あなたは「バリアフリーって何?」という質問をされたら、どんなことをイメージしますか?多くの方は、駅や建物に設置されている「手すり」や「スロープ」を思い浮かべるのではないでしょうか。
しかし、バリアフリーの本来の意味は「多くの人には当たり前にできることでも、それをできずに不便を感じている人を思いやり、みんなが生活しやすい社会に変えていく」ことです。そうすることによって、みんなが笑顔になれるのです。
そこで今回は、バリアフリーについて言葉の意味だけでなく、具体的な事例などをあげて解説していきます。
目次
1.バリアフリーとは?
そもそも、バリアフリーという言葉は建設用語の一種でした。「障壁(バリア)を除く(フリー)」つまり、物理的なバリアを取り除き、特に高齢者や障害者が生活しやすくなることを意味します。
では、バリアとはどんなものでしょうか?
入り口の段差や階段、角度がきつい道路、電車とホームの隙間なども、バリアとなります。
しかし、物理的なものだけがバリアとは限りません。
バリアフリーとは、すべての人にとっての社会参加する上での社会的、制度的、心理的な障壁を除去するというのが本当の意味なのです。
バリアフリーは、みなさんが思っているよりも多く身近に存在し、私たちの日常生活の中にあります。
「スロープや手すり」もその一つです。誰にとってもわかりやすく、使いやすいものであり、何より存在する場所が特に多いものです。
この2つは、主に高齢者や車椅子を利用している方、障害のある方が円滑に移動するために作られています。
他にも、体に障害がある人のためのバリアフリートイレや、視覚障害の方や体の不自由な方が安全に横断歩道を渡れるように設置されている音響式信号などがあります。
どれも障害のある方、高齢者、さらには小さい子供などに使いやすいように設計されているのがわかるでしょう。
このように、私たちの日常はあらゆるバリアフリーで溢れていて、あなたもそれを感じることができるはずです。
バリアフリーという意味を正しく理解した上で、バリアフリーが必要な理由について考えていきましょう。
2.4つのバリアについて
具体的に「バリア」にはどのようなものがあるのでしょうか。社会の中にあるさまざまなバリアは、大きく4種類に分けられます。
2-1.物理的なバリア
物理的なバリアとは、公共交通機関や道路、建物などを利用する人にとって移動する時に困難が生じるものです。
例えば、駅のホームと電車との間にある隙間や段差、車椅子の人にとって手に届かない位置にあるエレベーターのボタンなどがあります。また、建物に入るまでの段差や滑りやすい床なども同様です。
2-2.制度的なバリア
制度的なバリアとは、社会の制度やルールにより、障害者が能力以前の問題で健常者と同じチャンスが得られないことです。例えば、施設における盲導犬同伴の受け入れ拒否、就職や入試、資格試験受験時に障害を理由とする受験制限などがあります。
Ayumiでは、障害者差別解消法についての記事があります。併せて下記もご覧ください。
参照:【初心者向け】障害者差別解消法のポイントをわかりやすく解説します
2-3.文化・情報面のバリア
文化・情報面でのバリアとは、障害者にとって健常者と同じ情報や文化活動の機会が得られないことです。例えば、タッチパネル式のみの操作版、手話通訳のないイベントや講演会、駅や車内での音声のみのアナウンスなどがあります。
また、ネットでバリアフリー情報を検索しても出てこない・辿り着けないという情報格差も、大きなバリアだといえます。
2-4.意識上のバリア
意識上のバリアとは、高齢者や障害者に対して「かわいそう」「気の毒」などと思う気持ちや偏見、差別を指します。また、無意識に点状ブロックの上に立ったり、物を置いたりする何気ない行動でも、視覚障害者にとっては心のバリアを作る大きな原因になります。
3.なぜ、バリアフリーという考えが必要なの?
バリアフリーとは、障害者や高齢者だけのものではありません。
例えば、段差はベビーカーを使用するママにとってもバリアとなります。このように妊婦の方やベビーカーを使用する親、骨折などの怪我をしている人など、多くの人に必要とされているのです。
加えて、日本では2007年に世界でも類を見ないスピードで超高齢化社会へ突入しました。厚生労働省の発表によると、65歳以上の高齢者は総人口の28%を占めるといわれています。
また障害者についても、内閣による調査では総人口の8%、約965万人が障害を抱えていることがわかっています。
高齢者と障害者、そしてベビーカーを利用する2歳未満の子供を合わせると約4,500万人を超える人がバリアフリーを必要としているのです。
バリアフリートイレを考えてみると、普通のトイレよりも広く作られていたり、手すりが付いていたりするため、車椅子を利用する方や高齢者はもちろんのこと、子供用ベットもあることで、誰でも利用できるようになっています。
このように、バリアフリーがあることによって、どんな方でも日常生活の中で困ることがないようになっているのです。
4.バリアフリーの身近な実例や工夫を紹介!
