障害をお持ちの方の中には、一人暮らしを考えている人や、一人暮らしをしなければならない状況下にいる人も多いのではないでしょうか?
しかし、障害者が一人暮らしをするには健常者よりも課題が多く、スムーズにいかないこともあります。
そこでこの記事では、障害者が一人暮らしをする際の注意点や、役立つサポート制度などを解説していきます。
目次
1.障害者が一人暮らしをするときの課題

1-1.バリアフリーな賃貸物件探し
障害者が一人暮らしをするには、アパートや借家などの賃貸物件を借りることがほとんどです。
しかし、賃貸物件を契約するには入居審査があり、家賃が滞りなく支払える状況であるかどうかの収入面や、入居者がどのような人物であるかも審査対象になります。
審査基準は大家さんや物件状況によって異なりますが、障害者に部屋を貸すことに抵抗を感じてしまう方も少なくありません。
現在では、障害だけを理由に物件契約を断るのは、障害者差別解消法で「障害による不当な差別」という扱いになるため禁止されていますが、現状としては理解がされないことも多いのが事実です。
また、車椅子ユーザーの場合は、段差がなく移動しやすいバリアフリーな賃貸物件を探さなければなりません。
障害者の物件探しは、健常者よりも入居審査が通りづらいことに加えて、物件に対する条件も多いため、探す際には苦労することも多いでしょう。
ただ、最近では障害者の物件探しをサポートしてくれる不動産会社を探せる「FRIENDLY DOOR」のようなサービスもあるので、探しやすくなっています。
参照:FRIENDLY DOOR|不動産・住宅情報サイトLIFULL HOME’S
また、Ayumiではバリアフリーな物件を探すときの注意点や、バリアフリーな家づくりに関しての記事も掲載しているので、以下の記事も参考にしてください。
関連記事:バリアフリーな物件を探す時の注意点、家を探す前にこれを見て不安を解消しよう!
関連記事:【プロに聞きました!】障害児と暮らすバリアフリーな家づくりに大事なこととは?
1-2.一人暮らしにかかるお金はいくら必要?
一人暮らしにかかるお金は、総務省統計局の2022年家計調査によると、1ヶ月あたり161,753円です。
過去15年の消費支出を見てみると、15〜17万円で推移しています。
生活費の主な支出の項目と目安金額は、以下のとおりです。
項目 | 金額 |
家賃※ | 5〜8万円 |
食費 | 3.5〜4万円 |
光熱費(電気・ガス・水道) | 1〜1.1万円 |
通信費(携帯・ネット) | 1万円前後 |
交際費その他の備品費用 | 3〜5万円 |
※家賃については「全国賃貸管理ビジネス協会」のデータを参考
参照:参考:全国家賃動向 2023年8月調査|全国賃貸管理ビジネス協会
一人暮らしにかかる生活費は、その人の収入やライフスタイルによって大きく異なりますが、上記は一人暮らしをする際の参考になります。
家賃は、立地のいい都市部であれば高くなりますが、地方や郊外に住むことで安く抑えられます。
一人暮らしにかかるお金を把握して、準備をしておくことは大切です。
1-3.服薬管理
障害者が一人暮らしをする上での大きな課題は、毎日の服薬管理です。
病院や施設であれば、看護師が服薬管理をしてくれる場合もありますが、一人暮らしになると自分で管理しなければなりません。
服薬管理をしっかり行えるかどうかが、一人暮らしできるかどうかの一つの課題であり判断基準になります。
1-4.家事・食事などの日常生活
一人暮らしは、洗濯や部屋の掃除などの家事や毎日の食事を一人でこなしていかなければなりません。
部屋を衛生的に保ち、栄養バランスのとれた食事をとることは、心身の健康にも繋がるので大切です。
しかし、障害があると自力で全ての家事をするのは、難しいでしょう。
そこで利用したいのが、後ほど詳しく解説する障害者が利用できる自立生活援助や居宅介護などのサポート制度です。
これらのサービスを利用することで、障害者であっても一人暮らしをすることは十分に可能です。
2.障害者が一人暮らしで困ったときに相談できる窓口

障害者が一人暮らしをするにはさまざまな課題がありますが、それらを一人で解決するのには限界があります。
ここでは、障害者の一人暮らしに関する相談ができる窓口をご紹介します。
2-1.各自治体の「社会福祉課」
障害者の困りごと全般を相談できるのが、住んでいる各自治体の「社会福祉課」です。
社会福祉課は、障害を抱えた人の一般的な相談窓口として機能しています。
また、障害者の困りごとを解決するために適切な機関に繋いでくれる役割を担っているので、まずはお住まいの地域の社会福祉課に相談してみましょう。
2-2.障害者の相談窓口「基幹相談支援センター」
基幹支援相談センターとは、障害者やその家族の支援業務を行っている施設です。
