住む地域によっては、移動手段として自動車が欠かせない、という方もいるのではないでしょうか。
まして車椅子ユーザーであれば、自動車があることで移動の利便性が飛躍的に向上することは、想像に難くないことです。
しかし、通常自動車の運転は、アクセルとブレーキを足で操作する必要があります。
足が不自由な障害者や車椅子ユーザーの場合、どうすればいいのでしょうか。その答えが、足で操作する必要がない「手動運転装置」の利用です。
この記事では、手動運転装置でできることと、おすすめの手動運転装置、また、購入する際に気をつけるべきことなどをご紹介していきます。
目次
1.なぜ、手動運転装置が必要なのか?
手動運転装置とは、普通の自動車に装着して、足で操作する作業を手で行うことができる装置です。足が不自由な方でも自動車の運転が可能になります。
「バリアフリー」という言葉が広く使われている今でも、車椅子でどこへでもスムーズに移動できるとは限りません。
電車やバスは、介助するスタッフの配置や混雑を理由に乗れない場合や、あらかじめ乗車時間を通知しておかないと乗車が困難なケースもあります。
また、移動の難易度は天候によっても左右されます。雨が降った時、傘をさして荷物を持って車椅子を操作するのは大変ですし、雪が降ればタイヤがとられて進めないことも。
手動運転装置を使って自動車を運転することができれば、その困難が解消できます。好きな時に、好きなところへ、自由に移動することが可能です。
どうしても行かなければならないところに行く時にはもちろん、趣味や友人・家族とドライブを楽しむことだってできます。
そんな「移動格差のない社会」の実現に一役買う手動運転装置を、いくつかご紹介しましょう。
2.おすすめの手動運転装置をご紹介!
2-1.株式会社ニコ・ドライブが作る手動運転装置
普通の自動車を車椅子仕様にするとなると、高額な改造費用が必要なのではないかと思う方もいるかもしれません。
最初にご紹介するのは、そんなイメージを覆す「後付け」の手動運転装置です。
株式会社ニコ・ドライブ社が提供する「ハンドコントロール」は自動車を改造することなく、自分で取り付け、操作することができます。
自動車自体の改造の必要がないため、コストは特殊改造車に比べて半分以下に抑えることができるそうで、障害者手帳をお持ちの方は補助金の利用も可能。改造にかかる期間を待つこともなく、移動に不便を感じる時間も少なくできそうですね。
また、障害者に限らず、突然の怪我で一時的に足での運転が難しい時にも使えます。レンタカーや代車など、自分の自動車以外に取り付けできるのも便利です。
現在、9割ほどの自動車に取り付け可能と対応車種が多いのも嬉しいポイント。
往復送料を負担すれば購入前のお試しもできるようですので、まずはそれを利用してみるのもひとつの手です。
参照:製品の詳細情報 – 【ニコドライブ 】手動運転補助装置|株式会社ニコ・ドライブ
2-2.イタリアのKIVIが作る手動運転装置-CT08
手動運転装置にはいくつか種類があり、大きく「コラム型」「フロア型」「リングタイプ」の3種類に分けられます。
そのうちの「コラム型」に分類されるイタリアKIVI社製の手動運転装置CT08。
「コラム型」はハンドルの下に手動運転装置が取り付けられているタイプなので、足元のスペースを広く取ることができます。乗り降りのしやすさや窮屈さを回避できることが主なメリットです。
ハンドル下に横向きに設置されたグリップを引けばアクセルが、押せばブレーキが作動します。
好みや操作のしやすさ、握力の強さに合わせてグリップ形状も選ぶことができます。
手動運転モードとノーマルモードの選択が可能で、モードを切り替えることによって通常の運転操作も選べるため、ご家族と兼用するにも安心な手動運転装置です。
参照:KIVI製 ハンドコントロール CT08 滋賀県 近江屋|株式会社近江屋
2-3.株式会社ミクニ ライフ&オートが作る手動運転装置
株式会社ミクニ ライフ&オート社は、福祉車両架装の大手メーカー。1973年の創業以来、「一人でも多くの方に運転する歓びを伝えたい」という想いで体の不自由な方向けの自動車運転装置などを開発、製造、取り付けをしてきた会社です。
障害者用車両操作部品の国内シェアは約60%にのぼり、多くの障害者の運転をサポートしています。
そんな株式会社ミクニ ライフ&オート社が手がける手動運転装置、APドライブは、手動レバーを前後することでアクセル、ブレーキを操作することができます。
特徴は、グリップ形状が多数用意されていること。既製のグリップだけでなく、希望に合わせて加工できるシリーズもあります。
フィット感を大事にしたい方や、握力が弱い方も、自分に合わせた形状にできるのは嬉しいですね。
またオプションでは、レバーにウインカースイッチやライト上下・ハザードスイッチなども追加することが可能。手の動きを最小限にしながらも、さまざまな機能を使うことができます。
参照:AP手動運転装置 APドライブ|株式会社ミクニ ライフ&オート
2-4.Hondaが作る手動運転装置
国内大手の自動車メーカー・Hondaが手がけるのは、FIT用「Honda・テックマチックシステム。
これはFITのe:HEVとガソリン車に装着できるもので、両下肢に障害のある方に向け左手だけで操作できる「手動運転補助装置<Dタイプ>」、右足の不自由な方に向けた「左足用アクセルペダル<Bタイプ>」が販売されています。
「手動運転補助装置<Dタイプ>」は、左手のみでアクセル・ブレーキ操作が可能なコントロールグリップと、右手のみでハンドル操作ができるハンドル旋回ノブが装備されているのが大きな特徴です。
「左足用アクセルペダル<Bタイプ>」は、左足だけでブレーキ・アクセル操作が可能なシステム。
左足でアクセル操作をする場合には、誤操作防止のため右用ペダルは固定しますが、他の人が運転する際などに、右足用アクセルペダルに切り替えることもできます。
身体の状況に応じた装置を選べるのは、大きなメリットですね。
3.手動運転装置は補助金の対象?
