令和3年(2021年)5月に障害者差別解消法の一部が改正され、令和6年(2024年)4月1日より民間事業者にも合理的配慮が法的に義務化されました。
これまで合理的配慮の提供義務は、行政機関や公共施設のみとされていました。
法改正によって、民間企業に義務付けられることでどのように対応すればいいのかお悩みの事業者の方も多いのではないでしょうか?
本記事では、合理的配慮の義務化に向けて事業者に必要な対応を具体例を交えながらわかりやすく解説していきます。
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目次
1.障害者差別解消法とは?
障害者差別解消法とは、全ての国民が障害の有る無しにかかわらず、分け隔てられることなく相互に人格と個性を尊重しながら共生する社会の実現に向けて誕生した法律です。
平成25年6月に制定されて、障害を理由として差別の解消を推進することが目的となっています。
障害者差別解消法の正式名称は「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」となり、大きくは不当な差別的取り扱いの禁止と、合理的配慮の提供が求められています。
対象となるのは行政だけでなく、民間企業も対象となっているのが特徴です。
また、障害者より社会的障壁の除去の意思表明があると、過重な負担にならないケースでは合理的な配慮をおこなう必要があります。
障害者差別解消法については、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
参照:【初心者向け】障害者差別解消法のポイントをわかりやすく解説します
2.合理的配慮とは?
2-1.合理的配慮の意味
合理的配慮とは、障害の有無に関係なくすべての人々が平等に社会生活を送れるようにするため、日常生活にあるさまざまなバリア(障壁)を取り除くための措置です。
例えば、健常者であれば問題なく乗り越えられる段差でも車椅子ユーザーの方にとっては、大きなバリアになります。
そのため、お店に入ることを諦めざるを得ないケースも出てくるでしょう。
しかし、お店の出入り口にスロープを設置したり、周りの人が車椅子を持ち上げて段差を超えられるようにしたりする措置をします。
これらの措置が社会的バリアを取り除くための「合理的配慮」であり、障害者が平等な社会生活を送るためには欠かせない考え方です。
参照:法改正を踏まえたコンプライアンス順守とブランディングの両立を考えている方はこちら
2-2.合理的配慮の対象者は?
合理的配慮の対象となる障害者は、次の通りです。
- (重度)身体障害
- (重度)知的障害
- 精神障害
- 発達障害
- その他の心身の機能の障害があるため長期にわたり職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者
合理的配慮の対象となる障害の定義は幅広く、長期にわたって日常・社会生活に制限を受けている人々が対象です。
つまり、法律に明記されている障害者(18歳未満の障害児も含む)とは、障害者手帳を持っている人だけに留まらず、心身に障害がある人で社会的障壁を感じているすべての人が合理的配慮の対象者となります。
また、障害を証明するための医師の診断書も必要ありませんが、職場での合理的配慮の提供を申請する際には、ひとつの資料の提出を求められる場合もあります。
2-3.合理的配慮の範囲
合理的配慮の対象者から配慮の希望を申し出があった場合、合理的配慮への対応が必要です。
また、事業者としての合理的配慮は、事務や事業の目的、内容、機能に沿って以下3つをすべて満たさなければなりません。
- 必要とされる範囲で本来の業務に付随する対応に限られること
- 障害のない人と比較して同等の機会の提供を受けるためのものであること
- 事務や事業の目的、内容、機能の本質的な変更は伴わないこと
合理的配慮の提供において、その提供に伴って負担が過重にならないことも要件となっているのが特徴です。
例えば、飲食店で障害のある人から食事の介助が要求されたとします。
そこで飲食店側が「食事介助が事業の一環でないこと」を理由に断った場合、合理的配慮の提供義務には反していないと判断されます。
合理的配慮が「過重な負担」になるかどうかは、主に以下の要素から状況に合わせて総合的かつ客観的に判断することが必要です。
- 事務・事業への影響の程度
- 実現可能性の程度
- 費用・負担の程度
- 事務・事業規模
- 財政・財務状況
ここまで紹介した基準に従って、個別のケースにおいて適切な判断が求められます。
参照:事業者による障害のある人への「合理的配慮の提供」が義務化されます|政府広報オンライン
3.合理的配慮が民間企業にも義務化されることでどう変わる?
