令和4年度、2022年12月10日に障害者総合支援法の改正が成立し、令和6年度2024年4月1日より施行されることになりました。
障害者総合支援法は、3年に1度見直しされることが定められていますが、今回の改正ではどのように変わったのでしょうか。
本記事では、障害者総合支援法の基礎的な知識や今回の改正でのポイントを大きく分けて6つ解説していきます。
福祉サービスを提供している事業者や障害者雇用に関わる改正も含まれているため、障害をお持ちの方だけでなく関連企業側もしっかりと把握しておきましょう。
目次
1.障害者総合支援法とは?
障害者総合支援法とは、障害者の日常・社会生活を総合的に支援するための社会福祉法のひとつです。
正式には「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」と呼ばれますが、わかりやすいように障害者総合支援法と略されています。
障害者総合支援法は、制定時である平成18年度2006年から2012年4月1日の改正まで「障害者自立支援法」という名称で交付されていました。
しかし、当初の障害者自立支援法は法律の基本理念の規定がないことに加えて、福祉サービスの必要性を判断する基準が曖昧だったことや、収入よりも自己負担額が上回ってしまうなどの問題がありました。
特に、障害年金を受給されている方など、これまで自己負担がなかった人が障害者自立支援法により原則1割負担になったことで、福祉サービスの利用を控えるようになるなどの問題も出てきました。
2010年には、それらの問題点が考慮され以前のように収入に応じた自己負担額に改正されています。
そして2013年には、社会的障壁の除去や障害者の人権の尊重など基本理念を掲げ、難病のある方も障害者に該当するなどの改正が行われ、現在の「障害者総合支援法」が制定されたのです。
2.改正目的は障害者の地域生活や就労の支援強化拡充のため
障害者総合支援法の改正は、「障害者総合支援法改正案」として2022年10月26日に開かれた第210回の国会会議に提出されました。
参照:障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律案(令和4年10月26日提出)|厚生労働省
今回の改正目的は、主に以下の3つの柱を軸に構成されています。
- 障害者が希望する地域社会の実現
- 障害者のニーズに合わせた支援体制
- 持続可能かつ質の高い障害福祉サービス等の見直し
具体的な内容は、障害者の地域社会を支えるための体制強化や障害別の多様なニーズに応じた就労及び、雇用の質の向上などです。
また、医療面でも、障害児や難病患者に対する適切な療養生活が送れるような障害福祉サービスの支援強化や、障害に関するデータベースの情報整備などが盛り込まれています。
さらに詳しい内容は、次の章から解説していますが、今回の改正はこれまで問題視されていた雇用や支援制度にメスを入れたものだといえるのではないでしょうか。
なお改正案は、一部内容を除いて2024年4月1日から施行されることが閣議決定しています。
3.2022年に成立した障害者総合支援法のポイント6つ
前章で解説した改正案の3つの柱を軸に、障害者総合支援法はさらに具体的な改正ポイントがいくつかあります。
新たに成立した「障害者総合支援法」のポイントは、大きく分けて以下の6つです。
- 障害者が安心して地域生活を送るための支援体制の強化
- 障害者雇用の質の向上とニーズに合わせた支援
- 精神障害者の希望やニーズに合わせた支援体制
- 難病・特定疾患者に対する適切な医療の提供及び療養生活の支援強化
- 障害福祉サービスや病気のデータベースの整備
- 地域のニーズを踏まえた障害福祉サービスを導入
それぞれのポイントを踏まえて、わかりやすく解説していきます。
3-1.障害者が安心して地域生活を送るための支援体制の強化
こちらの具体的な内容は、次の2つです。
- グループホーム利用者が希望する地域生活の継続・実現の推進
- 精神障害を抱える者の支援体制の整備