基幹相談支援センターは、地域における相談支援の中核的役割を担っており、身体障害者、知的障害者及び精神障害者に対する相談等の業務を総合的に行っています。
また、病院や施設と連携した地域移行・地域定着支援、障害者に対する虐待や権利の保護に関する相談支援を行っています。
基幹相談支援センターは、令和3年4月時点で全国1,741市町村のうち873市町村・1,100箇所、約50%の割合で設置されており、その多くは単独ではなく役所や公共施設に併設されていることがほとんどです。
そのため、相談したい場合は市町村役場に問い合わせてみましょう。
2-3.障害者の支援計画をサポートしてくれる「特定相談支援事業所」
特定相談支援事業所とは、相談支援センターとも呼ばれており、障害福祉サービスを利用する際の相談窓口です。
障害者が一人暮らしをする際には、さまざまな障害福祉サービスが受けられます。
障害福祉サービスを受けるには「サービス等利用計画」を作成し、市町村に提出する必要があります。
利用計画は自分でも作成可能ですが、どのような支援を受ければいいのかわからないという方も多いでしょう。
そこで、特定相談支援事業所に相談することで、自分に合った障害福祉サービスを教えてくれたり、計画書類作成のサポートをしたりしてくれます。
2-4.地域で暮らし続けるためのサポート支援をしてくれる「一般相談支援事業所」
一般相談支援事業所とは、障害者が地域で暮らしていけるようにサポートする機関です。
一般相談支援事業所は、主に「地域移行支援」と「地域定着支援」2つの役割をになっています。
地域移行支援は、障害者が病院や施設を出てから地域生活に移行するための居住支援を行います。
地域定着支援は、一人暮らしの障害者や家族と同居していても障害や疾病などの関係で支援対象者が対応できない場合の緊急訪問や、緊急対応などをサポートしてくれるのが特徴です。
3.障害者が一人暮らしをする際に受けられるサポート制度

3-1.自立生活援助
自立生活援助とは、一人暮らしをしている又はしようとしている障害者に対して一定期間の間、職員の巡回訪問や支援を行う制度です。
定期的に一人暮らしの障害者の自宅を訪問し、生活をしている上での困りごとへの助言や問題解決のための情報提供などを行います。
自立生活援助の対象者となる方は、以下の通りです。
- 障害者支援施設やグループホームから一人暮らしに移行する人
- 既に一人暮らしをしているが地域生活に不安がある人
- 同居している家族の支援が得られずに実質一人暮らしの状況の人
上記のように自立生活援助は、一人暮らしをしているかどうかに関わらず、家族と同居していても十分な支援が受けられない障害者も対象となります。
そのため、一人暮らしに限らず幅広い生活での問題を抱えた人の制度として、自立生活援助は位置付けられています。
3-2.日常生活自立支援事業
日常生活自立支援事業とは、高齢や障害によって一人で日常生活を送ることに不安を感じている人が、社会福祉協議会との契約に基づき金銭管理や重要書類の保管・管理を行うサービスです。
対象者は、軽度の認知症や知的障害および預金管理や重要書類の取り扱いに不安がある方です。
また、認知症や知的障害の診断を受けていなくても、必要であれば利用できます。
日常生活自立支援事業の具体的なサービス内容は、以下の通りです。
- 福祉利用サービスに関する情報提供
- 郵便物の確認
- 住宅改造や居住家屋の賃借に関する情報提供
- クーリングオフ制度の手続き
- 住民票提出などの行政書類の手続き
- 医療費や公共料金などの支払い
- 年金・福祉手当に関する手続き
- 預貯金通帳や実印などの重要書類の保管・管理
これらのサービスは、いずれも本人が利用内容を理解していることと、利用意思が明確であることが前提です。
利用内容の理解ができない、判断能力がないと判断される場合は「成年後見制度」の利用を検討します。
3-3.居宅介護支援
居宅介護とは、障害者が地域生活を安心して送るための障害福祉サービスの一つです。
利用対象者は、18歳以上の身体障害・精神障害・知的障害で障害支援区分1以上と認定された人および、同等の障害を持つ18歳未満の障害児となります。
また、指定難病やその他特殊な疾病、事故などにより四肢や視覚障害となり、障害支援区分認定された人も居宅介護の対象者です。
居宅介護の具体的なサービス内容には、以下が含まれています。
- 身体介護:入浴、排せつ、食事等の介助
- 家事援助:調理、洗濯、掃除、生活必需品の買い物などの援助
- 通院等介助:通院などへの付き添い
その他、生活に関わる全般の行動介助や相談、助言なども居宅介護支援のサポート範囲です。
3-4.移動支援
