「誰かの夢を応援し続ける。淡路島をそんな街にしたいんですよ」
そう話すのは、筋ジストロフィー当事者の木村さんと、介助者の久保田さん。
利用者と介助者でありながら、活動をともにする相棒でもあるお二人。周囲の人たちがワクワクできることを考え、行動し続けられています。
2024年には車椅子での富士山登頂も予定されており、常に挑戦されているお二人ですが、2人だからこそ挑戦が楽しいといいます。たくさんの苦労を乗り越えた後に、ゲラゲラ笑いながら呑み明かすことが何よりも幸せとのことです。
ときには笑って、ときにはぶつかり合う。そんなバリアフリーな関係を築いている2人は、どのように出会い活動を始めたのでしょうか。また、挑戦し続ける姿を通して届けたい想いにも迫りました。
目次
1.「きむら・くぼた」ってそれぞれどんな人?
筆者は、以前Ayumiでも紹介したイシズカマコトさんの紹介で、お二人のいる淡路島に1泊2日で訪れたことがあります。
イシヅカマコトさんの記事はこちら。
淡路島は、物理的にはバリアフリーとはいえません。しかし、木村さんと久保田さんの周りには、バリアフリーな空間がありました。
日常生活のすべてに介助が必要な筆者を温かく迎えてくださり、楽しい時間を過ごせましたが、その空間では「介助というよりも、友人を手伝っている感覚に近い」と感じました。
そんな2人は、お互いにどのような印象を持っているのでしょうか?
【インタビュアー(ライター):赤石/インタビュイー:木村さん、久保田さん】
赤石:木村さんにとって、久保田さんはどんな人ですか?
木村さん:久保田くんは、もともと作業療法士として働いていたのですが、その頃から人を幸せにする方法を常に考えていて、今も福祉の枠を超えて様々なことにチャレンジしている人です。あと、よく食べます笑
僕の介助者でもあるのですが、元々は同僚で友人だったとこから、今は家族であり、同じ目標に挑戦する相棒って感じですね。
赤石:一方で、久保田さんにとって木村さんはどんな人ですか?
久保田さん:木村さんをシンプルに表すなら、筋ジストロフィーを抱える二児の父で、天理教の教会長を務められている方です。
性格は、とにかく主人公タイプですね。自分の芯があって、一見困難に思えることでも、やってみたいことは思い切って言葉にできる人です。
僕にとっては、人生の最後を見届ける相手だと思っています。どちらが先に亡くなるかは分かりませんが、必ず死に際にいる気がします。
酔うと愚痴を漏らすなど、人間臭さも溢れる良き友人であり、良き相棒って感じですね。
2.「くぼきむのわくわくチャレンジ」誕生秘話
2-1.木村さんに突如現れた身体の異変
赤石:木村さんが筋ジストロフィーと診断を受けたのはいつですか?
木村さん:最初は、ふくらはぎに違和感が現れて歩きにくくなり、23歳の時に検査をして筋ジストロフィーであることがわかりました。
今は立ったり座ったりという動作が難しいので、久保田くんにもサポートしてもらいながら日常生活を送っています。
ただ、筋ジストロフィーは進行性の病気なので、将来的には身体全体が動かなくなると言われています。
赤石:診断を受けた時は、どんなことを思いましたか?
木村さん:実は、診断を受ける前から筋ジストロフィーじゃないかなとは思ってたんです。ただ、僕が知っている筋ジストロフィーは、小学校くらいの時に発症するもので、長くは生きられないと思っていました。
実際には、筋ジストロフィーにも様々な型があって、僕の場合は幸い命に直結することがないと言われて、正直ほっとした気持ちが大きかったです。生かされたという感覚ですね。
赤石:車椅子生活を送るようになったのはいつからですか?
木村さん:結構最近ですね。診断を受けた後に学校職員として働き始めたのですが、その時は杖を使う程度でした。
結婚を機に淡路島へ移住をして、久保田くんと出会う病院に就職した時、転んで足を骨折したんです。それから、大事をとって車椅子を使うようになりました。
2-2.木村さんにかけた久保田さんの言葉
赤石:木村さんが就職してから、すぐに久保田さんと友人になったのですか?
久保田さん:木村さんは事務で、僕は作業療法士だったので、接点もなく最初はただの同僚でした。
接点を持ったきっかけは、コロナの影響です。
当時は寮に住んでいたのですが、コロナが流行してから、医療従事者に移動制限がかかるようになり、寮の中での同僚との接触も禁止にされたんです。
プライベートの自由が制限されたことでストレスが溢れ出し、いよいよ退職する同僚が増え始めたときに「このままでは医療従事者が持たない」と危機感を感じました。
それから、人との接触が禁止されていても「ルームシェアをして同居人になれば、問題にはならないはず」と思い、動き出しました。
そして、ただ部屋を借りるだけではなく、古民家をDIYして少しでも楽しく過ごせたらと考え、物件情報を院内のスタッフに片っ端から聞いて回ろうと思ったんです。
その1人目が、木村さんでした。木村さんの物件を貸してもらえるようになり、そこから交流が増えていきました。
なので、最初は木村さんは僕の大家さんだったんです。
赤石:そこから、なぜ一緒に活動をするようになったのですか?
