皆さんにとってゲームはどんな存在ですか?
ゲームをただの遊びと思う人もいるかもしれません。しかし、そんな遊び心に本気で向き合う企業があります。
今回は株式会社ePARA代表の加藤大貴さんを取材させていただきました。
もともとは国家公務員の裁判所書記官として働かれていた加藤さんですが、とあるきっかけで障害者と接点を持ち、ゲームの魅力と可能性に気付かれたそうです。
加藤さんのこれまで、そしてeスポーツを通して目指す世界についてお話しいただきました。
目次
1.株式会社ePARAってなに?
株式会社ePARAは「本気で遊べば、明日変わる」を理念に、eスポーツを通じて障害者の社会参加を支援する活動を行っています。
その一つがeスポーツイベントの開催です。障害があっても同じようにゲームを楽しめるようルールやデバイスを工夫して企画・運営が行われています。
また障害者雇用にも積極的に取り組んでいます。実際に、全盲の社員と筋ジストロフィーの社員を雇用しており、リモートワークで活躍されているとのことです。
1-1.障害者の得意を生かして活躍する「バリアフリーeスポーツ大会」
【インタビュアー(ライター):赤石/インタビュイー:加藤さん】
赤石:eスポーツ大会は様々な障害を持たれている方が参加されているとのことですが、工夫されていることはありますか?
加藤さん:やはりデバイス面での工夫が多いですね。
例えば、筋ジストロフィー症の社員は顎で操作するコントローラを自作しています。
理学療法士や作業療法士からのアドバイスをいただきながら、どうやったらその人がゲームをプレイできるかを一緒に考えています。
このようにハード面で解決できることもありますが、視覚障害者の方にとってはゲームが音声読み上げソフトに対応してないといったソフト面の課題もあります。
その場合は、僕たちが音声情報で誘導してプレイをお手伝いすることもありますね。
赤石:eスポーツ大会を開催する中で大切にされていることはありますか?
加藤さん:みんなが楽しくコミュニケーションできるための工夫を話し合うことを大切にしています。
必要なサービスや支援は、一人ひとり異なります。
支援者側で決めつけるのではなく、障害を持たれている方に、どんな支援が必要かを聞くことがとても大切だと思っています。
1-2.eスポーツで障害者の就労課題に取り組む
赤石:就労支援事業は、どのような流れで就職を目指すのでしょうか?
加藤さん:我々は教育機関ではないので、専門知識を直接教えるのではなく、利用者さんが潜在的に持っているスキルを実務を通して可視化することを意識していますね。
例えば、ライティングが得意な方であれば、eスポーツにまつわる情報発信を行うオウンドメディアで記事を書いていただきながら、ポートフォリオを充実させていきます。
このように、利用者さんが「ePARA」の業務と前職で行ってきた業務などをデータとして見える化し、採用企業が求めている人材をマッチングします。
これまでの就職先はテレワークを導入しているIT業界が多いですね。
赤石:就労支援はどのように申し込むのでしょうか?
加藤さん:ホームページの問い合わせフォームから受け付けています。
まずは面談をして、どのような企業で働きたいか、どんなスキルを活かしたいかなど、ヒアリングをした上で、その人にあった就職までのステップを提案していきます。
赤石:面談する上で大切にしていることはありますか?
加藤さん:スキルや目標はあるけど、どのように発揮して良いかわからないという方が、より輝けるような環境を一緒に考えていくのが我々の現時点の就労支援です。
そのため面談の際には福祉事業ではないことをしっかり説明することを意識しています。
1-3.障害者の感情を可視化する「ブレインテックデバイス」とは?
赤石:大学の研究機関と連携して開発されているブレインテックデバイスについて教えてください。
加藤さん:ブレインテックデバイスとは、頭部に脳波を読み取るデバイスを装着し、装着した方の感情を可視化することによってコミュニケーションを円滑にするものです。
いまお手伝いしているところでは、脳卒中の方が機能改善のリハビリのためにブレインテックデバイスを使用しています。
運動機能だけでなくコミュニケーションでも大きな役割を発揮すると感じています。
例えば、コミュニケーションが取りにくい自閉症の方にとっては、両親が亡くなった後の意思決定をどのように決めていくのかが課題としてありますが、脳波のストレスレベルを観察し、その方の意思をデバイスを使って確認できるようになると、こうした問題の解決に役立てる可能性があります。
我々はその中でもゲームを通した人への影響を研究しています。ゲームにはリラックス効果があるのか、集中力を高める効果があるのかなど、日々研究し、開発に着手しているところです。
ブレインテックデバイスの可能性は日に日に大きくなっていますね。
2.代表 加藤大貴さんってどんな人?
もともとは弁護士を目指していたという加藤さん。
司法試験は法科大学院修了もしくは予備試験の合格から5年間しか受験資格がありません。何度も受験し、気づけば5年が経ち、加藤さんは29歳になっていました。
周りは社会人として活躍している中、振り出しに戻り次の決断を迫られた加藤さんは、裁判所職員の試験を受け、法の最前線で活躍することになったのです。
これまで障害者との関わりがなかった加藤さんが、なぜeスポーツに注目することとなったのでしょうか。
2-1.国家公務員から福祉の世界へ
赤石:なぜ裁判所書記官を辞められることとなったのでしょうか?