バリアフリーは決して特別なものではなく、日常にも溢れています。
その一つが近年普及が進んでいるノンステップバスです。
元々バスの車高は高く、車椅子利用者はもちろん、お年寄りや妊婦の方にとって、とても不便な設計になっていました。
しかしノンステップバスでは、乗降口や車内に段差がないだけでなく、車椅子スペースも完備しており、快適に利用ができるようになっています。
また音声案内も、主に視覚障害者の方にとって暮らしやすい工夫です。点字ブロックと併用し、音声案内があることで、どこに何があるのかを把握でき、外出の手助けとなっています。
2022年に誕生した「エキマトペ」は、駅のホームの環境音を可視化し、聴覚障害者が安全に電車を利用できるように工夫してあるバリアフリーな設備です。
エキマトペをデザインした、株式会社方角・代表取締役の方山れいこさんの記事は下記からご覧ください。
参照:エキマトペを開発した株式会社方角 代表方山れいこさんが変える社会の在り方とは?
このように街を見渡すと、バリアフリーな取り組みはたくさんあります。みなさんも街中のバリアフリーを探してみてください。
5.日本ではバリアフリー化が進んでいるの?海外と比べた日本の現状
では、日本でバリアフリーはどのくらい浸透しているのでしょうか?
先ほど述べた通り、物理的なバリアフリーはあらゆるところで見られるほどに広がっています。
特に、私たちが日常的に利用する駅でのバリアフリーは、他の国との違いが顕著だといえるでしょう。
日本の駅のうち、1日に平均3,000人以上が乗降する鉄道駅の94.3%には、視覚障害者誘導用ブロックが設置されています。さらに、バリアフリールートが最低1つはある駅が89%と、バリアフリーに配慮された駅が多いです。
参照:日本のバリアフリーは進んでいる? 交通機関と歴史的建造物のいま|日本放送協会
ロンドンやパリといった海外の大都市では、そもそも地下の駅にエレベーターがないところもあり、バリアフリーを必要とする人にとって非常に不便になっています。
一方、ホテルや賃貸住宅では、海外と比べて遅れています。
国土交通省は、床面積2,000㎡以上かつ客室総数50室以上のホテルを新築及び増設する場合は、建設する客室総数の1%以上のバリアフリールームを設置することを義務化しています。
参照:ホテル又は旅館における高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準(追補版)の概要|国土交通省
しかしながら、フランスではバリアフルルームを各階に1つ設置していたり、トルコや南アフリカは50室に1つ設置するなど、ホテルに関するバリアフリーは世界と比べてあまり進んでいません。
また、バリアフリーの情報開示も遅れているのが現実です。
当事者にとって、それを最も痛感するのは住宅選びではないでしょうか?
日本では、バリアフリーな賃貸物件は多くありません。また、こうした情報は不動産ポータルサイトでも掲載されていないことがほとんどで、実際に見つかっても不動産会社やオーナーから車椅子というだけで契約を断られるケースもあります。
超高齢者社会の日本でも、まだまだバリアフリー整備の必要性は感じられます。また物理的バリアフリーと共に大切なのは、心のバリアフリーです。
6.SDGsにおけるバリアフリーの定義
SDGs(持続可能な開発目標)とは、国際連合が2016年から2030年までに定めた国際目標です。目標は17個あり、その中にもバリアフリー化の取り組みが意義されています。
国際連合広報センターで詳細が確認できますので、気になった方は下記からご覧ください。
目標11「住み続けられるまちづくりを」は、すべての人にとって住みやすい都市を目指すもので、以下のようなターゲットを示しています
2030年までに、女性や子ども、障害のある人、お年寄りなど、弱い立場にある人びとが必要としていることを特によく考え、公共の交通手段を広げるなどして、すべての人が、安い値段で、安全に、持続可能な交通手段を使えるようにする。
引用元:11.住み続けられるまちづくりを|公益財団法人日本ユニセフ協会
2030年までに、特に女性や子ども、お年寄りや障がいのある人などをふくめて、だれもが、安全で使いやすい緑地や公共の場所を使えるようにする。
このようにバリアフリー化は世界的にも重要視されており、今後ますます必要な取り組みなのです。
7.バリアフリーとユニバーサルデザインの違いを説明
バリアフリーとよく似ている言葉に「ユニバーサルデザイン」という言葉があります。違いがわからないという人も多いでしょう。
簡単に言うと、バリアフリーは主に障害のある方や高齢者などに配慮されたもので、ユニバーサルデザインは障害の有無に関わらず、個人差や国籍の違いなどにも配慮されているものです。
つまり、ユニバーサルデザインはバリアフリーをさらに一歩進めた考えだと言えます。
具体例としてはシャンプーのボトルの凹凸や、センサー式蛇口、ピクトグラムなどがあります。どれも身近なものですね。
シャンプーのボトルの凹凸は、視覚障害の方だけに向けたものではなく、頭を洗っていて目を瞑っている人のためでもあります。センサー式蛇口は、手に障害がある人や握力の弱い子供、高齢者などにとっても便利なものです。
また、ピクトグラムは、日本語がわからない海外からの旅行客や、細かい文字が見えにくい高齢者など、国籍を問わず誰でも一目でわかるようにデザインされています。
さらに最近では、従来の商品やサービスに不便を感じる特定の人たちを排除することなく、包括しようという考え方から、多様性を尊重しながら人権に配慮するインクルーシブデザインの考え方が広まりつつあります。
ユニバーサルデザインは、利用する方の状況や能力に起因せず、可能な限りすべての方が利用できる汎用的なデザインのことである一方、インクルーシブデザインはターゲットとなる人の目線に立ってデザインするプロセスを踏むという点に大きな違いがあります。
例えば、NIKEの「ゴーフライイーズ」や、TOTOの「パブリックトイレ」などがあります。詳しくは下記の記事をご覧ください。
参照:インクルーシブデザインとは?ユニバーサルデザインとの違いを6つの事例を用いて解説!
