障害のあるこどもを育てる家庭では、医療費や療育費、生活用品の費用など、日々の出費がかさみやすいものです。さらに、共働きが難しい家庭も多く、家計の負担を強く感じている方も少なくありません。
こうした不安定な状況を支えるために、国や自治体では「障害児支援制度」として、手当や助成、税制優遇など、さまざまな経済的支援を設けています。これらの制度を上手に活用することで、毎月の出費を抑え、将来への備えにもつなげられます。
とはいえ、「どんな制度があるのか分からない」「自分の家庭が対象になるのか判断できない」と悩む方も多いでしょう。制度の内容や申請手続きは自治体によって異なり、情報を探すだけでも一苦労です。
この記事では、障害児の家族が受け取れるお金の支援制度を体系的に整理し、最新(2025年時点)の内容に基づいてわかりやすく解説します。
「手当」「医療費助成」「税制優遇」の3つの支援を順に紹介しますので、ぜひお子さんやご家庭の状況と照らし合わせてチェックしてください。
障害者手帳を使った割引も多数あります。下記の記事もお得情報が満載のため、ぜひご覧ください。
参照:障害者手帳を使った割引・サービス20選!賢く活用する方法も解説
目次
1.障害児家族が受けられるお金の支援制度とは?
障害のあるこどもを育てる家庭を支えるため、国や自治体では複数の公的支援制度を設けています。これらの制度は、こどもが地域社会の中で成長し、自立をめざす環境を整えることを目的としています。
支援の基本理念には、こどもの発達段階や障害の特性を理解し、家庭や地域が連携してこどもを支えるという考え方があります。つまり、障害児の子育ては家庭だけの責任ではなく、社会全体で取り組むべきものとして位置づけられているのです。
対象となる障害は、身体障害・知的障害・精神障害・発達障害があり、医療的ケアが必要なこどもや難病のあるこどもも含まれます。こうした幅広い対象に対し、生活面・医療面・経済面からの支援が用意されているのです。
経済的な支援制度は、大きく次の3つに分かれます。
- 手当(給付金)
障害のあるこどもやその家族に直接支給されるお金 - 医療費助成
医療機関でかかった自己負担額の軽減や補助 - 税制優遇
所得税・住民税・相続税などで控除を受けられる制度
さらに、特定の贈与税の非課税措置や、心身障害者扶養共済制度に基づく給付金の非課税、少額貯蓄の利子にかかる非課税制度(マル優)など、税法上の特例も用意されています。
なお、支援の対象となるかどうかは、障害者手帳の有無だけで判断されるわけではありません。医師の診断書や児童相談所による判定など、実際の生活状況や障害の程度をもとに個別に判断されます。
障害児支援制度は「誰がどんな支援を受けられるのか」を理解することが出発点です。次の章では、「もらえるお金(手当)」について、具体的な種類や申請方法を解説していきます。
2.手当の申請をして支給を受けよう
2-1.手当の種類と支給条件・申請方法

障害児の家庭が受け取れる手当には、おもに「特別児童扶養手当」と「障害児福祉手当」の2種類があります。
いずれもこどもの障害に応じて支給される公的給付金であり、家庭の経済的負担を軽減するために設けられています。
どちらの手当も非課税所得として扱われ、所得税や住民税の対象外です。
児童扶養手当など他の制度との併用も可能なため、重複申請をためらう必要はありません。
それぞれの手当で対象条件や手続きが異なるため、次の項目で詳しく見ていきましょう。
2-1-1.特別児童扶養手当
特別児童扶養手当は、20歳未満の障害のあるこどもを養育している保護者に支給される制度です。
対象となる障害は、身体・知的・発達・精神のいずれかに該当し、日常生活において特別な支援が必要な場合に認定されます。
支給額と区分は障害の程度によって支給額が異なり、1級「月額55,350円」2級「月額36,860円」が支給されます(令和3年4月以降適用)。
支給は年3回(4月・8月・12月)に分けて、前月分までの合計額が指定口座に振り込まれます。
特別児童扶養手当は課税対象外で、所得税や住民税がかかりません。また、児童扶養手当や障害児福祉手当と同時に受け取りが可能です。
次は申請と手続きの流れについて解説します。
申請はお住まいの市区町村窓口で申請可能です。必要書類には、申請書のほか、医師の診断書や所得証明書などが含まれます。身体障害者手帳や療育手帳を持っていなくても、医師の診断により支給対象と判断されるケースもあるようです。
申請後の審査期間はおおむね1〜3か月で、結果が郵送で通知されます。
