障害者にとって、外出すること自体に高いハードルがあるものです。
さらに、旅行に出かける場合は制限されることが多く、希望通りに物事が進まないケースが多いです。
そこで、誰でも気軽に旅行を楽しむための取組みとして、ユニバーサルツーリズムに注目が集まっています。
では、ユニバーサルツーリズムとは具体的にどのような内容を指すのでしょうか?
本記事では、ユニバーサルツーリズムについて徹底解説します。
気兼ねなく旅行を楽しみたい方にとって必見の情報が満載ですので、ぜひ参考にしてください!
目次
1.ユニバーサルツーリズムとは?
1-1. ユニバーサルツーリズムの定義と目的
ユニバーサルツーリズムとは、高齢や障害などの有無に関係なく、すべての人が安心して楽しめる旅行を指します。
国土交通省が定めた「観光立国推進基本計画」においても、ユニバーサルツーリズムを「誰もが気兼ねなく参加できる旅行」と訳しています。
日本では高齢化が進む中で、比例して増加するとみられる高齢者などの旅行需要を喚起するため、ユニバーサルツーリズムが推奨されているのです。
観光庁でも、ユニバーサルツーリズムの推進を地方自治体やNPOなどと協力して進めています。
具体的には、地域の受入環境や体制の整備、旅行商品の造成や普及に対する活動について、積極的に支援しています。
1-2.通常の観光とユニバーサルツーリズムの違い
通常の観光とユニバーサルツーリズムとの明確な違いは、すべての人が安心して楽しめるかどうかです。
通常の旅行では、特に障害がある人に対する考慮は基本的になく、あくまでも健常者目線で考えられているケースが多いです。
一方で、ユニバーサルツーリズムでは今ある自分の能力において、社会生活に支障がある人でも楽しめるかどうかの目線で考えられた旅行という違いがあります。
よって、利用する施設や移動手段などにおいて、バリアフリー化されているかどうかが重要な選定ポイントとなります。
1-3. なぜユニバーサルツーリズムが重要なのか?
ユニバーサルツーリズムが重要視されている背景には、国内対象者の市場規模が大きいという側面があります。
2025年には、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となって、総人口に占める65歳以上人口の割合となる高齢化率が30%を超える状況です。
いわば、市場としては大きなパイがある状況であり、ユニバーサルツーリズムの推進により旅行の不安を取り除くことで、旅行意欲が高く経済的に余裕がある高齢者を集客して活性化したいという思惑があるのです。
また、日本ではインバウンド需要の高まりにより、外国人にいかに満足してもらえるかが重要となっているため、その対応としてユニバーサルツーリズムが推進されている側面もあります。
海外の主要な観光地ではバリアフリーは当たり前となっており、特別な配慮が無くても旅行を楽しめるケースが多いです。
一方で、日本ではまだまだバリアフリー対応しているかどうかを事前リサーチしないと、旅行のプランを立てられません。
以上から、ユニバーサルツーリズムを推進することで誰でも気軽に旅行できる環境整備を進めているのです。
日本では、2021年5月に可決された改正障害者差別解消法で、障害者の合理的配慮の提供が民間事業者に義務づけられました。
国や自治体レベルのみならず、民間事業者に対しても合理的配慮に関する考え方の周知や具体的な対応が重要となっているため、ユニバーサルツーリズムがよりいっそう注目されています。
合理的配慮については、以下の記事でも詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
2.ユニバーサルツーリズムの具体例と実践例

2-1.ユニバーサルツーリズムを導入している国内の観光地
ユニバーサルツーリズムを導入している観光地として、奄美大島が有名です。
鹿児島県では、ユニバーサルツーリズム観光地情報(指宿・奄美地区)を作成し、同時に介助者マニュアルを提供しています。
さらに、鹿児島県ユニバーサルツーリズム情報誌を作成し、各エリアの観光情報を紹介しています。
あやまる岬観光公園では、サンゴ礁の海を一望できるスポットまで車椅子で移動可能です。
また、奄美の自然や文化を学べる奄美パークは、館内がバリアフリー対応しており、ゆっくりと時間をかけて観光を楽しめます。
鹿児島県観光サイト「かごしまの旅」では、1泊2日で奄美大島を観光できるユニバーサルツーリズムモデルコースの情報を提供しています。
参照:ユニバーサルツーリズムモデルコース 4)奄美大島コース|かごしまの旅
また、ユニバーサルツーリズム先進都市として知られている三重県では、2013年6月に開催された「第3回バリアフリー観光全国フォーラム 伊勢大会」において、「日本一のバリアフリー観光県推進宣言」を表明しました。