移動支援とは、単独で外出が困難な障害者に対してヘルパーを派遣し、必要な移動の介助及び外出に伴って必要となる介助を支援するサービスです。
利用の対象となる人は、各自治体によって異なります。
たとえば、静岡県富士市の場合、身体障害における移動支援の対象となる障害者の要件は以下の3つに該当する人です。
引用元:移動支援事業について|富士市
- 身体障害者手帳の両下肢障害で1級又は2級に該当する重度の身体障害。
- 「社会生活上必要不可欠な外出」及び「社会参加のための外出」の支援が必要と認められる人。
- 適切な介護者を得ることができない場合。
移動支援サービスは、社会参加や余暇活動を楽しむためには必要不可欠であり、障害者の地域生活を支える制度です。
3-5.地域生活支援事業
地域生活支援事業とは、自立した日常生活または社会生活を営むことができるよう、市区町村や都道府県が独自に行うサービスです。
たとえば、地域生活に伴う相談や日常生活用具給付等など、障害者の日常生活をサポートするような事業を行っています。
また、地域活動支援センターの運営を行い、障害者の創作・生産活動を促進する事業もあります。
3-6.重度障害者でも「重度訪問介護」の利用で一人暮らしはできる
常に介護を必要とする重度障害者の方は、親亡き後に施設やグループホームに入るしか選択肢がないと思っている方も多いでしょう。
しかし、重度な障害を抱えていても適切な支援制度を受けることで、一人暮らしは可能です。
重度な障害を持っていて、地域社会で一人暮らしをしたい方は「重度訪問介護」という制度を利用します。
重度訪問介護の対象者は、障害支援区分4以上で以下のいずれかに該当する人です。
引用元:重度訪問介護|厚生労働省
- 二肢以上に麻痺等がある者であって、障害支援区分の認定調査項目のうち「歩行」、「移乗」、「排尿」、「排便」のいずれもが「支援が不要」以外に認定されている者
- 障害支援区分の認定調査項目のうち行動関連項目等(12項目)の合計点数が10点以上である者
重度訪問介護は、24時間365日の介護サービスが受けられる制度なので、重度障害者の方でも安心して一人暮らしができます。
また、利用料については低所得者の場合、原則無料です。
ただし、世帯収入が一定以上ある場合は、月9,300円〜最大3万7,200円の負担が発生します。
4.障害者が一人暮らしをするときの注意点や工夫を解説

4-1.引越し先での障害者手帳などの手続き
一人暮らしをするために、引っ越して住所が変更になったら速やかに住所変更を役所で行います。
しかし、忘れがちなのが障害者手帳や受給制度などの住所変更です。
障害者手帳には、住所が記載されている場合が多く、引っ越した場合は届け出が必要です。
障害者手帳については、同一区へ引っ越した場合は住所変更のみで、同一区外の場合は新たな手帳の発行となります。
そのほかにも、自立支援医療や障害年金を受けている人も住所変更をする必要があります。
住所変更は、引越し後忘れずに手続きを行うようにしましょう。
4-2.スケジュール・金銭管理の工夫
一人暮らしは、スケジュール・金銭管理をすべて自分で行わなければなりません。
障害の程度によっては、時間通りに行動できない場合もあるでしょう。
そのような場合には、事前にスケジュール管理アプリなどを活用し、時間を逆算しながら行動できるように工夫します。
また、金銭管理については、先ほど解説した日常生活自立支援事業を利用したり、家計簿をつけたりしながら、お金の管理ができるように工夫していきます。
4-3.防犯・災害時の対策
障害者にとって、在宅時や外出時の安全確保は重要です。
鍵の閉め忘れがないように、オートロック機能のついた部屋や防犯カメラなどの防犯設備が整っている物件がおすすめです。
また、災害時の対策としては、避難時に近所の人や支援機関のスタッフに誘導してもらえるよう事前に話し合っておくのがいいでしょう。
4-4.体調管理やメンタルケア
障害者は、健常者よりも体調管理やメンタルケアに気を配る必要があります。
とくに一人暮らしの場合は、他人から注意されることが少ないので、食事や生活リズムが乱れがちです。
一人暮らしを長く続けるためにも、生活の中で不安があれば、支援機関に相談するようにしましょう。
また、体調が悪くなった場合の相談先として主治医やかかりつけ医を見つけておくことも、メンタルケアや健康管理に役立ちます。
5.最後に
今回は、障害者の一人暮らしをテーマに頼れる支援制度や、生活での注意点をお伝えしてきました。
障害者であっても、自分に合った支援制度を利用することで一人暮らしは実現できます。
制度を利用しながら自立した生活を送ることは、人間的にも成長できるいい機会です。
この記事が「病院や施設でしか生活できる場所がない」と思っている障害者の方の新しい選択肢のひとつになれば幸いです。