おしゃれを楽しみたい人に届ける、川副泰門さんが作る「SECTIO」とは?

SECTIO代表の川副泰門さん


障害者自身と体の専門家である理学療法士がデザインするファッションブランドをご存知ですか?

障害の影響で着たい服が着られない。おしゃれなんてできない。

こうした障害者の悩みも解決し、健常者にとっても魅力的なファッションを提供するのが「SECTIO」です。

今回は、SECTIO代表の川副泰門さんを取材させていただきました。

川副さんは、理学療法士として現場で多くのご利用者様のリハビリを行いながら、SECTIOを立ち上げ、12月には初めての展示会も開催されます。

なぜ、理学療法士でありながらファッションに着目したのか。川副さんの原点と共に、SECTIOが目指すバリアフリーな社会についても伺いました。

1.服飾療法士 川副泰門さんって?


1-1.過去・現在

【インタビュアー(ライター):赤石/インタビュイー:川副泰門さん】​​

赤石:理学療法士になったきっかけを教えてください。

川副さん:実は、父親も理学療法士なんです。

幼い頃から理学療法士という存在が身近にあったことで、自然と父親と同じ道に進んでいきました。

もう一つは、直接人の役に立てると思ったからです。さまざまな仕事がある中で、理学療法士は直接ご利用者様と関われる、数少ない仕事の一つです。

人のためになる仕事がしたかったため、目の前でご利用者様の反応を伺える理学療法士に興味を持ちました。

現在はデイサービスで働いており、日々現場でご利用者様と接しながら、管理者としてマネジメントの仕事もさせていただいています。

赤石:なぜ、医療業界からファッション業界に着目したのですか?

川副さん:もともと、ファッションが大好きだったんです。

大学生のときには、有名ファッション雑誌にモデルとして掲載されるなど、理学療法士の勉強をしながらも、将来はアパレル関係の仕事に就きたいと考えていました。

そんなとき、一人の義足の男の子に出会ったことが、今の活動のきっかけとなりました。

彼と話すなかで、当事者が抱える洋服の悩みに初めて気付くことができたんです。

彼の悩みを解決することで、理学療法士の資格を活かしながら、大好きなアパレルにも関わることができます。

そのときに、初めて自分のやるべきことが明確に見えた気がしました。

当時は、一日でも早く想いを形にしたいと思っていましたね。


1-2.SECTIOブランド開発の起源

赤石:本格的に服作りを始めたのはいつですか?

川副さん:社会人1年目の時に、一度挑戦してるんです。

就職してすぐに、当事者や同じような活動をしている人にSNSで連絡をしたり、街頭調査をしたりと、たくさんの人にコンタクトを取っていました。

そして、共感してくれた有志で一度服を製作してみることになりました。

しかし、結果はうまくいきませんでした。

当時の僕は事業を立ち上げた経験も知識もなく、服を作るための資金も用意することができず、結局そのまま解散となったんです。

赤石:では、現在のSECTIOはどのような経緯で誕生したのでしょうか?

川副さん:次に、働いている会社の社長に直談判しました。

会社のコンセプトとして、ご利用者様の自己実現だけでなく、スタッフの自己実現も大切にしているため、僕の想いとビジョンを社長にプレゼンしたんです。

「障害者の服の悩みを解決したい」という想いを評価してくださり、会社の公認プロジェクトとして予算が付き、ようやく服作りができるようになりました。

そして、社会人3年目には、より広く想いを届けるため、理学療法士が夢に挑戦する大会「LittlePhysio」に挑戦し、全国の挑戦者の中から大賞をいただきました。

参照元:Little Physio 2022.611|川副泰門

その後、会社の公認プロジェクトから外れ、独立して運営できるようにクラウドファンディングに挑戦し、応援いただいた方々のおかげで、大学生からの夢だったファッションブランド「SECTIO」を立ち上げました。

参照:クラウドファンディング

2.SECTIOはどんなブランド?

