インクルーシブデザインとは?ユニバーサルデザインとの違いを6つの事例を用いて解説!

ユニバーサルデザインの手すり

2006年12月にバリアフリー新法が施行されて以降、より多くの対象施設が増えている状況です。

法令に対応するために増加している一方で、違う観点で見るとインクルーシブデザインが普及しているともいえます。

障害者にとって、インクルーシブデザインは使いやすさが重視されている場合が多く、誰にでも優しい社会の実現に向けて良い傾向にあります。

では、インクルーシブデザインとはいったいどのようなデザインを指すのでしょうか?

本記事では、インクルーシブデザインの概要やユニバーサルデザインとの違いなどを紹介します。

インクルーシブデザインを採用している事例も併せて紹介するので、ぜひ参考にしてください。

1.インクルーシブデザインとは?

多目的トイレ

インクルーシブデザインとは、障害者や高齢者、外国人など、従来のデザインプロセスから外れている方でも使えることをコンセプトとしたデザインのことです。

売れる商品を開発するためには、市場規模の大きなポイントを狙うのが鉄則であり、どうしてもマイノリティが除外される傾向にありました。

一方で、インクルーシブデザインは真逆であり、マイノリティの方が実際に使用するシーンを想定してデザインするのが特徴です。

1-1.インクルーシブとは「包括的」という意味

インクルーシブデザインの「インクルーシブ」とは、英語で「包括的」という意味です。

たとえば、障害の有無や性的嗜好、人種などの違いをお互い認め合い、仲間外れにせずみんないっしょに生きていく社会のことを、インクルーシブ社会と呼んだりします。

こちらも、似た言葉である「ダイバーシティ」と同様、障害者などのニーズをデザインの上流に取り入れているという特徴があります。

1-2.インクルーシブデザイン誕生の歴史

インクルーシブデザインが誕生したのは、1990年代前半のことです。

イギリスのロンドンにある国立美術大学「ロイヤル・カレッジ・オブ・アート」において、当時名誉教授を務めていたロジャー・コールマン氏が提唱したことがきっかけで誕生しました。

ロジャー・コールマン氏は、車椅子を使用する友人より、自宅キッチンのデザインを依頼され、車椅子を利用している方であっても使用しやすい機能性を考慮したデザインを提案しました。

ただし、友人はほかの人でも羨ましがられるようなキッチンを希望していたのです。

この経験から、コールマン氏は機能面を重視するだけでなく障害者と同じ目線となってニーズにマッチしたデザインを取り入れることの重要性に気づきました。

そして、彼が提唱したインクルーシブデザインが多くの国に広まって、日本でも浸透するようになりました。

参照:インクルーシブデザインについて|株式会社ネクストソリューションズ


2.ユニバーサルデザインとの違い

 南北線六本木一丁目駅ホームのエレベーター

インクルーシブデザインと似たデザインの考え方として、ユニバーサルデザインがあります。

ユニバーサルデザインとは、利用する方の状況や能力に起因せず、可能な限りすべての方が利用できる汎用的なデザインのことです。

「ユニバーサル」には、「すべてに共通」という意味合いがあるため、あくまでも汎用的なデザインを取り入れることになります。

一方でインクルーシブデザインの場合は、ターゲットとなる人の目線に立ってデザインするプロセスを踏むという点に、ユニバーサルデザインとの大きな違いがあります。

インクルーシブデザインとユニバーサルデザインの違いをまとめた結果が、こちらです。

 インクルーシブデザインユニバーサルデザイン
ターゲット障害の有無や人種の違いなど特定の制約がある方すべての方
デザインの特徴ターゲットの意見を最大限取り入れたデザインを採用汎用性の高いデザインを採用


上記のような違いがあるものの、従来の商品やサービスでは除外されていた方が使いやすいものを目指すという点は、どちらも同じです。

参照:インクルーシブデザインが、誰ひとり取り残さないイノベーションを生み出す。|大和ハウス工業株式会社


3.インクルーシブデザインの実例6選

3-1.赤ちゃんから大人になっても使える椅子「TRIPP TRAPP」

椅子は、通常は子供サイズと大人サイズがあり、子供サイズの椅子は大人が使用することができません。

また、大人サイズの椅子を赤ちゃんが使用するのも高すぎるのでそのまま使用すると危険な目に遭う可能性があります。

北欧のノルウェーに本拠地を構えるストッケというメーカーが発売している「TRIPP TRAPP」は、赤ちゃんから大人になっても使い続けることができる椅子として有名です。

