像で客室内の段差や通路幅を事前確認でき、旅行前の不安解消に直結します。

参照:IKKEL - バリアフリーな宿泊施設の情報サイト

当事者目線でバリアフリー情報を発信する「Ayumi」でも旅行に関する記事を多数掲載しており、こうしたサイトの活用が情報面のバリア解消に有効です。

参照:ふらっと。〜バリアフリー情報サイト〜|Ayumi

たとえば、どれほど立派なスロープがあっても、スタッフが対応方法を知らなければ利用者は不安を感じるものです。

また、接遇スキルが高くても事前にアクセシビリティ情報が得られなければ、旅行者はその施設を選ぶことすらできないでしょう。

政府が掲げる2030年インバウンド6,000万人目標の達成にも、ハード・ソフト・情報の3つをバランスよく整えることが不可欠です。

1-2.【2026年最新】アクセシブルツーリズムの成功事例

国内のアクセシブルツーリズム成功事例として、まず挙げられるのが2002年設立のNPO法人「伊勢志摩バリアフリーツアーセンター」です。

「行きたいところへ行ける、を増やす!」をポリシーに年間800件超の相談に対応し、車椅子での伊勢神宮参拝プロジェクトや「どこでもチェア」の貸出しなど独自の取り組みが高く評価されています。

連携施設のバリアフリー客室は設立当初の9施設から、2012年時点で19施設に拡大し、地域全体のアクセシブル化を牽引してきました。

参照:伊勢志摩バリアフリーツアーセンター

東京都も毎年「アクセシブル・ツーリズム推進シンポジウム」を開催し、MIMARU運営元を含む多様な企業が登壇しています。

2025年のデフリンピック東京大会を契機に、推進が一段と加速しています。

参照:アクセシブル・ツーリズム推進シンポジウム|産業労働局

デフリンピックについては、以下の記事で詳しく紹介しているので参考にしてください。

参照:デフリンピックとは?2025年大会の概要や見どころを総まとめ!

さらにJATCは2011年の設立以来、英語をはじめ多言語で観光バリアフリー情報を無料発信し、世界各国からの旅行相談に対応しています。

介助者紹介やリフトタクシー手配、緊急時対応まで行う包括サポートは、インバウンドのモデルケースです。

日本のバリアフリー文化をアジア諸国に届け、各国の環境改善につなげたいという理念も掲げています。

参照:Japan Aaccessible Tourrism Center

海外に目を向けると、以下のような事例があります。

都市主な取り組み
バルセロナ市内の歩道のほぼ全域で段差解消が進み、全バス車椅子対応、地下鉄約88%の駅にエレベーター設置地下鉄165駅中150駅以上にエレベーターを設置。4km超のビーチに断続的に木製スロープ・水陸両用車椅子・無料介助入水サービスを整備。サグラダ・ファミリアでは触覚モデルや音声ガイドも標準装備。
ロンドン全タクシー車椅子対応義務化、バス100%低床車両。大英博物館やテート・モダンでは触覚ツアーや自閉症向けクワイエットアワー(静穏時間帯)を設置。

これらの都市に共通するのは、物理的な設備整備だけでなく当事者視点のサービス設計と多言語情報発信が一体となっている点です。

「既存の資産を活かしながら旅のバリアを減らす」発想は、予算に制約のある日本の地方観光地にとっても現実的な手法といえるでしょう。

2.似ているようで違う?関連用語との明確な違いを解説

アクセシブルツーリズムと混同されやすい用語がいくつか存在します。

「バリアフリーツーリズム」「ユニバーサルツーリズム」「ウェルネスツーリズム」など、いずれも旅のバリアを減らすという理念を共有していますが、対象とする層や重点の置き方に明確な違いがあります。

正確に違いを理解しておくことで、自社の取り組みを適切に位置づけ、発信力を高めることができるでしょう。

以下の表で各用語の特徴を整理しました。

用語主な対象と目的特徴
アクセシブルツーリズムツーリズム高齢者、障害者、子連れなど移動や情報取得に困難を抱える方物理的な段差解消だけでなく、多言語対応・Webアクセシビリティ・感覚障害への配慮(音声ガイド・触覚展示等)など「情報へのアクセス」を含めた包括的な概念。国際的に最も広く使われる呼称で、ISO 21902(2021年)が国際基準として策定されている。
バリアフリーツーリズム身体障害者スロープ・エレベーター・多目的トイレなど物理的障壁(バリア)の除去に主眼を置く。日本では「既存の障壁を後から取り除く」改修型のアプローチとして定着。アクセシブルツーリズムの一部と位置づけられることが多い。
ユニバーサルツーリズムすべての人(年齢、国籍不問)障害者だけでなく妊婦・外国人・高齢者・ベビーカー利用者も含め、最初から「全員が使いやすい」設計(ユニバーサルデザイン)を目指す。日本の観光庁や行政文書で多用される呼称で、国内施策との親和性が高い。
ウェルネスツーリズム心身の健康を求める人温泉療養・ヨガ・瞑想・森林浴・地産地消の食事など「健康・癒し・回復」が旅の主目的。障壁の除去よりも積極的な健康増進に重点を置く点でアクセシブルツーリズムとは性質が異なるが、メディカルツーリズム(医療・リハビリ目的)と親和性が高く、アクセシブル環境が整うことで相乗効果を生みやすい。

