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医療的ケア児の保育園・幼稚園への入園問題、その壁とどう向き合うか?

幼稚園児に話しかける先生

「妊娠したら産休・育休をとって復帰する」

そう考えて、ライフプランを立てる女性も多いのではないでしょうか。共働き率が約7割にのぼる今、出産後も子供を預け、共働きすることが特別ではなくなっています。

参照:『図12 専業主婦世帯と共働き世帯 1980年~2022年』|独立行政法人労働政策研究・研修機構


しかし、親が共働きを希望しても、預け先となる保育園・幼稚園に入れないという子供もいます。全国に約2万人いると言われる、医療的ケア児です。

なぜ、医療的ケア児は保育園・幼稚園に入園できないのでしょうか。

今回の記事では、その理由について調べた結果を紹介するとともに、それらを踏まえてこの入園問題とどう向き合うかについて考えていきます。

医療的ケア児を抱え、今まさに保育園・幼稚園への入園を検討している方、今後入園を考えている方の参考になれば嬉しいです。

1.医療的ケア児の保育園・幼稚園への入園問題

1-1.探すことも難しい、見つけても入れない保育園と幼稚園

NHK佐賀放送局は、昨年4月、とある医療的ケア児の家族が保育園入園に向けて奮闘した様子を報じました。

参照:「保育園が見つからない」〜医療的ケア児 支えていくには〜|NHK


この記事には、医療的ケア児が入れる保育園を探すことの難しさ・厳しさが詰まっています。

・役所に聞いても、医療的ケア児受け入れ可能な保育園は教えてもらえない
・保育園に一件一件電話して確認しなければならず、負担が大きい
・「そんな状態の子供を預けるのか」と言われることもあった
・看護師がいても受け入れられるとは限らない
・断られ続けることで、社会から拒絶されたように感じる

読んでいて胸が痛くなるようなことばかりですが、これが現実に起きています。

しかも、この一例だけではありません。筆者の知る限り、このようなことが全国で何例も起きているのです。

1-2.深刻な問題になっている看護師不足

受け入れが進まない理由のひとつになっている大きな課題が、看護師不足です。

厚生労働省の調査によると、医療的ケア児の受け入れに対する課題として、7割もの市町村が「医療的ケアを実施できる看護師を確保できない」という点を挙げています。

参照:『保育所等での医療的ケア児の支援に関するガイドラインについて』P6|厚生労働省


ポイントは、「医療的ケアを実施できる看護師」というところです。

医療的ケアを親以外が行う場合、看護師がしなくてはいけません。しかし、看護師ならば誰でもいいというわけでもありません。看護師としての「経験」も必要になります。

先のNHK佐賀放送局の記事内で、医療的ケア児等コーディネーターの荒牧さんがこうおっしゃっています。

“看護師も、小児科の分野や医療的ケアで経験がある人とは限らないので、看護師がいれば受け入れられるとは限らない。”

保育園に配置されている看護師の主な役割は「登園後の怪我や病気への処置」「受診が必要かどうかの判断」などであるため、看護師資格はあっても医療的ケアの経験がない、実施はできないという状況になっているようです。

看護師資格に加え、医療的ケアの知識経験が必要となると、該当する看護師が少なくなってしまうことは想像に難くありません。

このように、医療的ケア児の保育園・幼稚園入園には、探すことすら難しい「情報不足」、園側の受け入れ環境を整えるのが難しい「人材不足」、周りにわかってもらえない「理解不足」といった重なり合う複雑な問題があります。

それでもやっぱり保育園に預けたいという場合は、どうしたらいいのでしょうか。

2.医療的ケア児の保育園・幼稚園への入園問題にどう向き合うか

2-1.まずは基本的なことを漏れなく行う

メモを書く様子

全国的に、医療的ケア児を受け入れる保育園・幼稚園は少ないのが現状ですが、「医療的ケア児支援法」が施行されたこともあり、受け入れ枠を設ける・ガイドラインを作るなど、積極的な姿勢が見られる自治体も中にはあります

参照:保育所等における医療的ケア児の受入れ推進について|横浜市

参照:保育所等入所児童(医療的ケア児枠)の募集について(令和5年4月入所)|富山市


まずは「自分の住む自治体に医療的ケア児受け入れ可能な保育園・幼稚園はあるのか」「どうやって探したらいいのか」などを役所に問い合わせ、現状を把握することが大切です。