2015年には三重県バリアフリー観光ガイド「みえバリ」を発行する取り組みを行うなど、積極的な姿勢を示しています。
さらに、NPO法人 伊勢志摩バリアフリーツアーセンターでは、「行けるところ」より「行きたいところへ」をコンセプトとして、バリアフリーに対応した宿泊施設や観光施設の案内や、旅行アドバイスを行っています。
2023年11月から12月にかけて、1日2日で伊勢神宮を含めた伊勢志摩の観光スポットを楽しめる伊勢志摩モデルツアーが開催され、好評を博しました。
ほかにも、山形県天童市にある天童温泉において、2021年に株式会社DMC天童温泉が中心となった地域一体ユニバーサルデザイン化がスタートしました。
地域の参加事業者と一緒に、障害の有無に関係なく国内外の誰もが気兼ねなく温泉旅行を楽しめる地域を目指し、天童温泉のスタッフを対象としたケアサービス研修などが開催されています。
さらに、各ホテルや旅館で続々とユニバーサルデザインの部屋や入浴施設が誕生し、誰でも利用しやすいように工夫されています。
2-2.国と企業のユニバーサルツーリズムの取り組みを紹介
日本国としては、国土交通省が中心としてユニバーサルツーリズムを推進しています。
観光立国推進基本法に基づいて、2012年3月31日に閣議決定された「観光立国推進基本計画」に従って、以下の戦略に向けて取り組んでいます。
- 持続可能な観光地域づくり
- インバウンド回復
- 国内交流拡大
特に強く推進しているのが、観光施設における心のバリアフリー認定制度です。
認定基準を満たした観光施設に対して認定を与える制度であり、観光施設のさらなるバリアフリー対応やその情報発信を支援して、高齢者や障碍者がより安全かつ快適な旅行をするための環境整備を推進しています。
心のバリアフリーについては、以下の記事でより詳しく解説しています。
参照:心のバリアフリーとは? 事例を交えてわかりやすく紹介!
国レベルではなく、企業レベルでもユニバーサルツーリズムに対する取り組みを行っています。
総合旅行会社として有名なHISでは、2002年にユニバーサル・ツーリズムデスクを設置しました。
ユニバーサル・ツーリズムデスクでは、介護や福祉関連の専門知識を持ち合わせたスタッフや、手話対応できるスタッフが旅行の相談や手配などを担当しているのが特徴です。
また、車椅子や杖が必要な人に向けて、添乗員付きの団体ツアーであるバリアフリーたびのわなどのツアーを提供しています。
近畿日本ツーリストでは、医療機器や用具メーカーとの連携によって、独自性の強いユニバーサルツーリズムへの取り組みを行っています。
ストーマ装具メーカーであるアルケア株式会社との連携によって実施したオストメイトツアーでは、ストーマ装具工場見学や温泉入浴体験会を日帰りで実施しました。
意見交換によってストーマ装具メーカーに対して直接要望を伝える体験や、参加者専用の着替えスペースが確保された温泉施設で、周りの目を気にせず楽しめたとの声が多数寄せられ、好評を博しました。
参照:近畿日本ツーリストが実践するユニバーサルツーリズム推進活動の取り組み|近畿日本ツーリスト
ほかにも、東京での観光情報や交通、宿泊などの手配サービスを提供している東京シティアイでは、観光情報センターでのユニバーサルツーリズムへの取組みを行っています。
東京オリンピックを契機として、東京都のバリアフリー専門家派遣事業を活用してアドバイザーに施設のチェックを受け、バリアフリー化を推進しました。
さらに、コンシェルジュスタッフのほぼ半数が手話が可能であり、手話による対応が評価されて、観光庁の観光施設における心のバリアフリー認定制度への認定と東京都の心のバリアフリーサポート企業に認定されました。
2-3.海外における先進的なユニバーサルツーリズムの取り組み
海外では、ユニバーサルツーリズムではなくアクセシブル・ツーリズムと呼ばれています。
アクセシブル・ツーリズムを推進する組織として、以下が存在します。
- アクセシブルツーリズム欧州ネットワーク(ENAT 【European Network for Accessible Tourism】)
- アクセス・ザ・グローブ(access the globe)
- トラベル・フォー・オール(TRAVELL FOR ALL)
- デスティネーション・エブリウェア(Destination Everywhere)
特に、ENATはアクセシブル・ツーリズムへの取組みを実践している観光関連事業に対して、認証を与えるなどの取組みを行っていることで有名です。
企業単位でもアクセシブル・ツーリズムに対する取り組みが見られ、北欧を中心に展開しているスカンディック・ホテルでは、全てのホテルで101のアクセシビリティの共通基準を設定しています。
また、障害者に対するサービスについて、ホテルスタッフへの研修を実施しています。
