制度情報 【2024年施行】認知症基本法とは?どこよりもわかりやすく施策や要点を解説!

【2024年施行】認知症基本法とは?どこよりもわかりやすく施策や要点を解説!

認知症基本法表紙

認知症基本法は、日本の超高齢化社会に伴い認知症の人が希望を持って生活を送れるように2023年6月に可決された法律です。

この法律が成立したことによって、私たち国民にとってどのような恩恵があるのでしょうか?

本記事では、認知症基本法が成立した背景から8つの具体的な施策や要点について、わかりやすく解説していきます。

1.2024年1月1日に施行された「認知症基本法」とは?

認知症基本法は、正式名称を「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」といい、2023年に可決され2024年1月1日に施行されました。

認知症の人の尊厳を守りながら、希望を持って社会生活が送れるように認知症施策を計画的に推進していく法律です。

また、認知症基本法は正式名称にもあるように認知症の人を含めた国民一人ひとりが個人を尊重し支え合えるような共生社会を目的としています。

① 全ての認知症の人が、基本的人権を享有する個人として、自らの意思によって日常生活及び社会生活を営むことができる。
② 国民が、共生社会の実現を推進するために必要な認知症に関する正しい知識及び認知症の人に関する正しい理解を深めることができる。
③ 認知症の人にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるものを除去することにより、全ての認知症の人が、社会の対等な構成員として、地域において安全にかつ安心して自立した日常生活を営むことができるとともに、自己に直接関係する事項に関して意見を表明する機会及び社会のあらゆる分野における活動に参画する機会の確保を通じてその個性と能力を十分に発揮することができる。
④ 認知症の人の意向を十分に尊重しつつ、良質かつ適切な保健医療サービス及び福祉サービスが切れ目なく提供される。
⑤ 認知症の人のみならず家族等に対する支援により、認知症の人及び家族等が地域において安心して日常生活を営むことができる。
⑥ 共生社会の実現に資する研究等を推進するとともに、認知症及び軽度の認知機能の障害に係る予防、診断及び治療並びにリハビリテーション及び介護方法、認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすための社会参加の在り方及び認知症の人が他の人々と支え合いながら共生することができる社会環境の整備その他の事項に関する科学的知見に基づく研究等の成果を広く国民が享受できる環境を整備。
⑦ 教育、地域づくり、雇用、保健、医療、福祉その他の各関連分野における総合的な取組として行われる。

引用元:共生社会の実現を推進するための認知症基本法について|厚生労働省


上記の基本理念をベースとして国や地方公共団体は、認知症に関するさまざまな施策を実施することを義務としています。

また国民に対しても、正しい認知症理解と、共生社会の一員として寄与することが求められています。

2.認知症基本法が成立した背景と目的

肩に置かれた手と、それに自分の手を重ねる高齢者

認知症基本法が成立した背景には、日本の「超高齢社会」が大きく関係しています。

総務省が発表した統計によると、​​2022年10月1日時点で65歳以上の人口の割合は29.0%です。

世界保健機関(WHO)と国連では、21%以上で超高齢社会と定義されており、日本は世界の高齢化率ランキングでも2位になっています。

参照:世界の高齢化率(高齢者人口比率) 国別ランキング・推移|グローバルノート – 国際統計・国別統計専門サイト


現在、日本の総人口は1億 2,495万人ですが2070年には総人口が9,000万人台にまで減少し、高齢化率は39%の水準になると見込まれています。

また、日本では認知症の罹患者数の多さも深刻です。

日本における65歳以上の認知症の罹患者数は2020年時点で約600万人、2025年には約675万人と推定されており、約5.4人に1人が認知症になると予想されています。

参照:認知症患者はどれくらい?|公益財団法人 生命保険文化センター


こうした日本の超高齢社会と認知症の罹患率の高さを受けて、政府は認知症になっても希望を持って生きていけるような共生社会を実現するために基盤となる「認知症基本法」を制定しました。