グループホームは、介護が必要な高齢者や障害者の方が支援を受けながら共同生活を送る施設です。
厚生労働省の調査によると、グループホームの施設数は年々増加傾向にあり、2000年の675件から2016年には13,114件まで増加しています。
入居率は平均97.5%と高く、さらに1事業所あたり平均6.87人の待機者を抱えていることが明らかになりました。
さらに一方で、一人暮らしを希望する障害者の方もいます。
そこで、今回の改正ではグループホーム入居者の支援はもちろんのこと、一人暮らしを希望する障害者に対する支援内容を明確化しています。
例えば、グループホーム入居中であれば一人暮らしに必要な家事や居住支援などを、退去後は定期的に相談できるような支援を、継続的に行うことを明確化しました。
また、精神障害者に関しては、市町村ごとに拠点を設けたり、地域の協議会と情報を共有することを努力義務にするなどの整備がなされました。
そして、精神保健福祉士の業務として新たに精神保健に関する相談援助を追加することが決定しています。
3-2.障害者雇用の質の向上とニーズに合わせた支援
こちらの具体的な支援策は、以下の3つです。
- 本人の希望や能力に沿った就労支援を実施
- 短時間でも働けるような雇用機会の拡大
- 障害者雇用調整金等の見直し
障害者本人の希望・就労能力や適性等に合った選択を支援する、新たなサービス(就労選択支援)を創設します。
例えば、ハローワークは、このサービスを元に職業指導を実施します。
また、週所定労働時間が特に短い障害者であっても、労働時間が週に10時間以上であれば、企業の雇用率に算定できるように改正されました。
これによって、短時間しか働けない精神障害者、重度身体及び重度知的障害者であっても、働ける機会が拡大されるでしょう。
さらに、障害者雇用調整金などの見直しで、一定以上の障害者を雇用した場合に支給される調整金や報奨金の支給額が改定され、新たに事業主の取組支援のための助成金を新設するなど、障害者雇用への支援が強化されているのが特徴です。
3-3.精神障害者の希望やニーズに合わせた支援体制
こちらの具体例は、以下の3つです。
- 医療保護入院の見直し
- 入院者訪問支援事業の創設
- 精神科病院での虐待防止への取り組み強化
精神障害の中には、判断能力の低下で医療保護入院の対象となる患者も少なくありません。
現行の医療保護入院を見直し、家族等の同意や意思表示がない場合でも本人の意思を尊重しながら市町村長の同意のもと医療保護入院ができるように改正されました。
また、入院期間を定めて退院に向けた支援も強化されます。
ふたつめの「入院者訪問支援事業」とは、医療保護入院患者を対象に、定期的に外部から相談できるような支援を行うものです。
具体的には、患者が入院している精神科病棟を相談員が訪れて本人の話を丁寧に聞いた上で、必要に応じた指導を行います。
また、精神科での虐待を防止するための職員への研修の義務化や、虐待を発見した場合直ちに管理者が通報できるような仕組みを強化しています。
合わせて、虐待で措置を受けた施設や医療機関は、国や都道府県によって公表されるシステムになりました。
3-4.難病・特定疾患者に対する適切な医療の提供及び療養生活の支援強化
難病や小さい頃から慢性的な病と闘っている児童なども、今回の障害者総合支援の改正で対象者となるのがポイントです。
大きい内容は、以下の3つです。
- 病状悪化時に円滑に医療費支給を受けられる仕組みの見直し
- 療養生活の支援強化
- 小児慢性特定疾病児童などへの自立支援強化
難病や特定疾患を抱えている人の治療費は医療費の支給で賄いますが、これまでは診断書の作成や助成の認定が決まるまでに時間がかかっていました。
しかし、今回の改正によって医療費助成までの支給が大幅に短縮されたことで、経済的な不安を軽減し治療に専念できるような体制になりました。
また、難病患者に必要な医療や就労支援を幅広く認知してもらうために、マイナンバーと連携し罹患情報を登録することよって、サービスの受給申請がスムーズになるという利点があります。
