みなさんは紫外線を浴びてはいけない病気をご存知でしょうか?
紫外線は決して屋外だけに降り注ぐものではありません。飲食店やショッピングモールなどの室内でも、紫外線を浴びる場合があります。紫外線を浴びることができない方にとっては、生きづらさを感じる大きな原因となります。
今回は、色素性乾皮症のたっくんのママで料理研究家のTAEさんを取材させていただきました。
TAEさんは、生きづらさを感じた経験から、紫外線カットフィルムの普及活動や2021年には絵本『たっくん』の出版など、色素性乾皮症を知ってもらうための活動を精力的にされています。
難病と診断された時の心境や、TAEさんが目指す紫外線のないバリアフリーな空間「クリアドーム」の設立についても迫りました。
目次
1.色素性乾皮症ってどんな病気?
難病指定されている色素性乾皮症は、国内に300〜600名程度しかいないといわれる珍しい病気です。
一般の方に比べ皮膚がんになるリスクは数千倍とされており、日光に当たると激しく日焼けし、治るのに1〜2週間要することもあります。
たっくんは紫外線を浴びないよう、外出時には日焼け止めを塗ったうえで、防護服や帽子、手袋の装着をしています。また紫外線の測定器を持ち歩き、たっくんにとって安全な場所を見極めているそうです。
1-1.成長と共に感じる病気の進行
【インタビュアー(ライター):赤石/インタビュイー:TAEさん】
赤石:色素性乾皮症は進行性の病気とありますが、どのように病状が進行しているのでしょうか?
TAEさん:たっくんの今の状態は、立ち上がることが難しく、自宅の中で移動する時は私が両脇を支えながら一緒に歩いている感じですね。
生まれたときは普通に歩けていて、お喋りもできていたので、毎朝「いい夢見られた?」と私に聞くのがたっくんの口癖でした。
ただ、成長と共に難聴の症状が現れたり、知的障害も進んできたりしているので、言葉が不明瞭になってきているのも事実です。
毎年誕生日が訪れるたびに、おめでとうという気持ちと「今年は何ができなくなるんだろう」という不安があるので、複雑なのが正直なところですね。
1-2.生活の中で意識していること
赤石:生活の中で意識されている点はありますか?
TAEさん:手助けしすぎないことを心がけています。
生活は全般的に介助が必要なのですが、たっくんの運動機能を維持させるためにも、階段は一緒に手すりを持って上るなど、自分でできることはなるべく手伝わないようにしています。
あと、たっくんは人が大好きだから、知らない人でもよく挨拶をするんです。前は止めなきゃと思っていたのですが、私自身が周りの目を気にしすぎていたと気づいたんです。
たっくんは返事が欲しいわけでもなく、純粋に挨拶がしたいからしているのです。人に迷惑がかからないのであれば、本人の意思を尊重するように心がけています。
もちろん映画館で爆笑した時は「シー」って注意しますよ笑
でも周りの子供と比較したり、たっくんの行動を決めつけたりしないようにしています。
2.TAEさんってどんな人?
料理研究家のTAEさん。
障害者との関わりはこれまでになく、どう接していいか分からなかったといいます。しかし、たっくんが生まれたことによって、たくさんの気づきを与えられたそうです。
料理研究家も、食でたっくんを支えたいという思いから始められました。
病気と診断されたのは2歳の時。身体にシミが現れ、日に日に増えていくことに疑問を感じたのがきっかけでした。
地元の病院で原因が特定できず、最終的にはたっくんと2人で神戸市内の病院に1週間検査入院をし、診断を受けました。
ここからは、診断を受けてから現在の活動に至るまでのルーツに迫っていきます。
2-1.ある日気づいたたっくんの異変
赤石:たっくんが色素性乾皮症と診断を受けた際の心境を聞かせていただけますか?
TAEさん:遺伝性の病気と聞いて、とにかく自分を責めました。
病気についてインターネットで調べると、寝たきりで意思疎通が困難な人が出てきて、隣にいる2歳になったばかりのたっくんもいずれ同じような運命を辿ると考えると、自分を責めずにはいられなかったです。
その時すでに皮膚がんの可能性がある箇所があり、レーザーで除去してもらったのですが、小さい子供が泣き叫んでいるのに、何もしてあげられないことが本当に辛かったです。
今だから言えますが、正直たっくんと一緒に消えちゃいたいとすら思いました。
赤石:それを思いとどまれた理由を教えていただけますか?
TAEさん:やっぱり家族の存在が大きいですね。
1週間の検査入院を終えたときに、家族や両親が新幹線で迎えにきてくれたんです。診断を受けたばかりで、紫外線について何もわからなかったのですが、父が持ってきたUVカットパーカーでたっくんを包んで、タクシーに乗り込みました。
新幹線の中でも、同じ車両の方全員にお願いをしてカーテンを閉めさせていただき、みんなでたっくんを守りながら一緒にお家に帰ったことで、改めて家族の大切さを感じました。
そして、娘も私たちの帰りを待っていてくれて、「この子たちを守らなきゃ」と思えたのも大きな理由です。
2-2.絵本『たっくん』の制作秘話
赤石:絵本の制作のきっかけを教えてください。
TAEさん:たっくんは26〜7歳までの寿命と言われています。なので、たっくんの生きた証を残したく、絵本を作りたいという思いは前からありました。
そんな時に絵本作家さんと出会うきっかけがあり、絵本にかける想いを話しているうちにとても共感していただいて、全面的に協力いただけることになったんです。
そして、より多くの方に絵本を届けたいという思いから1,000冊分の協賛を募ったところ、本当にたくさんの方々に賛同いただき、作ることができました。
赤石:絵本はたっくんの実話が元になっているとのことですが、TAEさんが強く印象に残ったエピソードは何でしょうか?