3.認知症基本法の8つの施策

認知症基本法の8つの施策

3-1.認知症の人に関する国民の理解の増進等

認知症サポーター

国や地方公共団体は、国民に認知症に関する正しい知識と理解をしてもらい共生社会を築いていきます。

国民の誰もが正しい認知症の知識を理解することで、間違った偏見や対応ではなく認知症の人が安心して生きていけるような環境が理想です。

そのためには、国をあげて認知症の正しい知識を広めていく施策が必要です。

認知症高齢者に優しい地域づくりの取り組みとして「認知症サポーター」を要請する講座を全国で開催しています。

認知症サポーターとは、認知症に対する正しい知識と理解を持ち、地域で認知症の人やその家族に対してできる範囲で手助けする人のことです。

参照:認知症サポーター|厚生労働省


3-2.認知症の人の生活におけるバリアフリー化の推進

認知症の症状として、歩行やバランスといった運動機能の障害があります。

認知症の人が自立した生活を送れるようになるには、バリアフリーの推進が必要です。

国、地方公共団体は、企業と連携しながら認知症の人が利用しやすい製品やサービスの開発を推進していきます。

3-3.認知症の人の社会参加の機会の確保等

認知症になっても、社会との接点を保持することは共生社会実現への第一歩です。

雇用においても65歳未満で発症した若年性認知症の人に対して、本人の能力を考慮した上で働く機会を与えることが推奨されています。

また、認知症の人が自らの経験を共有する機会を市民に与えることは、認知症を理解する上でも重要な役割を果たします。

認知症の人の社会参加の一環として、厚生労働省では認知症の本人からの発信の機会を増やすために、7人の認知症の方を「希望大使」として任命しました。

希望大使は、国が行う認知症の啓発活動への協力や、当事者にしか語れない体験談を基に講演を行っています。

参照:認知症本人大使「希望大使」|厚生労働省



3-4.認知症の人の意思決定の支援及び権利利益の保護

認知症の人は、判断能力が低下するため意思決定が困難になることがあります。

認知症を患ってしまうと、生前贈与や施設への入所契約といったことが法律上できません。

日常生活においても、本人の意思で選択することが極端に少なくなってしまうこともあるでしょう。

そこで、認知症の人の意思決定の適切な支援及び権利利益を保護するために、認知症基本法では指針の策定を行います。

具体的には、認知症の人が自ら意思決定できるような情報提供や、消費生活における被害を防ぐための啓発運動などです。

3-5.保健医療サービス及び福祉サービスの提供体制の整備等

認知症の人が安心して暮らすためには、継続的な医療及び福祉サービスが欠かせません。

どこに住んでいても適切な医療・福祉サービスを受けられるようにするためには、国や地方公共団体が連携して医療提供体制の整備をすることが求められます。

また、個々の症状や生活状況に応じて切れ目のないサービス提供体制の整備も必要です。

3-6.相談体制の整備等

相談体制の整備は、認知症当事者や支える家族が孤立しないための施策です。

孤立による心身のストレスから症状が急速に進行してしまう恐れがあるため、当事者や家族が気軽に相談できる相談体制を国や地方公共団体、関係機関が整備していく方針です。

また、認知症当事者及び支える家族同士が交流できる活動に対する支援も行っていきます。

例えば「認知症カフェ」は認知症の人やその家族、地域住民などが気軽に集まれる場所の一つです。

認知症カフェは、全国に6,000ヶ所以上あり誰もが気軽に相談できます。

以下のサイトから、全国にある認知症カフェの検索が可能です。

参照:認知症カフェ検索|なかまぁる
参照:私たちの認知症カフェ|厚生労働省



3-7.研究等の推進等

認知症には、アルツハイマー型や血管性などさまざまな種類がありますが、その原因については完全に解明されていません。

治療法についても根本的に治すというよりも進行を遅らせる方法しか確立されていません。

そのため、国は認知症の原因や治療法に対する研究に力をいれる施策を打ち出しました。

また、認知症の人が安心して暮らせる社会の仕組みづくりについての研究も進めていきます。

3-8.認知症の予防等

国や地方公共団体は、希望する人に対して認知症予防に関する啓発や地域活動の推進、情報収集に必要な施策を行います。

認知症の症状が軽度であれば、健康寿命を伸ばすことができるのもこの施策のメリットです。

また、認知症の早期発見を目的とした医療機関との連携を強化する施策も盛り込まれています。

認知症を予防・早期発見することができるようになれば、認知症の患者数そのものを減少させることもできるでしょう。

4.認知症基本法の施策で今後期待できる5つのこと

認知法基本法で期待できること

認知症基本法の施策は始まったばかりで、現時点では具体的な法律や条例があるわけではありません。

しかし、今後の国や地方公共団体のみならず民間事業者によって、認知症の人や支える家族が生きやすい社会になっていくことが期待されます。

