障害者におけるノーマライゼーションとは?8つの原理やバリアフリーとの違いをわかりやすく解説!

ノーマライゼーションについて考えよう

障害者の社会生活を語る上では、欠かせない考え方である「ノーマライゼーション」。

ノーマライゼーションは元々、社会福祉用語であり一般的には馴染みのない言葉でしたが、最近では、厚生労働省が推進したことにより、少しづつ世間的にも広まってきています。

しかし、ノーマライゼーションという言葉だけを知っていても、あまり意味を理解していないという方も多いのではないでしょうか?

今回は、ノーマライゼーションの定義や歴史、具体的な日本における取り組み事例を解説します。

1.ノーマライゼーションとは?

1-1.ノーマライゼーションの基本的な定義と歴史

ノーマライゼーションは、高齢者や障害のある人が年齢やハンディキャップなどに関わらず、健常者と同等のノーマルな社会生活が送れるようにするという考え方です。

英語では「normalization」と表記され、日本語では「正常化」や「標準化」などと訳されます。

ノーマライゼーションは、社会福祉業界から生まれた言葉であり「障害や年齢を理由に特別視、差別することなく健常者と同じように社会生活を送ることを目指す」と定義されています。

この「ノーマライゼーション」という言葉が誕生したのは、第二次世界大戦終了後のデンマークで知的障害者施設で虐待を受けていた利用者たちの親が改善を求める運動を始めたのがきっかけです。

そして、ニルス・エリク・バンク-ミケルセンというひとりの行政官が福祉思想を提唱し、1959年のデンマークの「知的障害者福祉法」の中で初めてノーマライゼーションという言葉が使われました。

この法律は、知的障害者は一般人と同じ権利が保障され、障害者が普通の社会生活を送れるようにするための原点となりました。

その後、世界中にこの言葉が広まり、今日では社会福祉の基本理念となっています。

1-2.厚生労働省が掲げるノーマライゼーションの理念

日本も、世界と同じようにノーマライゼーションという基本的な理念のもと、​​障害者の自立と社会参加を推進しています。

とくに日本では、利用者自身がサービスや制度を選択できるようにするなど、障害者の主体性を尊重しています。

また、サービス事業所と利用者の対等な関係を確立するため、従来の行政が入所する福祉施設を決定するのではなく、利用者が直接選択できる​​支援費制度を平成15年に導入しました。

1-3.ノーマライゼーションとバリアフリーの違い

ノーマライゼーションとバリアフリーの違いは、考え方とその考え方を実現する手法・手段であるかどうかです。

ノーマライゼーションは「年齢や障害の有無に関わらずに、誰もが当たり前の社会生活を送れるようにする」という考え方です。

一方で、バリアフリーは「障害者が社会生活を送る上で障壁(バリア)となるものを取り除き、生活しやすいようにする」という意味で使われています。

つまり、ノーマライゼーションの基本的な考えのもと、障害者や高齢者が生活しやすいように工夫したり、形にして実現させる手段がバリアフリーなのです。

たとえば、商業施設を建設する時、車椅子や足の不自由な人を含めた誰もが利用できる設計にしようという考えがノーマライゼーションであり、それを実現して形にするのがバリアフリーになります。

関連記事:バリアフリーとは?言葉の意味や定義・身近な実例をふまえてどこよりもわかりやすく説明!


2.​​ベンクト・ニィリエの「ノーマライゼーションの8原理」とは?

ノーマライゼーションの8原理

スウェーデンのベンクト・ニィリエ氏は、ノーマライゼーションの生みの親であるニルス・エリク・バンク-ミケルセンの影響を受け、ノーマライゼーションを体系化するために8つの原理にまとめて国際的に広めた人物です。