次は、受給中の手続きと注意点についてです。
受給者は毎年8月12日から9月11日の間に「現況届(所得状況届)」を提出する必要があります。
この届出を2年間出さないまま放置すると、受給資格を失うため注意が必要です。
児童が福祉施設に入所した場合や、公的年金を受けるようになった場合は、すみやかに変更手続きをする必要があります。
手続きを怠ると支給停止や返還を求められる場合もあるため、書類の提出時期は必ずチェックしておきましょう。
参照:特別児童扶養手当 障がい程度認定基準(特別児童扶養手当等の支給に関する法律施行令別表第3)|大阪府
2-1-2.障害児福祉手当
障害児福祉手当は、在宅で介護を受けている重度の障害児(20歳未満)が対象です。
施設に入所している場合や、同じ障害を理由に年金を受け取っている場合は支給の対象外になります。
対象となるのは、日常生活において常時の介護が必要なこどもです。
月額16,100円が支払われ、支給は2月・5月・8月・11月の年4回、前月分までの合計額が振り込まれます。
障害児福祉手当には所得制限があります。受給者本人だけでなく、配偶者や扶養義務者(同一生計の父母・祖父母・子・兄弟姉妹など)の所得も判定対象です。
所得は、住民税の課税対象所得から医療費控除や障害者控除(27万円)、特別障害者控除(40万円)を差し引いた金額で計算します。
上限を超えると支給停止となり、所得が基準内に戻れば翌年8月分から再開されます。
市区町村の窓口で申請し、決められた様式の診断書が必要です。医療機関での受診から発行まで時間がかかる場合もあるため、早めの準備をおすすめします。住所変更や扶養関係の変更があった場合も、必ず届け出をしましょう。
障害児福祉手当は、重度障害児の在宅生活を支えるための大切な給付です。該当するかわからないときは、自治体の障害福祉担当課に相談してみてください。
参照:障害児福祉手当|横浜市
障害者支援にはさまざまな制度があります。障害者の家族は知っておきましょう。下記の記事もご覧ください。
参照:障害者総合支援法とは?障害福祉サービスの内容と法律改正で変わった内容と6つのポイントを徹底解説
3.医療費助成制度の利用方法と注意点
3-1.自立支援医療(育成医療・精神通院医療)
自立支援医療制度は、通院や手術などにかかる医療費の自己負担を軽減する制度です。
原則として自己負担は1割となり、家庭の所得に応じて毎月の上限額が決まります。
自立支援医療には、対象や目的に応じて次の3つがあります。
- 精神通院医療
統合失調症、うつ病、発達障害(ADHDなど)を含む精神疾患で、継続治療が必要な方が対象。 - 育成医療
18歳未満のこどもで、手術や治療により身体の機能改善が見込まれる場合に対象。 - 更生医療(成人向け)
参考として存在しますが、ここでは対象外です。
自己負担には所得区分ごとの上限が設定されており、上限を超えた分は公費で負担されます。ただし、入院費や精神疾患と関係のない病気の治療費は助成対象外です。
制度を利用する際は、受診ごとに「自立支援医療受給者証」と「自己負担上限額管理票」を提示します。提示を忘れると一時的に3割負担となり、後日「償還払い」の手続きが必要になるため注意しましょう。
また、申請時に選択した医療機関・薬局でのみ利用できるため、変更がある場合は再申請が必要です。受給者証の有効期限は1年間で、更新は有効期限の3か月前から申請できます。手続きには通常1〜2か月ほどかかるため、早めの申請を意識しましょう。
診断書(意見書)は、治療内容が変わらない場合2年に1回の提出で済みます(「育成医療」「更生医療」の場合は、毎年必要)。
自立支援医療制度を活用することで、継続治療に伴う負担を抑えながら療養を続けられます。
3-2.小児慢性特定疾病医療費助成
小児慢性特定疾病医療費助成制度は、慢性的な病気を抱えるこどもの医療費を軽減するための仕組みです。対象は18歳未満の児童で、18歳時点で受給している場合は20歳未満まで延長できます。
対象となるのは、厚生労働省が定めた小児慢性特定疾病に該当する疾患で、疾病ごとに細かい基準があります。
たとえば、気管支喘息では「1年以内に3か月に3回以上の大発作があった場合」など、発作や症状の頻度が目安になります。
助成を受けると、医療費の自己負担は2割まで軽減され、さらに世帯所得に応じて月ごとの上限額が設定されます。また、年間6回以上医療費総額が5万円を超えるなど、重症患者の条件を満たす場合は「重症患者認定」が受けられ、上限額がさらに引き下げられます。