合理的配慮が2024年から民間企業にも義務化されることで、事業者にはどのような影響があるのでしょうか?
ここでは、合理的配慮の義務化の背景や、民間企業が求められる具体的な対応について解説します。
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3-1.なぜ合理的配慮が民間企業でも義務化されるの?
これまで、合理的配慮の義務は国や自治体などの行政機関のみで民間企業は「努力義務」でした。
しかし、2021年5月に参議院本会議で障害者差別解消法の改正案に対する可決が行われ、2024年4月1日より民間企業にも合理的配慮が義務化されました。
義務化の背景には、障害の捉え方が「医学モデル」から「社会モデル」へと変化していることが要因の一つです。
障害における医学モデルとは、日常生活で受ける制限が「個人の障害や病気によるもの」であるという考え方です。
しかし、この考え方は障害で生じるバリアは個人的なものであり、障害者本人が解決すべき問題であるとも捉えられます。
一方で社会モデルは、障害で生じるバリアは「社会全体のものである」と捉え、必要な配慮や改善をしていくという考え方です。
こうした考え方の変化が強まっているため、今回の改正では合理的配慮の範囲を民間企業でも義務化したという背景があります。
医学モデルと社会モデルの違いについてさらに詳しく知りたいという方は、こちらの記事も参考にしてください。
参照:障害の社会モデルとは?具体例や医学モデルとの違いをわかりやすく解説!
3-2.民間企業はどのような対応が必要になる?
合理的配慮は「障害者差別解消法」と「障害者雇用促進法」の2つの法律で、それぞれ触れられています。
障害者雇用促進法では、以前から民間事業者の雇用分野での合理的配慮は法的義務とされていました。
つまり、雇用期間中は障害の程度に応じて仕事内容や勤務形態といった形で合理的配慮を提供するのは、これまでと変わらず企業側の法的義務です。
今回の改正では、雇用分野だけに留まらず、民間事業者はあらゆる分野で合理的配慮の提供を義務化されたというのがポイントです。
例えば、車椅子では取れないような高い場所に陳列された商品は店員が取って渡す、視覚障害者の方に商品の場所まで案内するなどといった措置が求められます。
合理的配慮が必要な場面では、個人の状況や環境、障害の種類に応じて総合的に判断し、適切に提供していく必要があります。
また、注意したい点として、合理的配慮を提供する義務が生じるのは、障害者本人が希望しており、事業者の過度な負担にならない場合に限られるということです。
例えば、聴覚障害があるからといって最初から筆談で会話しようとするのは、本人の求めている合理的配慮ではないかもしれません。
あくまで、障害者の意思を尊重した柔軟な対応が求められます。
また、合理的配慮を提供するにあたって事業者の過度な負担になる場合は、障害者に事情を説明して別の対応を考えるといった対策をとるのが有効的です。
合理的配慮で大切なのは、障害のある方と事業者の双方との「対話」の中で、両者が納得できる解決策を生み出していくことです。
参照:法改正を踏まえたコンプライアンス順守とブランディングの両立を考えている方はこちら
3-3.合理的配慮を提供しないことによる罰則はある?