さらに、スカンディック・ホテルのWebサイトでは、全てのアクセシビリティに関する情報を公開しており、利便性が高い点が魅力的です。
3.ユニバーサルツーリズムに対応した旅行会社の選び方
ユニバーサルツーリズムを実践するためには、個人でプランニングする方法以外にも旅行会社を利用する方法があります。
旅行会社を利用する場合、以下の観点でどの旅行会社を選ぶかが重要です。
- 付き添い(サポート)の充実度
- プランの充実度
- 料金
通常の旅行では、添乗員が各種サポートを行うのが一般的です。
一方でユニバーサルツーリズムの場合は、付き添う形で各種サポートを行うスタッフがいるかどうかは、選定時にしっかりと確認してください。
特に、介護福祉士や看護師などの有資格者がいる旅行会社の方が、さらに安心してユニバーサルツーリズムを楽しめます。
またプランの充実度も、旅行会社を選ぶ際に重視したいポイントです。
自分が抱える障害に対応している旅行プランがあると、より自分に合った旅行を楽しめます。
旅行会社によっては完全オーダーメイドで旅行プランを立てられるプランが用意されている場合もあるので、時間に追われることなくじっくりと観光したい場合は、クラブツーリズムが提供しているゆったり旅のようにニーズを満たしてくれる旅行会社を選ぶのが良いでしょう。
一方国土交通省が実施したアンケートでは、ユニバーサルツーリズムが増加しない理由の1つとして費用の高さが挙げられており、それに対応した旅行も、どうしても費用が高くなりがちです。
そこで、なるべく安く旅行できるプランが用意されているかどうかもチェックしてください。
特に、オプションを利用する際にはどの程度の費用がかかるのかを、他社と比較しながら確認しましょう。
4.ユニバーサルツーリズムの課題と克服への道筋

ユニバーサルツーリズムが普及する中で、以下の課題が表面化しています。
- バリアフリー対応した施設がまだ少ない
- ユニバーサルツーリズムを実践するための情報が少ない
- 対応スキルが不足している
ひとつめは、バリアフリー対応した施設がまだ少ないため、ユニバーサルツーリズムがプランニングしにくい課題というものです。
単純にバリアフリー化を推進するだけでなく、対応が難しい場合はエレベーターの有無や部屋や浴室の写真などの情報を積極的に公開するだけでも、ユニバーサルツーリズムを楽しむための利用者側にとっては有益な情報となるのです。
Ayumiでは、バリアフリー認証と呼ばれるサービスを提供しています。
これは、物理的バリアフリーや障害者への接客に関する調査や審査・認証を、障害者とともに行い、店舗のバリアフリー対策を中心とした認知向上及びリスク回避を総合支援するサービスです。
バリアフリー対応の妥当性を証明できる機会となるだけでなく、バリアフリー化における課題を発見して店舗の予算に合った最適な改善策を提案している特徴があります。
参照:バリアフリー認証事業
ふたつめに、ユニバーサルツーリズムに対する課題として、情報が不足しているという点が挙げられます。
自分でプランを組んで旅行したくても、バリアフリーに関する情報が不足している場合が多いです。
そこで、ユニバーサルツーリズムを楽しむための情報提供が、各施設や観光スポットに対しても求められます。
Ayumiが運営している「バリアフリー情報サイトふらっと。」では、全国版及び都道府県ごとにバリアフリーに関する情報サイトを紹介しています。
また、新幹線や飛行機の利用方法などに関する情報も提供しているので、以下の記事もぜひ参考にしてください。
参照:【新幹線で車椅子旅行】車椅子席や多目的室の予約方法を体験談を交えて詳しく解説!
参照:【車椅子での飛行機の搭乗手続きや航空券の予約方法を解説!受けられるサポートもご紹介
加えて、そのほかの課題として、対応スキルが不足しているケースが多い点も見逃せません。
特に、合理的配慮に対して正しく理解したうえで、具体的にどのような行動を取れば良いのか悩んでいる組織が多いでしょう。
Ayumiでは、合理的配慮ワークショップの研修を提供しています。
バリアフリー対策だけでなく、障害者に対する接客まで含めた、合理的配慮の提供に関するアドバイスを実施しているので、気になる方はぜひお問い合わせください。
参照:合理的配慮ワークショップ研修の受け付けを開始。2024年4月に義務化される“障害者への合理的配慮の提供“を支援します。
5.まとめ
ユニバーサルツーリズムは、障害の有無に関係なく誰でも旅行を楽しむために重要な考え方です。
国内外でも、ユニバーサルツーリズムを推進するためのさまざまな取り組みを行っています。
ただし日本では、実際にはまだまだユニバーサルツーリズムを楽しむための環境が整っていないのが実情です。
ユニバーサルツーリズムの普及によって、誰もが楽しめる観光の未来を目指していきましょう。