対象は指定医療機関での保険診療および入院時の食費です。
一方で、交通費や個室料金、文書料などの保険外費用は対象外となります。
助成の開始日は原則として申請日ですが、別途書類を提出すれば、診断年月日をもとに最大1か月さかのぼって受給開始が認められる場合があります。
医療費助成に加え、自治体によっては日常生活用具の給付制度が設けられていることもあります。該当するかどうかは、自治体の福祉課に確認しておくと安心です。
3-3.重度心身障害者医療費助成制度
重度心身障害者医療費助成制度は、重い障害がある方を対象に医療費を公費で補助する制度です。身体障害者手帳1〜3級程度の方(自治体によって異なる)がおもな対象となります。
重度心身障害者医療費助成制度では、あらゆる病気の治療に対して医療費の自己負担分が無料、または低額(500円程度など)になります。入院時の食費は自己負担ですが、それ以外の診療費は助成対象です。
制度の名称や対象基準は自治体によって異なります。
たとえば、広島市では1〜3級が対象ですが、他の地域では2級までに限定される場合もあります。そのため、必ず居住地の窓口での確認が大切です。
また、県外で受診した場合は、原則として一旦全額を支払い、後日自治体に申請して返金を受ける償還払いをしなければいけません。申請は身体障害者手帳の交付月にさかのぼって適用されます。
しかも、自立支援医療制度と併用できる点も特徴です。
ただし、自立支援医療によって自己負担が軽減された後、残額をさらに重度医療費助成で補う仕組みがとられています。
所得が基準を超えた場合や、障害等級が下がって対象外になった場合は、助成資格をさかのぼって失うケースもあります。
この場合、助成された医療費の返還を求められるため、所得変更や等級変更があった際は速やかに申告しておきましょう。
医療費助成制度を活用すれば、治療費や通院費の負担を大幅に軽減できます。制度ごとに対象や申請先が異なるため、まずは自治体の福祉課・保健センターで相談し、該当する制度のチェックが最初のステップです。
医療費だけではなく、補装具にも支給制度があります。知っているとお得な内容のため
ぜひチェックしてみてください。
参照:車椅子の購入は補助金を活用!補装具費支給制度の判定基準や支給までの流れを解説
4.障害児家族が知っておきたい税制優遇制度とは?

障害のあるこどもを育てる家庭では、医療費や生活費の負担だけでなく、税金面の支出も無視できません。
家計の負担を和らげるために、国では税制優遇制度を設けています。
ここでは、障害児家庭が利用できる代表的な3つの制度について解説します。
4-1.障害者控除
障害者控除とは、納税者自身、配偶者、または扶養している家族が「障害者」に該当する場合に、課税対象となる所得から一定額を差し引ける制度です。
目的は、障害による生活上の負担を考慮し、税負担の公平性を保つためにあります。
控除は障害の程度や同居の有無によって区分されます。下記の表を参考にしてください。
| 区分 | 所得税控除額 | 住民税控除額 |
| 一般障害者 | 27万円 | 26万円 |
| 特別障害者 | 40万円 | 30万円 |
| 同居特別障害者 | 75万円 | 53万円 |
たとえば、身体障害者手帳1・2級、精神障害者保健福祉手帳1級、療育手帳A判定などの人は「特別障害者」に該当します。
同居している場合は「同居特別障害者」として、より大きな控除が可能です。
16歳未満のこどもも、障害者控除の対象に含まれます。
また、相続税の控除も知っておきましょう。
相続人が85歳未満の障害者である場合も、相続税において控除を受けられます。
控除額は、85歳に達するまでの年数 × 10万円(特別障害者は20万円)が目安です。
ただし、障害者控除は自動的に適用されません。申告は本人がする必要があります。手帳の写しや市区町村発行の「障害者控除対象者認定書」の添付が必要です。
会社員の場合は、年末調整時に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に記入します。
年末調整で申請し忘れても、翌年の確定申告で5年以内なら申請可能です。
個人事業主の場合は、確定申告書で控除額を記入しましょう。
申請の際は証明書類をあらかじめ用意し、期限内に手続きを完了させてください。
参照:障害者控除|国税庁
どの区分に該当するかは、障害の程度や同居の有無によって異なるため、国税庁のホームページか、管轄の税務署に確認しましょう。