既存の車両に手動運転装置を後付けしたり、手動運転装置つきの車両を購入するとなると、気になるのは費用面
お住まいの市区町村によっては、手動運転装置を購入し自動車を改造する際、補助金が活用できる場合があります。
障害者手帳1級または2級を所持していて、「自分が利用できる車をすでに持っている」「すでに手動運転できる車を所持しており、買い換える予定」である方は、多くの場合申請可能となります。
ただし、市区町村によって申請の要件や補助金額がも異なるため、ここでは例をいくつかご紹介します。
<大阪市の場合>
改造費補助を受ける要件
・身体障害者手帳を所持しており、上肢・下肢または体幹において1級及び2級のいずれかに該当すること。
・前年の所得税課税所得金額が、特別障害者手当等の所得制限限度額を超えないこと。
・大阪市内に居住し、住民基本台帳に登録されていること。
・運転免許証を所持し、所有する自動車をその条件に合うように改造しようとするものであること。
・改造する車は、通勤もしくは就労中に利用するものであること。
補助額
・身体障害者1人につき1台とし、所要経費の2分の1以内で限度10万円。
<仙台市の場合>
・車両の改造発注前に申請すること。
・助成額は改造に要した費用であり限度額10万円。
・所得制限あり。
・手続きに必要なもの
発注前:身体障害者手帳、改造を行う業者の見積書、
改造箇所の図面
改造後:改造費の明細書、車検証のコピー、印鑑
上記はあくまでも一例ですので、補助金申請を検討する方はお住まいの市区町村の障害福祉担当課にお問い合せください。
「まだ車を持っていないけど、購入したい」という方は、市区町村の社会福祉協議会が窓口になっている、生活福祉資金貸付制度が活用できる場合があります。
これは福祉機器購入やバリアフリー住宅への改修、障害者世帯の自動車購入の補助金の貸付制度を活用できる制度。
貸付のため返済が必要となりますが、連帯保証人がいれば無利子でお金を借りることができます。
こちらもぜひ、お住まいの地域の社会福祉協議会へのご相談がおすすめです。
4.手動運転装置を購入する前に読んでほしいこと
4-1.中古品を購入する際には十分注意
障害者や足の不自由な方の移動を大きく助ける手動運転装置ですが、「費用が気になる。中古品が安く手に入らないかな?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、中古品の購入には十分な注意が必要です。手動運転装置は、ユーザーに合わせて加工されている場合があるからです。
安全性が保証できないため、中古品を購入し取り付け依頼をしても断られるケースもあると聞きます。
価格が安くても取り付けられなければ無駄になってしまいます。購入を検討する際は、あらかじめ取り付けを依頼する工場などに十分相談の上、慎重に判断してください。
4-2.補助装置類の点検も忘れないこと
安全性を確保するためには定期点検は欠かせません。その際にかかる費用についても、購入時にあらかじめ確認しておくと安心です。
また、自分で改造したり知識経験が少ないお店で改造したりすると車検に通らないケースもあるようです。手動運転装置も自動車の大切な部品ですから、長く安全に乗るためにメンテナンスも大切にしたいですね。
5.最後に
バリアフリーが不完全な社会において、誰かがバリアを取り除いてくれるのを待つことなく、利用することで自らバリアフリーをつかみとることができる、それが手動運転装置なのかもしれません。
今回は後付けや架装ができるものをご紹介しましたが、他にも手動運転装置はいくつかあります。
新車であれば、国内大手自動車メーカーでも手動運転装置付きの自動車を販売しています。
今はYouTubeなどで車椅子を利用している人が手動運転装置の操作をしている様子を見ることもでき、レンタルして使用感を確かめることも可能なようです。
予算とも相談しながら、快適なドライブのお供が見つかるといいですね。
Ayumiでは、他にも手動運転装置を搭載した車の紹介している記事もありますので、気になる方は下記の記事もご覧ください。