加藤さん:私の祖母がアルコール依存症と認知症を発症したのがきっかけです。
その際に成年後見制度にたどり着くことが難しかったようで、制度があっても知らないと利用できないと感じ始めました。
日本は超高齢化社会に突入し、ご自身で意思決定することに不安のある人をお手伝いする成年後見制度はますます必要とされてきます。裁判所の中での広報活動だけでなく、より広いところで周知活動をして、知っていただく必要があると思い、社会福祉協議会に転職しました。
赤石:社会福祉協議会ではどのような活動をされていたのですか?
加藤さん:主に成年後見制度に関わる活動です。
私の担当していたケースでは、約8割が高齢者で約2割が知的障害や精神障害を抱えられている方でした。
後見活動はもちろん、成年後見制度の一般的な窓口相談を担当するなど、その人らしく人生を歩めるお手伝いをしていました。
2-2.eスポーツと出会い転機が訪れる
赤石:これまで障害者と関わる機会はあったのですか?
加藤さん:なかったですね。成年後見制度で福祉の現場に初めて行って、39歳でほとんど初めて障害を持たれた方とコミュニケーションを取りました。
恋愛やYouTube、ゲームなど友達のように話す一方で、お金の計算は苦手なので手伝ったりと、助けてあげるのではなく苦手なところを補い合うような関係性がとても新鮮でした。
特別支援学校や学級で分けられていることで、障害を持たれている方と関わる機会はほとんどないのが現状です。分からないから誤解や恐怖心が生じているのではないかと思います。
接点を作る活動がしたいと思うようになり、ゲームならそれを実現できる可能性があると感じました。
赤石:確かにゲームは共通のコミュニケーションツールになりますよね。
加藤さん:そうなんですよ。「なんのゲームやってるの?」ってすごく自然な会話じゃないですか。ここには障害の有無は関係なく、同じ体験ができるとても良いツールだと思っています。
以前引きこもりの方とお話しした時も「フォートナイトだけが社会との唯一の接点だった」と言われたことがあります。外の世界に出られず、両親とも関わることが難しかった方が、ゲームを通して社会と繋がれるきっかけになったのです。
こんなにも可能性に溢れるツールはゲーム以外ないのではないでしょうか。
2-3.第1回ePARA大会の開催
赤石:株式会社ePARAを起業されて、初めてのeスポーツイベント「ePARA大会」を開催したきっかけを教えてください。
加藤さん:社会福祉協議会の時に成年後見制度の広報イベントを開催していました。
親亡き後セミナーやエンディングノートのセミナーを開催するも、どうしても年代が限られてしまうので、あまり人が集まらなかったんですよね。
成年後見制度を広げるためにできることはないかと考えていくうちに、人を動かすにはワクワク感が大切だと感じるようになりました。そこでeスポーツイベントに挑戦しようと思ったのがきっかけです。
赤石:初めてのeスポーツイベント「ePARA大会」を開催されて、気づいたことはありますか?
加藤さん:やはりやってみないと分からないことが沢山ありました。
例えば、eスポーツのイベントでは大迫力の音とキラキラした会場が一般的だと思うのですが、ADHDの方にとっては刺激が強く負担が大きくなる場合があります。
また聴覚障害の方に向けた字幕表示も用意できておらず、ライブ中に謝罪したこともありました。
私たちにはわからないこともたくさんあります。だからこそ当事者の方とコミュニケーションを取り、ご意見を伺うことはとても大切にしています。
3.eスポーツを通して創る未来
赤石:加藤さんにとって障害者雇用率を上げた先どんな社会を期待していますか?
加藤さん:株式会社ePARAの現在の障害者雇用率は50%です。
しかし、私たちが雇用できる人数には限界があります。大切なのは雇用率ではなく障害者が輝いて働ける仕組みを作ることだと思っています。
例えば新たに立ち上げた「ePARA Voice」は、視覚障害の社員が代表を務める音声制作事務所です。声優やナレーション、司会進行などを提供しています。
視覚には障害がある彼らですが、音のサービスであれば健常者と変わりなく提供ができます。
聴覚障害だから、車椅子ユーザーだからできることといったように、障害に応じた特徴を最大限輝かせる仕組みを今後も作っていきたいですね。
赤石:加藤さんが創る未来について教えてください。
加藤さん:ePARAは「本気で遊べば明日が変わる」というステートメントを掲げています。
困っている人を救うのではなく、本気で遊んでいる人と一緒に世界を変えていく。価値観に共感してくれる仲間と共に、こうした世界を創っていきたいと思っています。
それは決して日本に限った話ではありません。世界規模で仲間を増やしていき、一緒にワクワクできるような面白い企画をしていきたいですね。
4.最後に
子供心を忘れず、みんなと一緒にワクワクしたいという目標に向かって走り続ける加藤さん。
人生の転機はお子さんが生まれた時だそうです。子供達のやりたいことを最大限応援するために自分自身がもう一度チャレンジしなければいけないと思ったことも起業を決意したきっかけの一つとのこと。
言葉だけでなく行動でも体現されている加藤さんだからこそ、みんながワクワクできる世界を作れるのだと筆者は感じました。
今回の記事をきっかけにeスポーツに挑戦したい、または就職への相談がしたいと思われた方は、ぜひお問い合わせしてみてください。
公式HP:https://epara.co.jp/
加藤大貴さんTwitter:https://twitter.com/koken_3
今回紹介した加藤さんはゲームを通してバリアフリーな社会を目指されていました。株式会社方角の方山れいこさんは、聴覚障害者におけるバリアをデザインで解決し続けています。方山さんが気になった方はこちらからぜひご覧ください。