地域の特定疾病児童やその保護者の実態を把握し、課題や分析を行う「実態把握事業」の創設を努力義務とするなど個々のニーズに応じた事業の実施が改正されました。
3-5.障害福祉サービスや病気のデータベースの整備
データベースの法的根拠の施行・整備は、医療保険(NDB)や介護保険(介護DB)などの分野で施策が進んでいますが、福祉障害や難病分野でも整備が必要です。
今回改正では、データベースに関する見直しも行われました。
要点は、以下の3つです。
- 障害者・障害児・難病・小慢DBの法的根拠を新設
- 安全管理措置、第三者提供ルール等の諸規定を新設、他の公的DBとの連結解析を可能にする
- 軽症の指定難病患者もデータ登録可能にする
ひとつめは、ある障害や病気に関して法律的な観点から、助成や給付の対象となるかどうかのデータ収集を国が行うというものです。
また、他の公的データベースと連結するためのルールを新設し、より安全にデータが取り扱えるように改正されました。
そして、これまで医療費の助成対象にならなかった軽症の指定難病患者も登録可能にしたことで、登録者の拡大を図ります。
3-6.地域のニーズを踏まえた障害福祉サービスを導入
今回の改正では、以下の2つの点が見直されました。
- 都道府県の通所・訪問・障害児サービス等の事業者指定について、市町村は
意見を申し出ることができる - 居住地特例の対象に介護保険施設等を追加する
これまでの事業者の指定は都道府県が独断で行う形でしたが、地域のニーズに合わせた整備が行き届いていないことが課題でした。
そこで新たに、市町村が事業者の指定に対して意見や条件をつけられるようにしたことで、地域のニーズに沿った福祉サービスが提供できるようになります。
条件に違反した場合は、都道府県から事業所への勧告や指定の取り消し措置が可能です。
また、居住地特例の対象に介護保険施設等を追加するルールも盛り込まれました。
居住特例とは、障害者が施設に入所する場合に地域の財政負担を軽減するため、障害者福祉サービスの支給決定を入居前に住んでいた市町村が対応する制度です。
現行の障害者総合支援法では介護保険施設では特例が適用されないので、施設所在市町村の負担が増えるのが課題でしたが、今回の改正で、財政負担の分散を図れるようになりました。
4.障害者総合支援法に関わる福祉サービス
さて、これまで解説してきた障害者総合支援法に関わる福祉サービスには、障害者が利用する支援サービスにかかる費用を一部負担する「自立支援給付」と、各地域が主体となり障害者を支援する「地域生活支援事業」の2つに大別されます。
ここでは、それらの具体的な内容について解説していきます。
4-1.自立支援給付
自立支援給付とは、障害者が自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、必要な障害福祉サービスに係る給付を行う制度です。
自立支援給付には、以下の5つの障害福祉サービスに分類されます。
給付の名称 | サービス例 |
介護給付 | 重度訪問介護同行援護短期入所(ショートステイ)生活介護 |
訓練等給付 | 自立訓練就労移行支援就労継続支援A・B型就労定着支援 |
サービス利用計画作成費の支給 | ※障害者に合わせた支援計画サービス |
自立支援医療費の支給 | 更生医療育成医療精神通院医療 |
補装具費の支給 | ※車椅子・義足・義眼などの補装具購入などの費用を支給 |
介護給付は、障害者や高齢者の日常生活を中心とした支援サービスです。
訓練等給付は、リハビリや就労に関わる支援サービスで障害者の自立を目指すために給付されます。
サービス利用計画作成費とは、障害者のニーズに合わせた支援を計画するために必要な費用です。
自立支援医療費の支給は、障害者の定期的な通院にかかる医療費を支給するための制度です。
自立支援医療の詳しい制度内容については、こちらの記事をご覧ください。
補装具費の支給は、障害者の日常生活に必要な車椅子や義足などの補装具費の購入に必要な費用を支給するものです。
4-2.地域生活支援事業
地域生活支援事業とは、障害者総合支援法に基づいて都道府県または市町村の判断で実施されるサービスです。