今回「障害者差別解消法」と「障害者雇用促進法」の両方で義務化される合理的配慮ですが、提供しないことに対する具体的な罰則はありません。
ただし、障害者への不当な権利侵害や差別的な取り扱いが同一の民間事業者で繰り返し行われた場合、行政が民間事業者に報告を求めることができます。
具体例としては、介助者が同伴していない障害者のみでの入店を断る、障害者の方に物件を紹介しないなどといった事例です。
このような事例があって行政から報告を求められているのにも関わらず、報告を怠ったり虚偽の報告をしたりした場合には、20万円以下の罰則が課せられる可能性があります。
参照:障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(第六章 罰則 第二十六条)|内閣府
2024年3月、車椅子インフルエンサーとして有名な中嶋涼子さんがSNSで発信した以下の内容が、大きな反響を呼びました。
明らかにできないことを受け入れることは、合理的配慮ではありません。
ただし、以下のような対応を過度な負担なく対応する必要があります。
- 障害者に事情を説明して別の対応を考えるといった対策をとる
- 障害者と事業者の双方との対話の中で、両者が納得できる解決策を出す
- できない理由を明確に話す、無鉄砲な説明をしない
教訓として、どちらかの過剰な負担ではなく、対話をしながら最善策を模索することが求められます。
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4.合理的配慮の具体例をわかりやすく紹介
4-1.職場・学校における具体例
職場における合理的配慮には、以下のような具体例があります。
- 復職する精神障害の社員の時短勤務や休憩時間の調整
- 移動が困難な車椅子ユーザーにスロープの設置や席位置を配慮
- 口頭での理解が困難な知的障害の社員にイラストや写真入りのマニュアル
- 聴覚障害の社員と筆談、手話、コミュニケーションボードなどで会話
職場での合理的配慮は、2016年に施行された「障害者雇用促進法」で既に義務化されています。
ただ、法律の中では、具体的にどのような配慮が必要であるかについては明確化されていません。
障害者から合理的配慮の意思を表明された場合には、障害者と事業者の間で対話を重ね過度な負担とならないような配慮を提供する必要があります。
具体的な事例については、厚生労働省の「合理的配慮指針事例集」でさらに詳しく紹介されています。
学校における合理的配慮の具体例は、以下の通りです。
- 聴覚過敏の発達障害の生徒へ遮音用イヤホンの使用を許可
- 授業時における途中退出の許可
- 試験時における別室受験の許可
- 柔軟な教育課程の編成や教材等の配慮
- 教員、支援員の確保
学校における合理的配慮は、2007年に締結した「障害者の権利に関する条約」に基づいて、文部科学省によって公立の学校で取り組みや指導が行われています。
2024年4月1日からは、下記のような合理的配慮が、公立の学校だけでなく私立の学校でも法的義務化されています。
(1)障害者の権利に関する条約「第二十四条 教育」においては、教育についての障害者の権利を認め、この権利を差別なしに、かつ、機会の均等を基礎として実現するため、障害者を包容する教育制度(inclusive education system)等を確保することとし、その権利の実現に当たり確保するものの一つとして、「個人に必要とされる合理的配慮が提供されること。」を位置付けている。
引用元:資料3:合理的配慮について|文部科学省
4-2.飲食店における具体例
店舗における合理的配慮の具体例には、下記のような事例が挙げられます。
- 店舗の入り口などに段差がある場合はスロープの設置や入退店時を補助
- メニューや商品表示の説明をわかりやすくしたり、写真を活用したりする
- 視覚障害者へ口頭での説明や手のひらに文字を書いて(手書き文字)工夫
- 聴覚障害者に筆談・手話でのコミュニケーション
- 料金がわかるように表示板を見やすい向きに設置したり、紙に書いて渡したりする
- お会計を座席で行うようにする
- 本人の意思を十分に確認してから書類への記入やタッチパネル等の操作を代行する
上記のような事例の他にも内閣府のホームページには、さまざまな事例が記載されているので参考にしてみましょう。
具体例を見ていくと、合理的配慮を提供するには費用をかけずにできるものもありますが、スロープの設置など工事費用が必要な場合もあります。
そういった場合の補助として、自治体には、こうした合理的配慮の提供に係る費用を助成する制度があることをご存知でしょうか?
例えば、茨城県取手市では段差解消のためのスロープや手すりの設置費用を上限10万円まで助成する制度や、合理的配慮を提供するための物品購入費用の助成などが充実しています。
自治体の助成制度をうまく活用しながら、店舗にあった合理的配慮を実現していきましょう。
5.同時に広まっている「心のバリアフリー」とは?