SECTIOは「当たり前におしゃれを楽しめる世界」をビジョンに掲げ、インクルーシブデザインを取り入れたファッションブランドです。

障害の有無に関わらず、誰でも着ることのできる服をデザインし、制作過程では就労支援と連携しながら、当事者を交えることで、デザインから制作まで誰一人として置いていくことのないファッションブランドを目指しています。

服の悩みは、着脱の瞬間だけではありません。

川副さんの理学療法士としての視点を活かし、生活を見据えたデザインを実現するのがSECTIOなのです。

赤石:SECTIOのブランド名には、どのような想いが込められているのですか?

川副さんSECTIOはラテン語で分断、切断という意味を表します。

おしゃれを楽しみたくても楽しめない。今の社会に対して、分断されている現状があると感じています。

そして、SECTIOは、義足の男の子に出会ったことで誕生したブランドです。

僕が社会に感じている分断と、片足を切断した男の子。

ブランド名は毎日必ず目にします。活動の原点を決して忘れることのないように、SECTIOという名前を付けました。

3.SECTIOのプロダクトの魅力に迫る


3-1.SECTIOならではのインクルーシブデザイン


赤石:デザイン段階で、具体的にはどのように障害者が参加していくのでしょうか?

川副さん:SECTIOでは、デザインを考案する際、対象を1人の方に限定しています。

障害者と一括りにしても、体の状態は一人ひとり異なっているため、たくさんの意見を取り入れるほど、ターゲットがバラバラになってしまうと考えたためです。

今の僕にできるインクルーシブデザインは、おしゃれに関心の強い方と向き合って、1人の悩みを徹底的に深掘り解決策を模索することです。

服の課題をピックアップしていただき、機能面は僕が提案し、デザインはデザイナーが提案する。こうして何度も擦り合わせながら制作していくのが、僕なりにできるインクルーシブデザインだと思っています。

赤石:制作段階での就労支援の関わり方を教えてください。

川副さん:本来であれば、就労継続支援事業所を立ち上げ、制作を行う予定でした。

しかし、服作りの複雑さや工数の多さを目の当たりにする中で、現段階で制作まで当事者を巻き込んでいくには、リスクが高いと判断しました。

まずはデザインに真剣に向き合い、ブランドとして確立しなければ、制作過程・制作物がどちらも中途半端になってしまうと考えたためです。

大学生の頃、物作りを行う就労継続支援事業所を見学した際、利用者さんが本当に楽しそうに働かれている様子を見ました。

僕も理学療法士として、障害者の職域拡大に貢献したい思いも強いため、最終的にはデザインから制作全てにおいて、当事者が参加できるように進めていく予定です。

3-2.川副泰門の思想を盛り込んだデザインと機能性


赤石:デザインで最も意識していることを教えてください。

川副さん:やはり、機能面は強く意識しています。

理学療法士として今も現場で働いているからこそ、排泄時や移乗時など、生活スタイルを見据えた機能面を提案できるのは、僕の強みだと感じています。

しかし、最も意識していることは、僕自身が買いたいと思えるデザインか否かということですね。

以前、当事者の方から「障害者向けの洋服はデザイン性に欠ける印象がある」とメッセージをいただきました。

いくら機能面が良くてもデザイン性に乏しいものであれば、購入したいとは思わないし、当たり前におしゃれを楽しめるというSECTIOのビジョンを達成することはできません。

既存の洋服デザインと遜色のないデザインに機能面を加えることで、本当のQOL向上に繋がるのではないかと考えています。

3-3.SECTIOを着た人たちの表情や感情まで考え抜く姿勢


赤石:SECTIOは「誰も置いていかないファッションブランド」と発信されていますが、そう考えるようになったきっかけはありますか?