こちらは、地域の特性や利用者の個別の状況に合わせた柔軟な事業になっています。
サービスには、法律で定められている必須事業と任意事業の2通りがあります。
必須事業の例としては、以下の通りです。
市町村の必須事業 | 事業内容例 |
理解促進研修・啓発事業 | 市町村のバリアフリーマップを作成障害に関する理解を深めるためのイベントを開催 |
自発的活動支援事業 | 情報交換のできる交流会活動等の支援高齢者や障害者の見守り活動障害者等に対するボランティアの養成や活動支援 |
相談支援事業 | 計画相談支援・障害児相談支援地域移行支援・地域定着支援 |
成年後見制度利用支援事業 | 成年後見制度の利用を支援 |
意思疎通支援事業 | 手話通訳者や要約筆記者等の派遣代筆・代読・音声訳会話における理解や表現の補助 |
日常生活用具給付等事業 | 介護・訓練支援用具自立生活支援用具在宅療養等支援用具居宅生活動作補助用具(住宅改修費) |
移動支援事業 | 外出の支援サービス福祉バスなど車両の巡回送迎 |
上記のような必須事業の他に、任意事業では訪問入浴サービスや福祉ホームの運営などがあります。
日常生活用具給付等事業では、生活用具だけでなく住宅をバリアフリーにするための改修費も対象です。
5.障害者総合支援法のサービス申請方法
障害者総合支援法に基づいた自立支援給付の介護給付や訓練等を受けるには、以下のような流れに沿って申請します。
- 市町村の窓口に申請し、障害支援区分の認定を受ける
- 「サービス等利用計画案」を「指定特定相談支援事業者」で作成し、市町村に提出
- 支給決定
- サービス担当者会議
- 実際に利用する「サービス等利用計画」を作成
- サービス利用を開始
- 必要に応じて利用計画の見直し(モニタリング)
サービスを利用したいと思ったら、まずは、市町村の窓口に申請し「障害支援区分の認定」を受けます。
ただし、障害福祉サービスの種類によっては、認定が必要ないサービスもあるので、市町村の窓口にて問い合わせてみましょう。
申請が完了し支給が決定したら、サービスの担当者が会議を開き計画案を踏まえた上でどのようなサービスを提供するかを決めていきます。
その後サービス事業者等との打ち合わせを行い「サービス等利用計画」を作成し、実際にサービス利用を開始します。
利用開始後は、モニタリングと呼ばれる一定期間を定めて、サービス等の利用状況の検証と計画の見直しを行うのが一連の流れです。
6.改正を重ねて見えてきた障害者総合支援法の今後の展望と課題
2024年4月より施行される障害者支援法では、障害者が安心して地域生活を送るための支援体制や障害者雇用の見直しなど、障害の特性や個人のニーズに合った柔軟な対応を求められるようになりました。
しかし、民間企業の法定雇用率は2023年12月時点では2.3%ですが、実際は2.25%、達成企業の割合は48.3%に留まっています。
また、厚生労働省が発表した「令和4年 障害者雇用状況の集計結果」によると、令和4年度の法定雇用率未達成企業は55,684社あり、多くの民間企業は未到達です。
改正を重ねても、障害者のニーズに合った働き方や生活の選択ができなければ、障害者総合支援法そのものの意味がなくなってしまいます。
今後は、改正内容がきちんと実行され、障害者の声が結果に反映されることが課題です。
7.最後に
今回は、障害者総合支援法の改正内容のポイントについて6つ解説してきました。
筆者としては、改正により、この法律の基本理念である「障害者の基本的人権」が尊重され、どこで働き暮らしどんな支援サービスを受けるかは本人が決められるように選択肢がさらに充実した印象を受けました。
また、障害者と健常者が地域社会で当たり前に共生できるよう、支援や体制の強化が整備されている印象です。
障害者総合支援法は、今後も、ニーズの変化とともに、障害者がより良く生きるための定期的な改正が期待されます。
そのためには、障害者本人だけでなく、障害福祉に関連する事業者も今回の改正内容をしっかりと把握することが大切だといえるでしょう。