年末調整か、確定申告の際に申請することで控除が適用されますので、手続きを忘れずにしてください。
4-2.自動車税減免
障害のあるこどもの通院や通学のために車を利用する家庭では、自動車税の減免制度が活用できます。この制度は、障害児本人が運転する場合だけでなく、家族が送迎に使用する場合も対象です。
減免の対象は、身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳を持つ方のうち、一定の等級に該当する人、またはその家族となります。
普通自動車は都道府県税、軽自動車は市町村税に分類されるため、申請先は車の種類によって異なります。
減免の内容は、
- 自動車税(年税)の全額または一部免除
- 自動車取得税・軽自動車税の免除
などがあげられます。
手続きは、通常4月から5月の納税通知書が届く時期に申請します。手帳の写しや印鑑、車検証、申請書の提出が必要です。
ガソリンについても補助金が使えるケースがあります。詳しくは下記の記事をご覧ください。知らないと損する情報です。
参照:ガソリン代に障害者割引は適用される?自動車燃料費助成制度の対象者や申請方法
4-3.障害者等の少額預金の利子所得等の非課税制度(通称「マル優」)
マル優制度は、身体障害者手帳などを持つ方や、児童扶養手当を受けている母親などが利用できる非課税の貯蓄制度です。
マル優制度を使うと、預金や国債などにかかる利子が非課税になります。
非課税の対象と限度額を表にしました。参考にしてください。
| 種類 | 対象 | 限度額 |
| 一般マル優 | 預貯金・定期貯金 | 350万円まで |
| 特別マル優 | 国債・地方債 | 350万円まで |
合計で700万円までの元本に対して利子が非課税となります。
対象者は、
- 身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている方
- 児童扶養手当や遺族基礎年金、寡婦年金を受けている方
です。
利用する際は、金融機関の窓口で手帳や年金証書、マイナンバーカードを提示しチェックを受ける必要があり、登録された口座の利子が自動的に非課税扱いになります。
ただし、インターネット銀行など、一部の金融機関ではマル優を取り扱っていない場合があるため、利用を検討する際は、対応状況を確認しておきましょう。
金利が低い現状では大きな利子は期待できませんが、長期的に見れば税負担を抑える効果があります。
こどもの将来の貯蓄を考える際に、検討しておきたい制度のひとつです。
5.まとめ
障害のあるこどもを育てる家庭では、医療・生活・教育など、あらゆる場面で費用がかかります。家庭の負担を少しでも軽くするため、国や自治体はさまざまな支援制度を整備しているのです。
本記事で紹介した制度は、おもに以下の3つの柱で構成されています。
| 支援の種類 | 制度例 | 内容 |
| 手当(給付金) | ・特別児童扶養手当 ・障害児福祉手当 | 障害の程度や介護の必要性に応じて支給される現金給付。所得制限や定期報告が必要。 |
| 医療費の助成 | ・自立支援医療 ・小児慢性特定疾病医療費助成 ・重度心身障害者医療費助成制度 | 医療費の自己負担を軽減し、継続的な治療や通院を支える制度。 |
| 税制優遇 | ・障害者控除 ・自動車税減免 ・マル優 | 所得税・住民税・自動車税などの軽減、預貯金利子の非課税など。 |
上記の制度は、いずれも申請してはじめて運用されています。
条件を満たしていても、自動的に支給・適用されるわけではありません。制度を活用するには、情報を集めて自身で申請する姿勢が欠かせません。
とくに、税制優遇では「特別障害者」や「同居特別障害者」などの区分によって控除額が変わるため、療育手帳や身体障害者手帳の等級を確認し、もっとも有利な区分で申請しましょう。
手続きや対象条件でわからないケースがあれば、自治体の障害福祉課・保健センター・税務署に相談してください。ソーシャルワーカーや支援員など、専門職が具体的なアドバイスをしてくれます。
制度を理解し、適切に活用することで、日々の負担を減らしながら安心してこどもと向き合える時間を増やせます。受給可能な支援を逃さないよう、早めに確認・申請を進めていきましょう。
Ayumiには、障害児家族が経済的不安を感じる一因にもなっている「保育園に入園できない問題」を取り上げた記事もありますので、ぜひご覧ください。
参照:医療的ケア児の保育園・幼稚園への入園問題、その壁とどう向き合うか?