また、アメリカにはユニバーサルデザインの公園もあります。
子どもの成長過程に応じた遊具や、視覚障害に配慮しエリアごとに装飾を変えていたり、砂場は高さを設け車椅子に乗ったままでも一緒に遊べたりするなど、至る所に工夫がされています。
しかし、ユニバーサルデザインを実現するには、広い土地面積と資金が必要となります。公園のような自治体の施設や公共交通機関、商業施設では実施できても、個人店で実用するにはハードルが高いといった現実もあるのです。
その一方で、最近の日本では障害の有無、子どもか大人かに関係なく、すべての人が利用できるインクルーシブデザインの公園が増えてきています。具体的な内容については下記の記事をご覧ください。
参照:インクルーシブ公園とは?誰もが遊べる遊具で車椅子でも楽しめる工夫を実例とともに紹介!
8.心のバリアフリーとは?
ここまで、「物理的なバリアフリー」について説明してきましたが、ここからは目に見えない、「心のバリアフリー」について説明していきます。
まず、「心のバリアフリー」とはなんでしょうか。
一般的に心のバリアフリーとは、さまざまな心身の特性や考え方をもつすべての人々が、お互いに理解を深めようとコミュニケーションをとり、支え合うことをさします。
では、私たちが心のバリアフリーを体現するためには、何が必要なのでしょうか。
首相官邸の資料によると、心のバリアフリーを体現するため必要なこととして、下記の3つのポイントを挙げています。
1.障害のある人への社会的障壁を取り除くことは社会の責務であると理解すること
2.障害のある人、及びその家族への差別を行わないよう徹底すること
3.他者と交流する力を養い、人が抱える困難や痛みを想像し共感する力を培うこと
日本においては、学校教育の中で健常者と障害者は分けられて教育を受けています。また、社会に出てからも障害者は施設などの分けられた環境で働くことが多いため、障害者に対して「特別な人」という接し方になっています。
しかし「心のバリアフリー」を実現させるためには、就労体験やイベントを通じてお互いを知り、一緒になって楽しむことが必要不可欠なのです。
具体的には
・広告やポスターでの啓蒙
・心のバリアフリーノートの活用
・動画などのメディアを通じた啓蒙
・有識者による講演会
などが挙げられます。
心のバリアフリーについてさらに詳しく知りたいと思われた方は、下記の記事を是非ご覧ください。
参照:心のバリアフリーとは? 基礎的な考え方や事例をわかりやすく紹介
最後に、私たちにできる活動を考えてみましょう。
9.バリアフリーな社会の実現に向けてできること
バリアフリーの実現に向けて、私たちにできることは沢山あります。
車椅子ユーザーによると、「日本では心のバリアフリーがあまり浸透していない」と感じる方も多いようです。
日本でも、足の不自由な人が電車に乗る際に手を差しのべる人や、視覚障害のある方をホーム内で誘導している人などを見かけますが、海外に比べるとまだ少ないと言われています。
また、法整備という面では、2020年にバリアフリー法改正が行われましたが、それでもまだ数年前のことであり、十分にバリアフリーが浸透しているわけではありません。
したがって、誰もが今よりもっと暮らしやすい生活を作るためには、一人ひとりが心のバリアフリーを広げていくことが大切だと言えます。
例えば、段差のあるお店の前で困っている車椅子利用者を見かけたら、近くにいき「何かお手伝いすることはありますか?」と声をかけることも、バリアフリーへの一つの取り組みです。
ベビーカーを押すママ・パパや高齢者、妊婦の方に対しても同様に困っていたら、まずは声をかけてみましょう。わからないから離れるのではなく、わからなければ聞くことを意識してください。
あなたにもできることが、必ずあるはずです。どんなに小さなことでも、少しずつ行動していくことが、日本全体に心のバリアフリーを浸透させることに繋がるでしょう。
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10.最後に
今回の記事はいかがでしたか。
心のバリアフリーを広げるために、今からできることはたくさんあります。しかし、具体的に何をやれば良いかわからないという方もいると思います。
まずは、バリアフリーについての知識を広げられると、出来ることも少しずつ見えてくるかもしれません。
Ayumiでは、普段から利用する機会の多い外食チェーン店や新幹線の乗り方などさまざまな視点から見たバリアフリー関連の記事を公開しています。気になる記事があれば、ぜひ読んでみてください。
参照:【意外と知られていない!】バリアフリー対応をしている大手外食チェーンのお店3選♪
参照:【初心者向け】新幹線に乗って車椅子で旅行を快適に楽しむためのポイントをまとめました!