何歳になってもちょうど良いサイズで使用できるデザインは、快適さと優れた人間工学に基づいてデザインされています。

TRIPP TRAPPのデザイナーであるピーター・オプスヴィック氏は、息子が2歳の時に使用していたベビーチェアが身体に合っていないことに気づきました。

そして、左右のL字フレームに存在する14段階のみぞに沿って、座面の板と足を載せるための板を自由に調整できるチェアをデザインしたのです。

子供がダイニングで座る椅子が快適であれば、椅子に長く座れることにより食卓にも長くとどまることになります。

ダイニングで家族団らんに過ごせば、子供が社会性や情緒を養えるなどの付加価値も得られるなど、インクルーシブデザインの原則にも沿っています。

北欧のメーカーらしく、お洒落で洗練されたデザインである点も魅力的ですね。

参照:ストッケのハイチェア「トリップ トラップ」人気の理由と購入のベストなタイミングは|ストッケジャパン


3-2.シチズン「触って時間を知る時計」

時計メーカーとして有名なシチズンは、1918年に創業して以来お客様の立場に寄り添うスタンスを貫いています。

シチズンでは、古くから視覚障害者に対応した腕時計を開発・販売しています。

国産初の「触って時間を知る時計」を開発したのは、なんと1960年頃のことです。

最新型のAC2200-55Eでは、随所にインクルーシブデザインを取り入れて、より視覚障害者でも使用しやすく進化しています。

AC2200-55Eの開発の課程においては、タイのロッブリー県にあるロッブリー複合視覚障害者学校の教員や生徒の方の意見が随所に取り入れられているのが特徴です。

AC2200-55Eで特にこだわっている個所は、いかにも視覚障害者が身に付ける時計というイメージを払拭したデザインを採用した点です。

実用性とデザイン性を重視した腕時計は、ファッションアイテムとしても活用できます。

文字板を触って時間を確認できるデザインとなっており、機能性だけでなく耐久性も高まった完成度の高い腕時計となっています。

参照:触って時間を知る時計|シチズン時計株式会社

時計に関連して、視覚障害者に対して有効的な表現方法であるクロックポジションについて、こちらで詳しく解説しているのでぜひ参考にしてください。

3-3.NIKE「ゴー フライイーズ」

斬新なテクノロジーを惜しみなく投入することで有名なNIKEでは、「ゴー フライイーズ®︎」というスニーカーでインクルーシブデザインを採用しています。

ゴー フライイーズ®︎は、開発の時点で障害者の意見を取り入れて、シューズの着脱が容易におこなえるようにデザインされています。

シューズを履く際に、踵から踏み込めば持ち上がったパーツが沈んで同時にロックがかかる仕組みとなっているのです。

ソールユニットのクッショニングが柔らかく、自然と前に脚を運べるように若干のロッカー構造となっている点にも注目です。

カラーバリエーションも多く、ファッション性を求める方にも人気のシューズとなっています。

誰でも簡単に履けるという理由で、手が不自由な障害者だけでなく妊婦や子育て世代の方にも高い人気を誇っています。

参照:ゴー フライイーズ®︎|NIKE

ゴー フライイーズ®︎については、こちらで詳しく解説しています。

参照:障害者の声が反映された靴、手を使わず履ける「ゴー フライイーズ®︎」とは?

3-4.TOTO「パブリックトイレ」

TOTOの「パブリックトイレ」とは、主に公共施設などで採用されているトイレシリーズです。

パブリックトイレは、洗練されたデザインと豊富なバリエーションがあり、多様な空間に調和するトイレとなっています。

快適性が高いだけでなく、節水や省エネなど環境面にも配慮している特徴があります。

単純に便器だけの提供ではなく、車椅子使用者トイレでありがちな、多目的化に伴う混雑の発生を緩和して使いやすいトイレの実現に向けたデザインが提供されている点にも注目です。

広めのブースを設け、そこにオストメイト対応流しや乳幼児向けのおむつ交換設備をレイアウトするなど、誰でも使いたいときに使えるトイレの実現に向けてさまざまな取り組みがおこなわれています。

参照:パブリックトイレの空間づくりのポイント|TOTO

トイレのバリアフリー化については、こちらでも詳しく紹介しています。

参照:【ホテルのトイレを攻略】自らの経験と知恵でトイレをバリアフリーにしよう

3-5.都立砧公園遊具広場「みんなのひろば」

東京都世田谷区にある都立砧(きぬた)公園では、2020年3月に遊具広場として「みんなのひろば」がオープンしました。

砧公園自体が、都内屈指の広さで美しい花々や思いっきり遊べるスペースがある公園として人気ですが、誰でも当たり前のように利用できて、共に楽しめる遊び場をコンセプトとして、面白い造形が目を引く遊具広場が存在します。