合理的配慮を提供する上で欠かせないのが「心のバリアフリー」という考え方です。
心のバリアフリーは、政府が平成29年2月に閣議決定した「ユニバーサルデザイン行動計画 2020」において以下のように定義している考え方です。
様々な心身の特性や考え方を持つすべての人々が、相互に理解を深めようとコミュニケーションをとり、支え合うことです。
引用元:ユニバーサルデザイン 2020 行動計画|首相官邸
私たちが暮らす社会では、さまざまな障害を抱えた人が日々バリアを感じながら生活しています。
例えば、歩けることが前提で作られている階段は、健常者にとっては当たり前のことであっても、車椅子ユーザーにとっては大きな物理的バリアです。
この場合、エレベーターがある場所に案内したり、他のルートで目的地にいけないかを一緒に考えたりするといったコミュニケーションをとりながら、バリアを取り除こうとするのが心のバリアフリーを根底にした合理的配慮です。
このように、合理的配慮を提供する上では、さまざまな立場の視点で相手のことを理解し「何か自分たちにできることはないか」と考えることが欠かせないといえるでしょう。
心のバリアフリーを体現するためには、以下の3つのポイントが重要です。
(1)障害のある人への社会的障壁を取り除くのは社会の責務であるという「障害の社会モデル」を理解すること。
引用元:ユニバーサルデザイン 2020 行動計画|首相官邸(2017年2月ユニバーサルデザイン2020関係閣僚会議決定)
(2)障害のある人(及びその家族)への差別(不当な差別的取扱い及び合理的配慮の不提供)を行わないよう徹底すること。
(3)自分とは異なる条件を持つ多様な他者とコミュニケーションを取る力を養い、すべての人が抱える困難や痛みを想像し共感する力を培うこと。
1つ目は、障害は個人ではなく社会にあるという「社会モデル」という考え方を理解し、行動すること。
2つ目は、「障害者差別解消法」で禁止されている障害者への差別的な言動は行わないこと。
そして、3つ目は自分とは異なるさまざまな人とのコミュニケーションの中で、相手の立場に寄り添って共感することです。
この3つを意識して、社会の中にあるバリアに気付き困っている人がいたら、まずは声をかけてみるという行動を起こしましょう。
心のバリアフリーについてさらに詳しく知りたいという方は、以下の記事も参考になりますのでぜひご覧ください。
参照:心のバリアフリーとは? 基礎的な考え方や事例をわかりやすく紹介
6.店舗や商業施設のバリアフリー対策を総合支援する「バリアフリー認証」とは?
合理的配慮とは障害者の社会参加が前提となり、社会的障壁を除去することが重要です。
バリアフリー化を推進する上で、どのような形でおこなえば良いのか悩むことでしょう。
そこで、バリアフリー対策を総合支援する「バリアフリー認証」を取得することをおすすめします。
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バリアフリー認証の特徴は、当事者の経験や視点、感覚により調査することで、発生しがちな風評被害や控訴を回避できる点が挙げられます。
障害当事者の意見も取り入れて、1人でも多くの人に使いやすいバリアフリー対策をしていきたいという理念のもと、バリアフリー認証の取得により設備やサービス品質向上を目指しています。
参照:野村不動産投資顧問株式会社が資産の運用を受託する私募REITの保有物件であるプレナ幕張について、一般社団法人Ayumiのバリアフリー総合支援サービス「バリアフリー認証」の導入を決定|PR TIMES
Ayumiのバリアフリー認証については、以下のページで詳しく紹介しています。
7.まとめ
今回は、合理的配慮の義務化によって事業者に求められる対応と具体例について解説してきました。
2024年度4月1日より新たに必要となる「合理的配慮」は、障害に応じた個別のケースでの判断が求められます。
事業者・企業においては円滑な対応ができるよう、柔軟な受け入れ体制を整えておくことが重要です。
Ayumiでは、店舗や商業施設に特化したバリアフリー認証事業を行っていますので、ぜひご相談ください。
参照:バリアフリー認証