木村さん:僕は久保田くんに出会うまで、あまり外に出るタイプではなかったんです。
性格の問題もありますが、病気を理由にしてたのかもしれません。教会長として運営に困っていたことと、身体が動かないことで、余計に外出が億劫になっていました。
そんな時に、久保田くんから「世の中に困っている人がたくさんいても、この教会を知らないと来ることすらできないですよ。だから、自分の足で色んな人と繋がる努力をしましょう」と言われたんです。
そこから積極的に外出するようになり、活動も広がっていきました。久保田くんは、教会長としての僕のリハビリもしてくれました笑
2-3.友人から専属の介助者へ
赤石:なぜ、久保田さんは介助者になることになったのですか?
久保田さん:当初の僕たちは、重度訪問介護の存在すら知りませんでした。
淡路島の社会福祉協議会さんに教えてもらって、重度訪問介護を利用した自薦ヘルパーのフォーラムに参加したんです。
そこで、自薦ヘルパーは「1人の利用者が専属のヘルパーを採用し、利用者自身でヘルパーを育てていくもの」だと初めて知りました。
僕たちは、それを知らないうちに実践してたんです。
この頃、病院の勤務時間以外はほぼ木村さんと活動してたので、木村さんの自薦ヘルパーになれば収入も確保でき、より一緒に活動できると思い、2022年6月に正式に介助者となりました。
赤石:介助者になって、お二人の関係性は変わりましたか?
久保田さん:全く変わってないですね。
僕の中では、一応介助者と友人とで時間を使い分けているのですが、仕事中も友人であることには変わりないので、木村さんの家族と一緒に夜ご飯を食べたり、銭湯に行ったり、楽しみながら働いています。
3.「きむら・くぼた」の活動内容
3-1.「人々に希望を与える打ち上げ花火」
赤石:8月10日に淡路島で主催されている花火大会は、今年で3回目だと伺いました。なぜ、今年も開催しようと思われたのですか?
木村さん:はじめは、コロナが流行して様々なイベントが中止になって、下を向くことが増えたなかで、「子どもたちや島の人たちに上を向いて欲しい」という想いから開催しました。
ただ、個人で花火大会を開催するのは想像以上に大変でした。
もう続けることはできないと思っていましたが、地域の方からの反響が大きく、2回目からは、花火と共に一人ひとりの夢を応援する大会にしようと思ったんです。
そのため、花火を販売して、購入してくださった方の夢と共に打ち上げることにしました。
今回で3回目ですが、このイベントが100年続く文化になったら良いなと思っています。僕や久保田くんが亡くなった後も、淡路島で毎年夢を応援するイベントがあると素敵じゃないですか。
加えて、僕にはダウン症の娘がいます。この街が暖かくて優しい街になれば、娘も施設や病院ではなく、故郷のこの島でずっと暮らせるのではないかという気持ちも込もっています。
赤石:「夢を打ち上げる」がコンセプトの花火大会ですが、どんな想いで花火を見て欲しいですか?
木村さん:大人になってから夢を語るって少し恥ずかしかったり、現実を知れば知るほど夢を追えなくなったりすることがあると思います。
でも、挑戦する前に諦めなくて良いと思っています。
夢は子どもだけのものではなく、大人になっても語って良いと感じてもらいたいんです。
将来、子どもたちが大人になったときに「挑戦し続けたおじさんがいたな」と思い出してもらえたら、夢を追いかけやすくなるのかなって。
こうした挑戦は、もちろん自分たちのためにもなりますが、子どもたちの未来が少しでも面白くなると嬉しいですね。
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3-2.前代未聞の挑戦「車椅子で富士山を登頂する」
赤石:富士山に登頂しようと思ったきっかけを教えてください。
木村さん:筋ジストロフィーになって、同じ病気で活動的な人を探していたら、中岡亜紀さんに出会い、2022年10月に長野県の講演会で初めてお話を聞きました。
そこで、中岡亜紀さんが車椅子で富士山を登頂したことを知ったんです。
次の日に、たまたま小高い山を登ってみると天気が良くて、とても綺麗な富士山が見えました。
「俺もやろう」
なぜか、そう思ったんです。富士山が俺を呼んでるって。
赤石:木村さんに誘われた時、久保田さんはどう思われたのですか?