こちらでも、音や手触りなどの感覚も活かして遊べる遊具が満載です。

車椅子の方でも容易に移動できるように設計されており、また通路には転倒しても怪我しにくいようにゴムチップ舗装がなされています。

高さや広さが異なるベンチやテーブルが園内に配置されているなど、配慮はあれど区別はしない遊び場として注目を集めています。

参照:あたらしい世田谷|株式会社世田谷サービス公社


3-6.服のお直しサービス「キヤスク」

魅力的な服を見つけても、障害があることによって着ることができないというケースが多々あります。

そこで、自分の身体に合わせて服のお直しをしてもらえるサービスとして「キヤスク」が人気です。

キヤスクは、2022年度のグッドデザイン・ベスト100とグッドフォーカス賞を受賞するなど、高い注目を集めています。

実際にお直しする際には、オンラインでのヒアリングや写真などでイメージを伝えるだけでなく、実際に手元に服が届いた後にも再度チェックして理想の服を実現することをサポートしてもらえます。

誰もが服選びの選択肢を持つことができるキヤスクは、魅力的なサービスのひとつです。

参照:キヤスク|株式会社コワードローブ

障害者向けのファッションブランドは、こちらで詳しく解説しています。

参照:障害の有無に限らずおしゃれを楽しみたい!みんなが着やすいファッションブランド7選!


4.インクルーシブデザイン7つの原則

Toilet sign for everyone for inclusive and universal design concept作成者 alice_photo
Toilet sign for everyone for inclusive and universal design concept
作成者 alice_photo

4-1.同等の体験を提供する

インクルーシブデザインでは、すべての利用者が同じ経験を得られるようにデザインすることが大前提となります。

たとえば、代替テキストや音声解説、手話などの代替コンテンツ、人間工学に基づいた機能として色や表示位置を変えるなどのデザインが必要です。

参照:インクルーシブデザインの原則|Inclusive Design Principles


4-2.状況を考慮する

商品やサービスを利用する場合、必ずしもすべての方が同じ状態で利用するわけではありません。

インクルーシブデザインの原則では、どのような状態に置かれている方でも同じ体験ができるようにすることが求められるのです。

たとえば、コントラストの確保による屋外でも見やすいカラーリングの採用や、利用者の状況に即して内容が変化するヘルプ機能などがあります。

参照:インクルーシブデザインの原則|Inclusive Design Principles


4-3.一貫性を保つ

インクルーシブデザインでは、利用される方にとって馴染み深い慣例やパターンを一貫して適用することが求められます。

一貫したデザインにより、どのような方であっても迷わず利用できるようになることが重要なのです。

デザインガイドラインに従ったり、一貫したパターン・ページ構造を採用し、利用しやすいようにデザインする必要があります。

参照:インクルーシブデザインの原則|Inclusive Design Principles


4-4.利用者に制御させる

インクルーシブデザインでは、利用する方が自ら制御できるデザインとしなければなりません。

自らがデザインした内容を押し付けるのではなく、利用者が自分好みにカスタマイズできる余地を残すことが重要です。

たとえば、ブラウザやプラットフォームのフォントサイズや方向、コントラストなどは、利用する方が使いやすく変更できるようにしなければなりません。

また、利用する方が望まないコンテンツの変化を避ける必要があります。

参照:インクルーシブデザインの原則|Inclusive Design Principles


4-5.選択肢を与える

インクルーシブデザインでは、利用する方すべてが、タスクを完了させるための選択肢を準備することが重要です。

例として、すべての方が使用できるように、ボタンやリンクを設置して同じようにタスクを完了させられるようにデザインする必要があります。

参照:インクルーシブデザインの原則|Inclusive Design Principles


4-6.コンテンツの優先順位を決める

インクルーシブデザインでは、コンテンツやレイアウトに対して優先順位を付ける必要があります。

例としては、「よくある質問」などのコンテンツにおいて、アコーディオンを使用すれば利用する方が見たい情報だけをスピーディーに確認できます。

ほかにも、メーラーで使用する機会が多い「メール作成」ボタンを目立つ位置に配置するなどの対応が挙げられます。

参照:インクルーシブデザインの原則|Inclusive Design Principles



4-7.付加価値をつける

7つ目の原則として、利用する方に対して付加価値を与えるデザインを採用する必要があります。

代表的な方法として、デバイスのマイクやカメラ、バイブレーション、ジオロケーション機能の活用が挙げられます。

また、パスワードを入力するフォームは通常「***」と表示されるのに対して、パスワードを表示できるボタンを追加して入力した文字をチェックできる機能を実装するのもおすすめです。

参照:インクルーシブデザインの原則|Inclusive Design Principles


5.最後に

 unsplash.com/ja/写真/紙の近くでペンを持っている人
unsplash.com/ja/写真/紙の近くでペンを持っている人

インクルーシブデザインでは、従来は注目が集まらなかった障害者などの意見を取り入れて、使いやすいデザインを採用する特徴があります。

また、それゆえに、幅広い方に向けて有益な商品やサービスが多いです。

今回紹介したように、多くのシーンでインクルーシブデザインの商品やサービスが提供されているので、ぜひ有効活用しましょう。

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