そのため、ニィリエ氏は「ノーマライゼーションの育ての親」とも言われています。

ここでは、ノーマライゼーションの8原理を具体的な事例とともに解説していきましょう。

2-1.一日のノーマルなリズム

どんな障害者も健常者と同じように、朝起きて学校や仕事に行き、夕飯を食べて入浴し、夜に眠るといったごく当たり前に1日の生活リズムを送ることを指しています。

また、洋服に着替えて身支度を整えることや、できるだけ席について自分のペースで食事をするリズムなどのことです。

たとえば、これらのリズムのなかで、介助者の都合によって夕食の時間が早まったり遅くなったりするのはノーマライゼーションの意に反しています。

2-2.一週間のノーマルなリズム

一週間でのノーマルなリズムとは、仕事や学校に行って、休日には余いい暇を楽しむことを指します。

休日には、友人と遊んだりのんびりと家で好きなことをして過ごしたりして、リフレッシュします。

それから、また仕事や勉学に励むというメリハリのある生活リズムを送る権利は、障害者であっても保証されているのです。

2-3.一年間のノーマルなリズム

一年間のノーマルなリズムは、四季を通じてのイベントやスポーツ、仕事などを楽しむことです。

たとえば日本には、春になるとお花見、夏になれば夏祭りといったようにさまざまなイベントがあります。

こうした、季節の行事に当たり前に参加して楽しむ権利は障害者にもあります。

また、仕事も単調なものではなく、繁忙期や閑散期を感じられることもあるでしょう。

2-4.​​ライフサイクルにおけるノーマルな発達的経験

人生において、障害者も健常者と同じような経験をして成長していくことを指します。

たとえば、幼少期は公園で遊び、青年期になるとファッションや音楽、異性に興味をもち恋をするといったように、健常者であれば誰もが経験するであろう出来事を障害者も体験していくことです。

こうした経験により、歳を重ねた頃には、障害の有無に関わらず経験豊富で知性溢れる人間へと成長していくでしょう。

2-5.ノーマルな個人の尊厳と自己決定権

障害の有無に関わらず、個人の尊厳を認め、誰もが自分の意思で物事を決められる権利を指します。

たとえば、大人になれば好きな場所に住み、自分に合った仕事を選べるような環境であるのが当たり前です。

また、自らの意思で決定したことは、社会や周りの人たちが認めて受け入れてくれるようなあたたかい雰囲気も必要です。

2-6.その文化におけるノーマルな性的関係

障害の有無に関わらず、誰もが異性と性的関係を持つことができる権利を指します。

現在は、多様性の社会なので必ずしも異性であるとは限りませんが、誰かに恋心を抱くのは自然なことです。

障害があるからといって、交際や結婚を諦めるのではなく、健常者と同じように人を好きになっていいのです。

そして、お互いの同意があれば健常者と同じように性的関係を持ち、結婚することもできます。

2-7.その社会におけるノーマルな経済的水準とそれを得る権利

平均的な経済水準を保証するために公的財政援助があり、それを誰もが受けられる権利を指しています。

働く上では、最低賃金基準法のような保障を設け、障害者であれば障害者年金の受給を検討して経済的安定を図ることができる制度が日本にはあります。

そして、得たお金は趣味や買い物、生活のためなど自分で自由に使えることも前提です。

2-8.その地域におけるノーマルな環境形態と水準

ノーマルな環境形態とは、居住を含めた生活環境のことを指します。

障害者だからといって、大きな施設に入る必要はありません。

普通の社会生活を送るためには、隔離された場所ではなく、普通の大きさの家で生活するのが一番です。

もちろん、障害の重さや介護する家族のことを考慮した上で、本人の住みたい環境を尊重します。

誰もが社会生活の中に溶け込み、普通に暮らすことはノーマライゼーションの基本です。

参照:The Normalization Principle and Its Human Management Implications|Bengt Nirje


3.日本におけるノーマライゼーションの取り組み事例を解説

ノーマライゼーションにおけるチャレンジ

3-1.厚生労働省の取り組み

厚生労働省は、「障害のある人もない人も、互いに支え合い、地域で生き生きと明るく豊かに暮らしていける社会を目指す」という理念のもと、障害者の自立と社会参加のためのサービス提供を推進しています。

たとえば、2006年4月に施行された「障害者支援自立法」では、これまで障害の種別によって提供されていたサービスを障害の種別関係なく受けられるように一元化しています。

これによって、制度間の格差がなくなり障害を持つ誰もが自分にあった支援サービスを利用できるようになりました。

また、利用者負担についても所得に応じた負担から、利用するサービス量と所得の2つの観点から算出する仕組みや月額上限費の見直しを図っています。

さらに、​​2013年4月に障害者支援自立法は改正され「障害者総合支援法」が新たに施行。

支援の対象となる障害者の定義を拡大し、2019年時点では361疾病が対象となっています。

このように、ノーマライゼーションの考えを基盤に厚生労働省は、障害者が地域で暮らして行くための法律を定期的に見直し改革しています。

3-2.自治体の取り組み

ノーマライゼーションへの取り組みは、国だけでなく自治体にも取り組みとして反映されています。

神奈川県川崎市の事例では、障害福祉施策全体の推進を目的とした「かわさきノーマライゼーションプラン」を策定し、令和3年から令和8年の6年計画として以下のような施策体系を掲げています。

