就労継続支援B型では、障害のある方が就労して生産活動を行って収益が発生した場合には「工賃」としてお金が支払われます。
ただ、ここで1つ疑問になるのが「工賃としてもらったお金は確定申告の対象になるのか?」という点です。
今回は、就労継続支援B型で得た工賃の納税義務の有無や、自分だけでは判断が難しい場合の対処法を解説していきましょう。
目次
1.就労継続支援B型とは?
就労継続支援B型とは、障害の度合いや年齢などの理由で継続的に雇用契約を結んでの就労が困難な場合に利用できる福祉サービスです。
就労継続支援には、B型の他にA型というものがあり両者の大きな違いは「雇用契約を結んでいるかどうか」です。
就労継続支援B型は、雇用契約を結ばず就労が可能なので自分のペースで働くことができ、作業した分の対価として「工賃」を受け取ります。
また、サービスの利用に年齢制限が設けられていないのもB型の特徴です。
一方で就労継続支援A型は、障害によって一般企業への就職が困難な方が、雇用契約を結んで支援を受けながら就労できる福祉サービスです。
就労継続支援A型は、B型とは異なり継続的に就業が可能な65歳未満(利用開始時の年齢)を対象としています。
2.工賃と賃金は何が違うの?工賃の特徴をわかりやすく説明
就労継続支援B型では、事業所によってさまざまな作業があり、その報酬の対価として「工賃」が支払われます。
一方で、就労継続支援A型で支払われる報酬は「賃金」や「給料」などと呼ばれています。
「工賃」と「賃金」の違いは雇用契約の締結に基づいて作業しているかがポイントです。
就労継続支援A型は、利用者と雇用契約を締結する必要があり、労働基準法上の労働者に該当するため、事業所は賃金を支払う義務が発生します。
また、支払われる賃金は最低賃金法(昭和34年4月15日法律第137号)が適用されるため、各都道府県ごとの最低賃金に基づいて賃金が支払われます。
一方で、就労継続支援B型では、利用者と雇用契約を締結せずに利用者が生産活動を行っているので、労働基準法や最低賃金法が適応されません。
しかし、就労継続支援B型で生産活動を行った利用者に対しては事業所などは「工賃」を支払う義務が発生します。
平成18年厚生労働省令第172号第29条によると、下記のように定められています。
指定障害者支援施設等は、生活介護、就労移行支援又は就労継続支援B型において行われる生産活動に従事している者に、当該生活介護、就労移行支援又は就労継続支援B型ごとに、生産活動に係る事業の収入から生産活動に係る事業に必要な経費を控除した額に相当する金額を工賃として支払わなければならない。
引用元:障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害者支援施設等の人員、設備及び運営に関する基準(平成十八年厚生労働省令第百七十二号)
つまり、就労継続支援B型は就労継続支援A型のように、雇用契約に基づいて支払われる「賃金」ではなく、生産活動で事業所が得た収入から必要経費を差し引いた「工賃」が支払われます。
ちなみに、令和2年度の就労継続支援A型・B型の平均工賃金額は以下の通りです。
令和2年度工賃実績 | 就労継続支援A型 | 就労継続支援B型 |
平均工賃(月額) | 79,625円 | 15,776円 |
平均工賃(時給換算) | 899円 | 222円 |
工賃についてもっと詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
3.工賃は確定申告が必要?判断の仕方を説明
一般的に就労継続支援A型のように、雇用契約を結んで得た賃金は「給与所得」に該当し、事業所で源泉徴収や年末調整されているので、特に確定申告を自分で行う必要はありません。
一方で、就労継続支援B型で得た工賃は「雑所得」と呼ばれ、源泉徴収や年末調整はされないので、確定申告の対象になります。
ただ、雑所得の実際にかかった経費の合計が年間で55万円未満であれば家内労働者等の必要経費の特例が適応されるため、確定申告の必要はありません。
先ほどの、就労継続支援B型の月額平均工賃を例に考えてみると15,776円×12ヶ月で189,312円となり、ほとんどの場合確定申告は必要ないといえるでしょう。
仮に、就労継続支援B型で年間55万円を超えて確定申告が必要な金額は、月額に換算すると45,833円以上です。
また、工賃以外にも所得があって併せて55万円を超えた場合は、確定申告が必要です。
例えば、事業所の工賃以外に副業を行って収入を得ている場合で、工賃と併せて55万円を超えている場合は、確定申告の対象となります。
4.確定申告を自分だけで判断できない場合はどこに相談すると良い?
4-1.就労継続支援B型専門の税理士に相談
確定申告や税金に詳しい職業といえば税理士が思い浮かびますが、税理士の中でもそれぞれ得意分野があります。
税理士であれば、全ての分野に精通しているように思われるかもしれませんが、実績や普段の依頼内容によって得意不得意が分かれるのです。
そのため、全く畑違いの税理士に依頼しても断られるケースも少なくありません。
就労継続支援B型の確定申告で、お悩みの方は障害者福祉サービス関係に強い税理士に相談することをおすすめします。
また、税理士を選ぶ際にはこれまでの経歴や実績などを参考にするのも良いでしょう。
4-2. 住んでいる市区町村の税務課や税務署に確定申告について相談
確定申告の相談は、住んでいる地域の市区町村役場の税務課や所轄の税務署でもできます。
ただ、市区町村役場の税務課は、一般的に国税を中心に扱っている税務署とは異なり、地方税がメインになります。
そのため、国税である所得税の相談を受け付けているのかは、事前に電話をして確認すると良いでしょう。
また、税務署に相談する場合も同じで、事前にどのような相談内容なのかを電話で伝えておくとスムーズです。
お住まいの地域を所轄する税務署が分からない場合は、国税庁の以下リンクから検索できます。
4-3.国税庁のホームページを確認
国税庁のホームページには「確定申告が必要な方」として、それぞれの条件に当てはまる人を公表しています。
ただ、国税庁の情報だけだとイメージしづらいので、継続就労支援B型で年間30万円の工賃をもらっていると仮定して、確定申告が必要なのか確認してみましょう。
所得税では、基礎控除といって誰でも48万円の控除が適用されます。
また、障害者控除といって障害者手帳を取得している人を対象にした控除があります。
これらの2つの控除と合わせて、先ほど解説した55万円の特例経費を差し引くと以下のような計算式になります。
(工賃30万円−経費55万円)−(障害者控除27万円+基礎控除48万円)= −100万円
上記のように、課税所得はマイナスになるので確定申告が不要であることがわかりました。
そして、国税庁のホームページにはチャットボットや電話で相談できる窓口があるので、そちらを利用するのも1つの方法です。
質問された金額を入力していくだけで、簡単に確定申告書が作成可能でデータも保存しておけるので便利です。
5.最後に
今回は、就労継続支援B型で得た工賃の確定申告について解説してきました。
基本的に就労継続支援B型の作業で得られる「工賃」は、税務上では「雑所得」として計上され、必要経費が年間55万円を超えなければ確定申告の必要はありません。
ただし、個人の事情や状況によってご自身では判断できない場合は、就労継続支援B型に詳しい税理士、住んでいる市区町村の税務課や所轄の税務課窓口で相談することをおすすめします。
確定申告は複雑で解釈が難しい分野ですが、正しく理解して相談や対処することが大切です。