医療的ケア児の親御さんであれば、各種福祉サービスの利用や手当申請などで役所に行くこともあると思います。そのついでに聞いてみるのもいいかもしれません。

募集時期ではなくても、あらかじめ情報を仕入れておけると心構えもできますので、早めに動いて損はありません。役所への問い合わせは少し気の重い作業ではありますが、まずは聞いてみることがスタートの第1歩です。

行政機関に相談しても何も情報が得られなかった場合、他の人に相談するということも試す価値はあります。

たとえば、相談支援員、ソーシャルワーカー、医療的ケア児支援センターなどです。さまざまな状況の方から相談を受けているはずなので、成功事例を知っている可能性があります。

「こういう方法で探したら見つかった」「この保育園には医療的ケア児が通っている」などの前例を紹介してもらい、同じような方法で試してみることもできるでしょう。

また、自治体では把握していない無認可の保育園を紹介してもらえることもあります。

無認可と聞くと不安に思われるかもしれませんが、「企業主導型」という無認可の形をとることで受け入れ児童の幅を広げ、医療的ケア児受け入れに尽力している保育園も中にはあります。

受け入れ先がなかなかない現状では、自治体への相談、そしてそれ以外の相談機関への相談をもれなく行うことが大切です。心身ともに負担のかかる大変な作業ですが、踏ん張りどころです。

2-2.児童発達支援が利用できるかを検討する

ここまで色々な人に相談しても受け入れ先がない場合、児童発達支援施設を保育園・幼稚園の代替にできるかを検討してみるのもひとつの方法です。

厚生労働省の『障害児通所支援に関する検討会報告書(案)』には、「児童発達支援でも親の就労によるニーズに対応することが重要」と記載されています。

参照:障害児通所支援に関する検討会報告書(案)P10|厚生労働省


保育園よりも預かり時間が短いことが多い児童発達支援施設ですが、もともと障害児向けの通所施設であることから、保育園よりはハードルは低くなります。

2-3.医療的ケア児支援法の影響は確実に出ている

裁判で使う道具

ここまで手を尽くしても預け先が見当たらないことも、地域によってはありますよね。このように記事で取り上げながらも、医療的ケア児の入園問題に対する万能な解決策が提示できないこと、歯痒く心苦しい思いです。

ここまでくる段階でも、親御さんの負担は相当なものでしょう。慰めにならないことは承知していますが、それでも、少しずつ、状況は変わってきていることだけはお伝えしておきたいです。

厚生労働省の発表では、医療的ケア児の受け入れ施設・人数ともに、年々増加しています。

参照:『保育所等での医療的ケア児の支援に関するガイドラインについて』P2|厚生労働省


それから、医療的ケア児支援法の影響も出ています

医療的ケア児支援法を受けて自治体が動いたことにより、医療的ケア児受け入れを始めた保育園もありました。

参照:医療的ケア児受け入れをいち早くスタート。「千代田せいが保育園」先生方の思いとは?|医療的ケアシッターナンシー


また、保護者にとっても支援法があることが後ろ盾となっており、「支援法が施行されるのを待って役所に相談した」という人もいるそうです。

参照:責務の行方・医療的ケア児の今/中 緊急時備え環境整備 受け入れ困難地域も/宮城|毎日新聞


支援法が施行されてもすぐに劇的に変わったわけではありませんが、状況は少しずつ変わってきています。

支援法について解説した記事がありますので、詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

3.最後に

医療的ケア児を抱える家族が「働きたい」と思った時に、必ずと言っていいほど直面する保育園・幼稚園入園問題について今回は取り上げました。

残念ながら、まだ多くの自治体で受け入れ準備が整っていない上、地域差がかなり大きいため、決定的な解決策はなかなか見つかりません。

2023年現在、医療的ケア児支援法が施行されて1年以上経ちますが、この法律が目指す「家族の離職防止」の実現にはまだ時間がかかりそうです。

そんな現状の中で今できることは、あらゆる人に相談することです。

一人ではなく複数に伝えることで、必ずとは言えないまでも、何かしらのヒントが得られる可能性があります。

筆者も医療的ケア児の親・ママとして、親がここまで頑張らないと保育園・幼稚園に入園できない問題の早期解決を願いつつ、頑張る親御さんに、心から、エールを送ります。

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