基本方針Ⅰ 育ち、学び、働き、暮らす~多様なニーズに対応するための包括的な支援体制(地域リハビリテーション)の構築~

  • 施策1:相談支援体制の充実
  • 施策2:地域生活支援の充実
  • 施策3:子どもの育ちに応じた切れ目のない支援体制の充実
  • 施策4:多様な住まい方と場の確保
  • 施策5:保健・医療分野等との連携強化
  • 施策6:人材の確保・育成と多様な主体による支え合い
  • 施策7:雇用・就労・経済的自立の促進


基本方針Ⅱ 地域とかかわる~地域の中でいきいきと暮らしていける「心のバリアフリー都市川崎」の実現~

  • 施策8:権利を守る取組の推進
  • 施策9:心のバリアフリー
  • 施策10:社会参加の促進


基本方針Ⅲ やさしいまちづくり~誰もが安心・安全で生活しやすいまちづくりの推進~

  • 施策11:バリアフリー化の推進
  • 施策12:災害・緊急時対策の強化


参照:第5次かわさきノーマライゼーションプラン施策体系図(2p)|川崎市


上記のプランは、​​「障害のある人もない人も、お互いを尊重しながら、ともに支え合う自立と共生の地域社会の実現」という理念をもとに、自治体が抱える問題や課題を計画的に改善していこうという取り組みです。

3-3.民間企業・団体の取り組み

民間企業や団体でも、ノーマライゼーションを意識した取り組みが行われています。

ソフトバンク​​では「障害の有無で仕事上の区別はしない」という理念のもと、業務内容や雇用形態も他の社員と同じのほか、昇給や人事評価の基準も同じです。

また、定期的な通院が必要な社員に対しては、月1日・年間12日取得できる「ノーマライゼーション休暇」を設けています。

ソフトバンクの障害者雇用の状況は、法定で定められている障がい者の雇用率2.3%に対して、2022年は2.46%(6月1日時点)を達成しています。

参照:ソフトバンクニュース|ソフトバンク株式会社


顧客視点でのノーマライゼーションという意味では「りそなホールディングス」が以下のような取り組みを実施しています。

  • 「優先ATM」「優先シート」の設置
  • 障害のある方が使いやすい店舗づくり
  • コミュニケーションボードの設置
  • 簡易筆談器・無線式振動呼出器
  • 認知症サポーターの配置
  • AEDの設置
  • 点字カレンダーの制作・贈呈

参照:ノーマライゼーションへの取り組み|りそなホールディングス


このように、民間企業が積極的にノーマライゼーションを取り入れることは、働き方やサービスの利便性が向上するきっかけにもなるでしょう。

3-4.個人ができる取り組み

ノーマライゼーションは、私たち一人ひとりの行動からも実現することができます。

たとえば、高齢者や障害者を特別視することなく、健常者と平等に接することも立派なノーマライゼーションに基づいた行動です。

また、障害者は障害の程度によって、できないことや苦手なことがそれぞれ異なります。

まずは、あなたの身近にいる障害をもった人の困りごとに耳を傾けてみてください。

障害を抱えている当事者のリアルな声を知ることで、偏見や誤解が減り、私たち一人ひとりのノーマライゼーションが育まれていくでしょう。

4.ノーマライゼーションの課題とこれから

ノーマライゼーションにおける課題を考える人々

政府や自治体、民間企業といったさまざまな団体が推進しているノーマライゼーションですが、日本においては以下のような課題があります。

  • 企業での認知度が低い
  • 適切な配慮が得られない
  • 障害者に対する偏見や差別

日本では、まだまだ障害者を受け入れる体制が整っている企業や、障害者雇用のノウハウを理解できている企業が少ないというのが現状です。

また、障害者が働く上で適切な配慮が受けられないことは、障害者雇用の離職率が高くなってしまう原因です。

そして、そもそも「ノーマライゼーション」という言葉そのものを知らないという方もいるので、障害者に対する偏見や差別をいまだに持っているという人も少なくありません。

どうしたらノーマライゼーションの正しい考え方が広まり世の中に浸透していくかが、今後の大きな課題になるでしょう。

5.最後に

ノーマライゼーションは「障害の有無に関係なく、誰もが当たり前の生活を送れる社会」を実現するための基盤となる考え方です。

政府や自治体、民間企業がノーマライゼーションを促進する取り組みは、日本でも活発化しています。
そして、私たち一人ひとりが障害に対する理解と知識を深めることが、ノーマライゼーションを実現するための第一歩となるでしょう。

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