ここでは、認知症基本法の成立で今後期待できることについて、解説していきましょう。

4-1.認知症に関する理解を深める機会が増える

認知症の理解を深める活動はこれまで多くの団体が実施していますが、国民全体が理解を深めるのは難しい部分もあります。

当事者でなかったり「私には関係ない」と思ったりしていると、自ら認知症を理解しようという人は少ないでしょう。

しかし、将来的に日本では高齢者の5人に1人が認知症患者になる可能性があるということを忘れてはいけません。

そのため、今後義務教育でも当たり前のように認知症について学んだり、地域での講習会などを実施したりすることが期待されます。

4-2.国や市町村の支援拡充

現状では認知症と診断されたら、以下のような社会保障制度があります。

  • 自立支援医療制度(精神通院)
  • 精神障害者保健福祉手帳
  • 特別障害者手当
  • 高額医療・高額介護合算療養費制度


上記のような制度を利用すれば、診療費が1割になったり日常生活でさまざまな割引がされたりします。

認知症基本法が成立したことで今後も、認知症による社会保証の充実が期待されるでしょう。

自立支援制度と精神障害者保健福祉手帳について、さらに詳しく知りたいという方は以下の記事も参考にしてみてください。

参考記事:自立支援医療とは?医療費負担を軽減できる対象者や申請方法をわかりやすく解説!|バリアフリー情報サイト ふらっと。

参考記事:【保存版】障害者手帳の申請方法を徹底解説!取得するメリット・デメリットとは?|バリアフリー情報サイト ふらっと。


4-3.良質な医療・福祉サービスの提供

認知症の人を直接ケアする医療・福祉サービスは、重要な役割を担っています。

厚生労働省では、医療・介護従事者の認知症対応力向上のための研修を推進しています。

また、医師についてもかかりつけ医の認知症対応力向上研修・認知症サポート医の養成研修を促進することにより、認知症予防や早期発見が期待されているのです。

4-4.民間事業者のサービス提供

民間事業者については、認知症の人のことを考えたサービスや製品の提供が期待されています。

例えば、認知症の人が使いやすい家電や携帯電話など、生活に欠かせない合理的配慮が求められます。

合理的配慮とは、障害の有無に関わらず同じように人権と基本的自由を得られるように調整することです。

合理的配慮についてさらに詳しく知りたいという方は、こちらの記事も参考にしてみてください。

参考記事:合理的配慮とは?2024年4月から民間企業にも提供の義務化が開始!|バリアフリー情報サイト ふらっと。

4-5.認知症バリアフリーの推進

認知症バリアフリーとは、認知症によって生じる障壁(バリア)を取り除く取り組みのことです。

この取り組みとして、日本認知症官民協議会が「認知症バリアフリー宣言」を進めています。

また、認知症の人に対するさまざまなシチュエーション・業種別の対応をまとめた「認知症バリアフリー社会実現のための手引き」を作成しています。

このように、認知症の人が安心して暮らしやすい社会を作るには、バリアフリーの推進が今後も期待されているのです。

当メディアを運用しているAyumiでは、事業者向けの「バリアフリー認証事業」を展開しています。

参考:事業内容|Ayumi

参照:認知症バリアフリー宣言|日本認知症官民協議会
参照:認知症の人への接遇に関する手引きについて(認知症バリアフリーWGの取組)|厚生労働省


6.認知症バリアフリーの必要性

チェックの車椅子の背もたれ

認知症を抱えた人は、自らの意思で自分の生活を選ぶ権利があります。

しかし、認知症になると運動機能の低下や記憶障害などが症状として現れるため、これまで障壁にならなかったことが変化し生活に大きな支障を与えます。

認知症の人が直面する障壁は、大きく分けて「物理的バリア」と「意識上のバリア」の2つです。

物理的バリアとは、認知症の運動機能の低下によって車椅子ユーザーになった時の、段差や狭い通路などの物理的な障壁を指します。

一方で、意識上のバリアとは周りからの偏見や差別、無関心など、他人の意識の中にある障壁のことです。

例えば「認知症になると何もわからなくなってしまう」といった誤った認識が、認知症の人を孤立させ傷つけてしまいます。

こうした障壁は、認知症の人が自らの意思で選択する自由を奪ってしまうでしょう。

認知症バリアフリーが重要視され、整備が進んでいけば、認知症の人の生活はさらに豊かで希望を持てるものになるはずです。

そして、認知症基本法が掲げている「共生社会」を実現できるでしょう。

7.最後に

今回は、認知症基本法の内容や具体的な施策によって期待できることを解説してきました。

認知症基本法は、認知症の人が希望を持って生活し、個人の尊厳を認め合いながら共生社会を目指していくための法律です。

認知症は、誰もがなり得る身近な病気です。

この法律によって国民一人ひとりが認知症について今一度考え、向き合っていくことを筆者は願っています。

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