久保田さん:即答で「呼んでません」って答えました笑
とはいえ、木村さんと新しい挑戦がしたいとは思っていたんです。ただ、まさか富士山に登るとは思ってもみませんでした。
僕自身はフォロー四徴症という心臓の難病を抱えてて、幼い頃から過度な運動は止められていたんです。なので、訓練をたくさんする必要があり、おそらく僕の方が命懸けになるんだろうと思います。
でも、キラキラした目で提案されたので「行こう」と腹を括りました。
4.「挑戦することをやめない」と考えたきっかけは?
赤石:挑戦することをやめないと考えたきっかけは何でしょうか?
木村さん:僕の人生は、久保田さんに出会うまで、挑戦するような人生ではありませんでした。だから1人では絶対にしません。
久保田くんという相方に背中を押されて、気づけば挑戦している感じです。
毎回崖っぷちに立たされて、本当にしんどいです。でも、達成した時に振り返るとめちゃくちゃ面白いんですよ。
死ぬ直前に、久保田くんと挑戦したきた経験でずっとお酒が飲めるなと想像ができます。だから、そのためのアテを作っている感じです。
挑戦は辛いです。でも、苦労と天秤にかけたとき、ちょっとだけ「楽しい」が勝つから続けられるんだと思います。
久保田さん:元気に笑い続けられる生き方を考えたとき、苦労をしても、誰かと一緒なら面白くなると思うんです。
1人でも挑戦はできますが、面白くないんですよ。自己成長には繋がっても、誰かに必要とされていない限りはワクワクしないんです。
夢中でワクワクできることを一緒にしてくれる相方を探していたら、木村さんと出会ったので、無茶なことでも挑戦してるって感じですね。
5.「きむら・くぼた」が大切にしていること
赤石:人生の中で大切にしている価値観や想いはありますか?
木村さん:やっぱり、天理教の教えが大きく関わっています。
一言で表すなら「ようきぐらし」です。みんなが助け合う生き方を意味していて、僕の価値観はいつだってこの言葉です。
自分も含めて「どうすれば楽しくなるか、助け合えるか」を根底に考えながら生きています。
久保田さん:僕は、変化を受け止めることを大切にしています。
僕は夢中になるとすぐに行動に移す性格なので、いろんな人に出会ったり、新しい体験をするのがとても楽しいです。その度に発見があるのですが、それは成長ではなく、僕自身が変化しているのかなと思っています。
大好きだった作業療法士の仕事も、木村さんに出会い、楽しい未来が見えた瞬間に辞めました。
当時はいろんな意見をいただきましたが、コロナという時代に合わせて考えた時に、作業療法士よりも、その考えを持った上で別の形で活動する方が楽しいことが増えると思ったので、シフトしました。
なので、変化を受け入れ、自分の直感を信じることは続けていきたいと思います。
6.くぼきむのわくわくチャレンジを通して伝えたいこと
赤石:挑戦される姿を通して、どんなことを伝えたいですか?
木村さん:1人で抱え込まず、相談できて一緒に挑戦できる人を見つけて欲しいと伝えたいです。
昔の僕であれば、挑戦の選択に迫られた時、やらない理由を真っ先に考えていました。でも、久保田くんと出会って、今は「どうやったらできるか」だけを考えるようにしています。
それが見つからない時や、挑戦が辛くなった時は、誰かに相談して、仲間と一緒に考えながら進めていきます。
挑戦はみんなでやった方が面白いですしね。
久保田さん:よく、僕と木村さんの関係性を羨ましく思ってくれる方がいます。
でも、決して良いことばかりではありません。僕らは相棒ですが、時には顔を突き合わせて喧嘩をすることもあるし、一方でどうしようもないくらいゲラゲラ笑っている時もあります。
障害を持つ方の中には、こうした相棒を見つけられないと思われる方もいるかも知れません。でも、言葉にして、人と会い続ける努力を少ししてもらえると嬉しいです。
僕が木村さんに連絡したように、どこでどんな出会いが待っているかわかりません。価値観が合う人は必ずどこかにいるので、想いを発信することだけは諦めないでと伝えたいです。
7.最後に
木村さんと久保田さんは、挑戦すること、勇気を振り絞ることの大切さを行動で伝え続けられています。
挑戦は簡単ではありません。しかし、2人だからこそ続けられるのだと思います。パズルのピースのように、いいところも悪いところも凸凹を補い合うからこそ、常に笑いに溢れているのです。
まさに、最高の2人です。
木村さんと久保田さんはSNSで活動を発信されています。花火大会や富士山登頂プロジェクトの様子は、こちらからチェックしてみてください。
YouTube:https://www.youtube.com/@user-jf4kw7tl3r
Instagram:https://www.instagram.com/kimurakubota/