川副さん:誰かのため、というよりも自分のためですね。

僕はおしゃれをすることが好きですし、今もこうしてファッションに携わっています。

しかし、いつ何があるか分かりません。事故や病気で車椅子生活になる可能性も十分にあります。

そうなった際に、もし着たい服が着られない、おしゃれができなくなると、僕が生きていく上での大きな楽しみがなくなってしまうんです。

そう考えると、おしゃれができない苦しみを味わって欲しくないと思い、誰も置いていかないように真剣に向き合って頑張ろうと思いました。

赤石:12月2日・3日に、名古屋市内で初となる展示会を開催されますが、来場者にどんな想いを伝えたいですか?

川副さん:展示会では、インクルーシブデザインのワンピースと、車椅子のスポークカバー、グッズのTシャツ・キャップを展示し、今後のサービス展開やこれまでの資料を掲載する予定です。また、来場された方同士が繋がれるようなスペースも用意してあります。

実際、当事者の方の中には、無意識のうちにおしゃれを諦めている方もいると思うんです。展示会に来ていただいて、「僕がいるから、おしゃれを諦めないで」と伝えたいですね。

また、ありがたいことに僕に会いに来てくださる方もいるようです。僕が伝えられることは、障害の有無に限らず、夢を追い続けることの大切さだと考えているので、会場には挑戦してきたストーリーもすべて展示します。

参加定員はありませんので、1人でも多くの方にSECTIOの門出を見守っていただければと思います。

展示会については こちら

4.SECTIOの今後のブランド展開


赤石:SECTIOの今後について教えてください。

川副さん:まずは、1人でも多くの方にインクルーシブデザインの洋服を手に取っていただきたいので、レンタルサービスの展開を考えています

現在完成しているワンピースは、冠婚葬祭や成人式パーティーなどの特別な日に使っていただけるカジュアルなドレスワンピースです。

生地やデザインにたくさんこだわってきたため、高価な洋服でもあるので、まずはお気軽に触れていただければと思います。

そして、セミオーダーの受注も開始する予定です。

ご自身に合ったサイズで、自分の好きな生地を使ってワンピースを制作できるようなサービス展開を考えています。

5.川副泰門さんがSECTIOを通じて描く未来とは?

赤石:川副さんが考えるインクルーシブな社会について教えてください。

川副さん:僕自身も日々模索している段階ですが、認め合うというよりも、一人ひとりが好きなように、当たり前に自己実現できるものではないかと考えています。

車椅子の方が段差に困っていたら、気付いた人が持ち上げてあげたり、麻痺のある方が洋服で困っていたらSECTIOに駆け込んだりと、さまざまなシーンで当たり前にアクションできるような世の中がインクルーシブな社会だと思っています。

赤石:SECTIOとして、どんな姿を目指していきたいですか?

川副さん:まずはブランドとして確立し、5年後にはファッションショーを開催することを一つの目標にしています。

また、ファッションに関心のない方にも認知していただけるように、世界中から注目を得るパラリンピックにSECTIOとして携われたら嬉しいですね。

そして、最終的にはSECTIOが世の中から必要とされなくなることを望んでいます。

SECTIOが消える時は、誰もが当たり前におしゃれを楽しむことができる社会が実現できた時だからです。

SECTIOが消えていけるよう、これからもインクルーシブデザインの洋服を世の中に生み出していきます。

6.最後に


障害の有無に限らず、誰もが着れるインクルーシブデザインのファッションブランドSECTIO。

川副さんは、自身のことを意思が弱いと言います。だからこそ、多くの人を巻き込んでいくことで、川副さんの想いから始まったSECTIOが、いまやたくさんの人から応援され、活動が義務化されるというのです。

挑戦することが当たり前になった時は、自身が生涯をかけてやるべき活動を見つけられる瞬間でもあります。

川副さんは、Instagramでも精力的に発信されていますので、ぜひこちらも見てみてください。

Instagram: https://www.instagram.com/taito___0426/

また、障害者ファッションで世界中から注目を集めるtenbo代表の鶴田さんにもインタビューをさせていただいています。

ぜひ『【ファッションで世界中に笑顔と幸せを届ける】tenbo 鶴田代表が切り開く未来とは?』もご覧ください。

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