国際的には「アクセシブルツーリズム」という呼称が主流で、日本では「ユニバーサルツーリズム」が観光庁の施策や行政文書で多用されます。

呼称は異なっても、「旅の障壁を取り除き、すべての人に観光体験を届ける」本質は共通です。

2021年にはISO(国際標準化機構)が国際基準「ISO 21902」を発表し、年齢や能力にかかわらず観光を平等に楽しめる環境を促進するための国際ガイドラインとして世界的な標準化が進んでいます。

日本でもこの国際基準を意識した施策が今後増えていくと見込まれるため、アクセシブルツーリズムの理念を正しく理解し、自社の取り組みに活かしておくことが重要です。

メディカルツーリズム(医療・リハビリ・温泉療養)との親和性も高く、アクセシブルな環境整備が医療目的の渡航者にとっても重要な基盤となるでしょう。

実際にパソナグループは2025年4月、淡路島を拠点に「パソナウェルネスツーリズム」を設立し、訪日外国人向けにリハビリ・薬膳・観光を融合した滞在型プログラムを提供しています。

参照:パソナウェルネスツーリズム

このように、ウェルネスとメディカルの融合が企業レベルでも進み始めています。

3.最新AI・テクノロジーが旅の壁を壊す

函館をVRで視聴した風景

テクノロジーの進化は、アクセシブルツーリズムの可能性を飛躍的に広げています。

羽田空港ではWHILLが開発した自動走行車椅子が第1〜第3ターミナルすべてで稼働し、利用者が目的地を指定するだけで搭乗ゲートまで自動で案内される仕組みが実現しました。

高齢者や歩行困難な人が、広い空港内を安心して移動できる好例です。

参照:自動運転車椅子(WHILL自動運転サービス)|羽田空港

AIチャットボット「Bebot」は日本語のほか英語・中国語・韓国語に対応し、スクリーンリーダーでの読み上げやフォントサイズの自動調整機能を備えています。

JATCが最大の壁と指摘する「日本語が読めない」「情報が探せない」という課題を、AIが解消しつつあるのです。

こうした取り組みが広がれば、「できることがわかれば行ってみたい」という旅行機会の創出にもつながるでしょう。

さらに、VR技術を活用した観光施設の仮想下見も広がりを見せています。

車椅子で通れる通路幅やトイレ配置を旅行前に360度映像で確認でき、「ここなら安心して行ける」と事前に判断できるため、心理的ハードルを大きく下げる効果が期待できるでしょう。

また、AI翻訳の精度向上やスマートフォンアプリとの連携により、リアルタイムで最適なバリアフリールートを案内するサービスも続々と登場しています。

こうしたテクノロジーは物理面・情報面の両方から旅の壁を取り除く強力な味方です。

4.事業者が取り組むべきアクセシブル化のステップ

新幹線の車椅子席

アクセシブルツーリズムへの取り組みは、大規模な設備投資から始める必要はありません。

むしろ重要なのは、「できることから始める」スモールスタートの姿勢です。

2024年4月施行の改正障害者差別解消法で民間事業者にも合理的配慮の提供が義務化され、すべての観光事業者にとって避けて通れないテーマとなりました。

参照:障害者の差別解消に向けた理解促進ポータルサイト|内閣府

以下の3ステップで、段階的に進めていきましょう。

ステップテーマ具体的なアクション
Step 1情報の可視化段差の高さ・通路幅・トイレの種類・手すり位置など具体的な数値や写真をWebサイトに掲載。「Ayumi」のような当事者参画型の発信や、JATCのような多言語対応も参考に。
Step 2心のバリアフリー車椅子介助・筆談・指差しシート活用などの接遇研修を実施。観光庁「心のバリアフリー認定制度」の取得で対外的な信頼向上にも。
Step 3当事者の声を反映モニターツアーの実施や障害者団体との連携で、サービス改善に当事者視点を直接反映。個人旅行だけでなく団体・出張・コンベンション等への対応も視野に。

「バリアフリー対応あり」という曖昧な表記では、利用者は判断できません。

「できることがわかれば、行ってみたい」という旅行機会の創出に直結するため、多言語での情報整備が急務です。

Step 1の情報可視化は費用がほぼかからず効果が高いため、最初の一歩として最適です。

Step 2では完璧を求める必要はなく、寄り添おうとする姿勢こそが利用者に安心を届ける最大の要素となります。

実際にユニバーサルツーリズムに積極的に取り組む宿泊施設も増えており、先進事例を参考にするのも効果的です。

以下記事では、ユニバーサルツーリズムに取り組む施設を紹介しています。

参照:ユニバーサルツーリズムに積極的に取り組む宿泊施設を5つ紹介します!

なお、観光庁は令和7年度「観光地・観光産業におけるユニバーサルツーリズム促進事業」(補助率2分の1・大規模枠上限1,500万円~3,000万円)など、バリアフリー化を支援する補助制度を拡充しています。

参照:「観光地・観光産業におけるユニバーサルツーリズム促進事業」の事業者公募のお知らせ|観光庁

こうした公的支援を活用すれば、費用負担を抑えながら各ステップを着実に推進できるでしょう。

5.まとめ

アクセシブルツーリズムは、ハード・ソフト・情報の3つの柱を軸に誰もが安心して旅を楽しめる社会を目指す取り組みであり、地域の魅力向上と経済効果に直結する成長戦略です。

伊勢志摩やJATCの国内事例、バルセロナ・ロンドンの海外事例から見ても、物理的整備・人的対応・多言語情報発信を一体で進めることが成功の鍵となります。

まずは情報の可視化と心のバリアフリーから始め、当事者の声に耳を傾けながら一歩ずつ前進しましょう。

その小さな一歩が、誰もが旅を楽しめる社会の実現につながっていくはずです。

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この記事のライター

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