TAEさん:たっくんと娘と私でペットショップに行ったときですね。
そこに小さな兄妹が来て、たっくんを見て「お兄ちゃん、この子の顔汚いよ」って言われたんです。もちろんその時は、とても悲しかったです。
でも、ニューヨークのバスで出会った子供は、たっくんを見て「その帽子めちゃめちゃイケてるね!どこで売ってるの?」って前のめりで聞いてくれました。病気については、それほど関係ないようで、たっくん自身に興味を持ってくれたんです。
アメリカでは、人種、肌、宗教も異なり、障害者も当たり前に社会の中に溶け込んでいるため、日常的に様々な人と触れ合う機会が多くあります。
この気づきが、クリアドームの建設を目標とするきっかけにもなりました。
2-3.たっくんプロジェクトとは
赤石:たっくんプロジェクトはどのようにして始まったのですか?
TAEさん:2022年6月に行われた運動会がきっかけなんです。
たっくんはもう歩くことが難しくなっていて、家の中でも歩いた姿は見たことがありませんでした。
運動会で60m走ると聞いたとき、親である私ですら信じられませんでした。それでも先生と一緒に歩行の練習を繰り返し、当日は一度も転ぶことなく完走したんです。
運動会は屋外なので、もちろん防護服に手袋は欠かせません。走りながら防護服が落ちないよう手で支えて一生懸命走っている姿に涙が止まりませんでした。
そのとき、たっくんが紫外線を気にすることなく、思いっきり走ることのできる環境を作りたいと思い、たっくんプロジェクトを立ち上げました。
赤石:たっくんプロジェクトでは、どんな活動を行われているのですか?
TAEさん:一つは、紫外線カットフィルムの普及活動をしています。
たっくんの病気が診断されて、私たちが最初に行ったのが、家の全ての窓に紫外線カットフィルムを貼ったことでした。
実は、紫外線のカットだけではなく、ガラスの飛散を防ぐのにも有効なんです。飲食店さんなどに対して、ただ単にフィルムの貼付をお願いをするのではなく、みんなにとってプラスになるように一緒に考えながら進めています。
また、お料理教室の仲間や友人で想いに共感してくれているメンバーと共に、お店の紫外線を調査したり、色素性乾皮症をより広く知ってもらえるよう意見を出し合ったりしながら、紫外線のない世界を目指しています。
3.紫外線ゼロを当たり前の世界に
赤石:TAEさんが目標に掲げているクリアドームとは、どんな施設なのですか?
TAEさん:私自身たっくんが生まれてきてくれて、福祉の世界を知る中で、たくさんの気づきを与えてもらいました。しかし、学校を卒業すると途端に障害を持つ方との接点が減ると考えています。
私が考えているクリアドームは、色素性乾皮症の当事者だけの施設ではありません。例えばクリアドームを掃除する方がダウン症だったり、キッチンカーでコーヒーを販売している人が車椅子だったりと、違いがあることが当たり前に感じられる施設を目指しています。
社会に居場所を見つけることが難しい方でも、クリアドームに足を運べば、人と違うことが当たり前の世界なので、生きづらさの解消にも繋がると思うのです。
紫外線のない全天候型施設で、車椅子利用者やベビーカーを利用するファミリーが自由に遊び回りながら、違いを認め合える世界を作りたいですね。
赤石:クリアドームを作ったらたっくんとどんなことをしたいですか?
TAEさん:私たちが住んでいる家の隣には公園があるんです。
子供達が遊べるようにと立地を考えて建てたものの、たっくんと家の中から見ることしかできていません。
だから、半袖半ズボンで芝生の上をゴロゴロしたいですね。
クリアドームができる頃には、もしかすると歩けなくなっているかもしれないけど、それでもいいんです。ただ純粋にたっくんと娘と一緒に太陽の下でゆっくりとした時間を過ごしたいです。
4.障害児を抱えるママへ伝えたい言葉
赤石:TAEさんと同じように、障害児を持つお母さんへ、どんな言葉を届けたいですか?
TAEさん:私も人に相談することが苦手で、ずっと1人で抱え込んできました。同じ状況のママが周りにいないことで、相談したら相手も辛くなると思っていたからです。
でも我慢し続ければ続けるほど辛くなってきます。人に話すことで、こんなにも楽になると、昨年になってようやく気づくことができました。
だから辛いときは「辛い」って言っていいんです。
私がたっくんプロジェクトを作った理由の一つは、心に溜め込むママを1人でも減らしたいと思ったからです。私たちは2ヶ月に一度オンラインコミュニティを開催し、思っていることを話せる環境を作っていきます。
いいことでも悪いことでも何でもいいんです。
同じ状況のママが少ないからこそ、私たちが受け止める場所となれるといいなと思います。
5.最後に
TAEさんを取材する中で、たっくんへの愛がたくさん伝わりました。
筆者は一度お会いしたことがあり、その時の印象は、綺麗でカッコいいママという印象。しかし、その背景には、たくさんの方々の支えがあったのだと気づきました。
そして何より1番の支えとなっているのは、お母さんが大好きなたっくんの存在なのだと思います。
たっくんの様子やたっくんプロジェクトは下記SNSからご覧いただけます。
Instagram:https://www.instagram.com/takumi.project.uv/
たっくんプロジェクト公式ホームページ:https://www.uvcut.info/
障害者や健常者といった言葉が必要のないバリアフリーな空間「クリアドーム」が実現できることを心から楽しみにしています。
Ayumiでは以前、TAEさんと同じく難病で、国内で2例しかない疾患の子供を持つママを取材させていただきました。こちらもぜひご覧ください。